第95話 ツンデレ
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最強と聞いて真っ先に反応したのは、ピピさんだった。
「最強とは、大きく出たもんじゃの」
至極冷静で、もっともなリアクションだ。外との交流を完全に絶っているのであれば、“覇者”という言葉も恐らく知らないだろう。
……物差しを示した方がいいか。
「えぇと、今から魔力の制御を解くので、襲い掛かったりしないで下さい。……あぁ、金剛、セリンさん、ヘラさんも聞いて下さい。今から全力の魔力を出します。これから来る“勇者”の実力を測る物差しを提示する必要があるので」
「了解よ!」
「あぁ」
「そういや、何気にテメェの本気を見るのは久しぶりだなァ」
外にいる間は基本的に“中火”だ。もしかすると、俺の魔力制御は呼吸よりも自然に行えているかもしれない。カチリと、つまみを“強”に変えて“ストレングス”を発動する。
一瞬、ピピさんの腰が浮いたのが見えた。やはり前もって注意しておいて良かった。今のを“敵意”と捉えられてペナルティーが発生していたら本当に笑えない。
「……なるほどの。まさか、我が輩が魔力総量を誤魔化されることがあろうとはな。つまり、助っ人さんもそのくらい強いということかの?」
「いえ、僕が5人いても勝てないと思います」
「なぬっ!?」
共鳴石を貰ったあの日から俺は随分と成長したし、“十指”クラスならタイマンでも良い勝負が出来る自信がある。
だけど、強くなったからこそ分かる。“勇者”の壁は、見上げていると首が痛くなる。
「……お主が味方で良かったわい。今の言葉が真実なら、我が輩が2人いないと勝てぬ計算になる」
「ご謙遜を」
とは言ったものの、実に正確な見積りだと思う。接近戦ならともかく、魔力量の差が相当開いている。2人いれば数の有利で勝てる可能性は十全にあるだろう。
彼女もまた、十分に“人外”だ。
「いいねェ、滾るねェ。後で相手しろよ」
どちらかというと、コイツは論外だ。
「あ、そうだ。セリンさん、ここから本気で王国に向かった場合、何日かかりますか?」
「オイコラ」
「2日……、いや、余裕を持って3日は欲しいな」
「チッ。覚えてろよ?」
はいはい。後でね。
しかし、予想と大方一致する値ではあるけど、改めてとんでもないな。王国からネルー湖までざっくり2,000キロメートルはあるんだぞ?鹿児島から岩手くらいの距離だぞ??
「有難うございます。だったら、殿下も同じ日数で着きますよね」
「あぁ、義理堅い王子であれば2日で着くだろう」
「どうかしたかの?」
「いえ、少し確認を取っていました。これから来る助っ人……、レイドリス王子と言うのですが、早ければ2日で着くと思います」
「有難いのぉ、ニャラよ」
「……何故、そうまでして協力する?“災厄”の地は湿地だけの筈だ」
疑いたくなる気持ちは分かる。普通に考えたら、完全な部外者である俺達に彼らを救うメリットは無い。
だがしかし、俺や金剛には“契約”がある。あの詐欺女神に結ばされた絶対順守のルールがある。とびっきりのペナルティー付きの。
それに……。
「人が大勢殺されると知りながら動かないなんて、夢見が悪過ぎてできませんよ」
「損な性格だな」
おぉ、初めて笑った。笑ったと言うより、口角がほんの少し上がったと言う方がより正確だけど。如何せんお顔が凶悪だから、正直怖い。
「いえ……、まぁ、それ程でもあるかもしれません」
契約のことを黙っていたせいか聖人の類だと思われたようだが、敢えて訂正するのは止めておこう。
信頼関係が築けていないと、今回の“災厄”を乗り切るのは難しいからな。騙すようでほんの少し気が咎められるが。
「そうだ、今後の件についてお話があるのですが」
「何だ」
「ピピさんに体術を教えてほしいのです。“災厄”までにたとえ僅かでも強くなっておきたくて……」
万が一にも、後悔はしたくない。
ニャラさんがチラリと目配せをする。頷くピピさん。
「良いじゃろう。我らにも十分な利益があるでな」
「恩に着ます。多分、いや、十中八九後ろのヘラも勝手に混ざってくるかもしれませんが……」
「よいよい、寧ろ我が輩が拘束した方が問題は起きなさそうじゃ」
この短時間でよく理解していらっしゃる。
「重ね重ね、有難うございます」
「……さて、集落の者も先程の魔力解放が気になって仕方がない筈じゃ。ちと説明に行ってくる」
「すみません。宜しくお願いします」
よいよい、と手を振って出ていくピピさん。あれが長く生きた人の余裕か。
……あれ?そう言えば、道中に魚人族で年老いた方は見かけなかったな。
外見の話で言えばピピさんも若過ぎるくらいに若いんだけどさ。
「ニャラさん、この集落に年老いて動けない方はいらっしゃらないのですか?“災厄”が来た時に子供やご老人だけでも避難させた方がいいのかなぁと考えたんですけど」
「いない。我らは多産で、例外を除いて寿命は長くない。死期を悟った者は皆、一様に湖に向かい、そして還る」
「……なるほど」
「子供については、確かに湖に避難させるべきだろう。こちらで伝えておく。まだ質問があるのか?」
「いえ、今のところは」
「そうか。儂の家は広い。ここで寝泊まりするといい」
「良いんですか?」
ぶっちゃけ野宿も覚悟していたのに。素直に有難い。
「監視の意味もある。勘違いするな」
顔を背けながら言われたのも相まって、ツンデレにしか見えない。ここまで需要の無いツンデレがあるだろうか、いや、無い。
需要と供給の話はさておき、礼を欠いてはならない。感謝の意を伝えよう。
「有難うございます」
「直に妻が帰る。覚悟をしておけ」
「あ、はい。……え?」
覚悟?今、覚悟って言ったのか?
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