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転生保険とかいう悪徳詐欺を許すな  作者: 入道雲
第4章 ネルー湖・ネルー大湿地
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第92話 バッドコミュニケーション

漸く100話が見えてきました。これからも何卒宜しくお願い致します。

「あ~、疲れたー!」


ネルー湖の集落近辺でこっそりと会話に耳を傾け続けること5日、やっと単語と文法が掴めてきた。かなり癖が強く、脳みそが連日のように悲鳴をあげていて本当にしんどかった……。


誰か一人でも話者がいれば集落にお邪魔しても良かったのだが、意思疎通が全くとれない状態で乗り込むのは危険だという結論に至った。


その結果、“ストレングス”による聴覚強化で会話が聞き取れるギリギリの距離に陣取る運びとなった。


行き違いが起こった際のリカバリーを可能にするため、十全な意思疎通が図れるまでは集落に足を踏み入れないと決めたのだ。


「うるせェな。ピーピー騒ぐなよ」


「ちょっとは労ってくれてもいいじゃないですか。やっと大方理解出来たんですから」


「そうか。存外早かったな」


「さっすが小林ちゃん!アタシなんてまだ2割くらいしか分からないわ~」


「いやいや、十分凄いって」


俺の10分の1のボーナス倍率で2割も理解出来ているのであれば、単純に考えて俺の倍は習得速度が速い計算になる。


「何割でもいいんだよ。いけんのか?いけねェのか?」


相変わらず頑張り甲斐の無い人だよ……。まぁいいさ。急がなきゃいけないのは事実だ。


「いけます。早速動きましょう。3日前から気付かれているので、先ずは弁明から入る必要があります」


「文句言われりゃ拳で語ればいいじゃねェか」


……しっかり気付いていて尚コレだもんな。ある意味羨ましい。


「大丈夫よ!言葉が通じるなら問題なんて起きない筈だわ!」


「だといいんだがな。どちらにせよ、魚人族の言葉を話せる者など貴様くらいしかおらん。頼んだぞ」


「プレッシャーかけないで下さいよセリンさん!」


そんな会話をしながら野営地を片付けている時は、実のところ俺も杞憂だと思っていた。“話せば分かる”と。


しかしそれは、大きな勘違いだったと知る。


────────────────── 


「どうしてこうなった……」


「ハッ!だから言ったじゃねェか!拳で語ればいいってな!」


「ゴメンね小林ちゃん!でも加勢する方が余計に拗れちゃいそうだから……!!」


「安心しろ。警備に当たっているだけの強さはあるが、貴様程ではない。先ず負けはない」


3人の仲間が見守る中、俺は飛びかかる水魔法と迫りくる矛の全てをいなしつつ、現状の整理に努める。


俺達4人は監視役の下に真っ直ぐ向かった。その時点ではあちらに敵意は見られなかったと思う。


問題は、唯一彼らの言語を扱える俺が挨拶をした瞬間に起こった。


自分で言うのもなんだが、かなり自然なイントネーションで、向こうにも聞き取りやすかった筈だ。類似する響きの単語に物騒な意味合いを持つものも恐らく無い。


にもかかわらず、彼は目を見開き、警戒心を全開にして襲い掛かって来た。


少しでも反応が遅れていれば腹に風通しの良い穴が空いていた。この感情を戦慄と呼ばずして何と呼ぼうか。


要するにだ、全く意味が分からない。どうしてここまで殺意を剥き出しにされているのか、これっぽっちも見当が付かない。


故に、そこから紐解いていく他ない。


「攻撃を止めて下さい!こちらに敵意はありません!どうか落ち着いて下さい!」


「馬鹿を言うな。貴様程危険な存在を前にして落ち着いていられようか、いや、落ち着いてなどいられまい」


言葉とは裏腹に、人間に近い外見をした彼は頗る冷静に見える。190cm近い細身の巨体から放たれる槍の鋭い突きは音速に近く、強火の“ストレングス”でなければ穂先を視認出来ない。


危険な存在?身に覚えが無さ過ぎる。本当に勘弁してくれ……。


「どういう意味でしょうか!失礼があったのなら、どうか弁明の機会を頂けませんか!」


必死の嘆願を耳にした男は、馬鹿にしたように鼻で笑った。


「これまでの会話に失礼などあっただろうか、いや、無い。貴様が我々の言語を話している。それ自体が異常なのだ」


……頭がおかしくなりそうだ。同じ言葉を扱っているのに、相手が何を言っているのかまるで分からない。


「コバヤシ!ヤツは何と言っている!」


状況が一向に改善しないのを察したセリンさんが問いかけてくる。あぁ、是非ともこの混乱を共有させてほしい。


「僕が彼らの言葉を話しているのが問題らしいです!言っている意味分かりますか!?僕は分かりません!!」


状況の共有と言うより、殆ど愚痴に近かった。しかし、セリンさんの反応は予想外のものだった。


「なるほど、そういうことか」


「どういうことですか!?」


幾本もの針状の水魔法を土魔法で防ぎつつ、思わぬ吉報に飛びつく。


「単純な話だ。私とて魚人族の言葉を話せる人間など見たことも聞いたこともない。つまりだ、コバヤシ、貴様は今“前代未聞”の存在なのだ。有史以来誰一人として習得していない言語を流暢に扱える。魔族の動きが活発な現在、向こうからはさぞかし不気味に見えているに違いない」


あぁ、会話に齟齬が発生しないように一生懸命に勉強した。その努力が別の齟齬を生んだというわけか。なるほどな。


「……ふざけんなぁああ!!!」

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