第94話 助っ人
いつも読んで下さり有難うございます!
ヘレと別れてから案内されること数十分。どうやら魚人族の村に到着したらしい。
“らしい”というのも、彼らの集落には柵や城壁といった“仕切り”が存在しないため、どこからが村なのかが今一ハッキリとしないのだ。
ピピさん曰く、「いつ頃からかは我が輩も把握しておらぬが、我らは外界との交流を絶って久しい。しからば内と外の境界なぞ無いも同然。即ち、“区切る”必要が無いのじゃ」だとか。
国境は、交流のある国家間の境目を明確にするために引かれている。しかし、魚人族は現在外交を絶っている。つまるところ、彼らには“外”が存在しないというわけだ。
“外”からの干渉が無い状況が続けば、時の流れによって“仕切り”が消滅してもおかしくはない。
そう、干渉が無ければ。
故に、“外”から来た人間が気になって仕方がないのだろう。視線が四方八方から突き刺さって居心地が悪いのなんの。
言葉を理解できない金剛やセリンさん、ヘラはもっと居心地が悪いに違いない。
「誰も突っかかっては来ませんが……」
「なっはっは!すまんのぉ、なんせお客人には慣れておらぬ上に、時期が悪い」
「時期?」
「もうすぐ雨季じゃ。それも“雨禊の儀”を控えた、な。」
「あまそぎのぎ……?」
初めて耳にする単語だ。響き的に何らかの儀式っぽいけど。
「うむ。先も話したように、集落には明確な“区切り”が無い。幾つもの群れが適当な間隔で存在するだけじゃ。その群れをまとめるのが“長”の役目。では“長”は誰が決めるのか、といった問題が生じるじゃろ?」
「えぇ、確かに」
実力で決めるのか、話し合いで決めるのか。決め方は無数にある。話の流れから察するに……。
「なんとなしに分かったようじゃな。お主の想像通り、儀式によって決める。誰が、と言えば、我らの信ずる神じゃな。水神様と呼ばれておる。」
「すいじん様……ですか」
十中八九、ソイツも詐欺女神だな。
「左様。3年に1度、現在の“長”と次代の“長”の夢に水神様は現れる。双方の申告に食い違いが無ければ、滞り無く儀式は完了するのじゃ」
随分と信用ありきな手続きで継承するもんだ。
「食い違いがあった場合はどうなるのですか?」
「長を騙る愚か者は直ぐに死ぬ。真の継承者なれば、己が役目を終えるまでは死なぬ。それだけじゃ。因みに、食い違いはここ暫く起きておらん」
“本物”ならファリス直々に助言があるってか。サラッと恐ろしいことを言ってくれる。
「何と言うか……、あっさりとしていますね」
「なっはっは!どうやらお主らの感覚とはズレがあるようじゃの。種族が違うのじゃ、さもありなん」
「かもしれませんね」
カルチャーショックってヤツだな。ここで正しいとか間違っているとか横から口を挟むのは軽率だ。
「なァ、さっきから何の話してんだ?」
「アタシも気になるわ!」
「ちょっと待ってください。……ピピさん、仲間に今話した内容を伝えても大丈夫ですか?」
「お主は律儀じゃのぉ。構わんさ。我が輩は案内に集中しよう」
「有難うございます」
──────
「ほれ、あそこじゃ」
「アレですか」
「うむ」
説明が終わるとほぼ同時に声をかけてきた……と言うよりは、話が終わるまでいい感じにぶらついてくれていたのか。
「ニャラよ、お客人じゃ。通すぞ~」
「座れ」
「は、はい」
「なっはっは!緊張せずともよい。ニャラは元々口数が少ないのじゃ。決して機嫌が悪いわけではない」
本当に?こんなに厳つい人が腕を組んで目を瞑ってムスッと座っていたら疑わざるを得ないぞ?
胡坐をかいているから正確には分からないが、2メートル弱はありそうな巨躯と、鎧の如き筋肉。そして全身を覆う鱗。圧を感じない方がおかしい外見だ。
「要件を話せ」
「まぁまぁ、お主も何故人族が我らの言葉を話せるのか気になっておろう?順を追って話そうではないか」
「……好きにしろ」
「何睨んでんだ?喧嘩売ってんのか?」
「ん?お仲間さんが何か」
「気にしないでください。ただの独り言です」
叶うなら1発だけ殴らせてほしい。……まさか、ヘラのせいじゃないだろうな。頼むぞ?こっちの一挙手一投足で種族間の溝が深まる可能性も普通にあるんだぞ?
「左様か。さて、先ずはお主自身について尋ねてもよいかの?」
ニャラさんの眉がピクリと動いた。
……あれ?よくよく見てみれば、魔力はピピさんの方が多いじゃないか。制御して実力を隠している可能性もあるにはあるが、流石にその線は薄い。
彼の魔力がブレている。魔力を抑えながら感情に起因するブレを再現できる生物がいるとは思えない。
……なんだ、向こうも不安なのか。少しは気が楽になった。
「勿論です。仲間に通訳しながらでも構いませんか?」
「そうじゃな。ちと難儀じゃが、お主にしかできんことじゃ。そこは一任しよう」
「はい。では最初のご質問に答えますね」
──────
「ふむ。つまり、お主らは “災厄”を退けるためにここまで来た、と」
「その通りです」
「“災厄”の内容は?」
「詳しくは存じ上げませんが、複数箇所に強敵が攻めてくる、とは伺っております」
「……同じだ」
情報の更新は無い、か。次の一手が打ち辛いな。
「そちらはどうするおつもりなのでしょうか?」
「儀式を優先する」
なるほど。まぁ、何が起こるか分からない以上、動きようがないのも事実だ。
「私達に何か要望はありますか?」
「……儀式の邪魔はするな」
「補足するなら、邪魔さえしなければ何をしても構わぬ」
うわぁ、一番やり辛い返答だ。
「コバヤシ、向こうは何と言っている?」
「彼らも“災厄”の詳細は知らされていないようです。そして、儀式に首を突っ込まない限り、自由に動いて問題無いとも言っています」
「どう動く?」
「僕に1つだけやれることがあります。とは言っても、一瞬で終わります。その後は……、そうですね、体術を習いたいと思います」
「あ?誰からだよ」
「決まってるじゃないですか。ピピさんですよ」
セリンさんですら反応が遅れた実力者だぞ?魔力の成長が止まった俺に最も必要な指導者と言っても過言ではない。
「……おもしれェ」
万事を尽くさねばならない。この地を災厄から救い、次なる災厄を退ける人外を引き入れるためには。
「さてと」
ポケットに手を突っ込み、長らく入れっぱなしになっていた石を握り締め、魔力を注ぐ。
「……何のつもりだ」
「あ!驚かせてすみませんでした」
「それは……何じゃ?」
「共鳴石か」
「えぇ、その通りです」
「まさか……」
「何のつもりだと訊いている」
「し、失礼しました。えぇと、これは“災厄”を退けるために必要な石です」
「と言うと?」
「結論だけ述べますと、たった今、この石を通して最強の助っ人を呼びました」
参加したくもない式典で貰って以来入れっぱなしだったあの石の使いどころは、間違いなく“ここ”だ。
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