第91話 幸先×
最近更新が不定期で申し訳ないです。ちょっと生活がバタバタしておりまして……。
ちゃんと最後まで書ききりますので、何卒宜しくお願い致します。
レインティシアからネルー湖に向かう道中の、2日目に事件は起きた。
目が覚めて直ぐに違和感を覚え、「あぁ、思ったより早く“来て”しまったな」と悟った。
体を動かす度に走っていた痛みも、締め付ける様な頭痛も、一切無い。
「体が、メチャクチャに軽い。頗る快調だ……」
漏れ出た独り言をタイミング良く聞いていた金剛が反応する。
「おはよう小林ちゃん。あと、表情と言ってる内容が逆じゃない??」
「おはよう。いや、合っているよ。“反動”が全く無いんだ。全く」
この世界に来た“被害者”なら、これだけ言えば一発で伝わる筈だ。事実、彼女にはしっかり理解出来たらしい。
「嘘……。てことは……」
朝っぱらからこんな話はしたくないが、現実から目を背けてはいられない。
「お察しの通り、“天井”に手が届いてしまったらしい」
成長が無ければ、当然"反動"も無い。
ホウレンソウは大事だ。だから、セリンさんとヘラさんにも共有しなきゃならない。
今日の朝ごはんは、不味くなりそうだ。
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「じゃあ何か?オマエはもう強くなれねェってことか?」
口を閉ざしたセリンさんとは裏腹に、ヘラさんは食い気味で詰め寄って来た。
「一応他にも伸びしろはありますが、少なくとも魔力が増加することはなさそうなので、概ねその認識で合っています」
「サラッと言ってんじゃねェよ。……チッ、せっかく遊びがいのあるヤツが出てきたと思ったらコレだよ」
相変わらず“全筋”な思考回路に最早安心感すら覚える。頑張れば彼女なりに今後を憂いていると捉えられなくもないが、その可能性は低い。何故なら、表情の白けっぷりが本気だから。
「まぁ、工夫次第ではもう少し足掻けますから」
これは強がりでもなんでもなく、ただの事実だ。魔力の増加が止まったというだけで、新魔法であったり、魔力操作などの技術面には進歩の余地がある。
しかし、この先相手取らねばならない化物の実力を鑑みると、小手先の成長でどこまで喰らいついていけるのか不安があるのもまた事実。
RPGで例えると、いくら多彩な魔法や卓越した剣技を持っていても、土台のステータスが低ければ魔王に勝てないのと同じ理屈だ。
「……そう悲観するなコバヤシ。確かに魔力量の成長限界には大きく個人差がある。しかしだ、貴様は既に一角の実力を備えていて、独自の魔法を生み出す能もある。来る災厄において貢献することはあれど、足を引っ張ることは無いだろう」
「そうよ!小林ちゃんの強さは単なる力だけじゃないわ!」
「……有難うございます」
自分としては冷静なつもりだったが、表情に心の奥底にある動揺が現れていたらしい。恥ずかしいのと嬉しいのが半々だ。
「このオレに一度は勝ったんだ。これからも精々楽しませてくれや」
「いやいや、ヘラさん本気じゃなかったじゃないですか。アレは勝ちにカウントされませんよ」
「馬鹿かオマエ?あんな場所で本気出したら周りがメチャクチャになるだろうが。それはオレもオマエも同じ条件だった。なら、あの勝ちは覆らねェ。……オイ、何呆けた顔してやがる」
単なる“全筋”ではないと知ってはいたが、まさかここまで良識があるとは。
「ヘラさんって、意外とまともなんですね」
「ぶっ殺されてェのか?」
「あ、すみません、嘘です。前言撤回します」
つい本音がこぼれてしまった。事実でも言っていい事と悪い事があるよな。失礼しました。
「全部顔に出てんだよ。今ここでもう一回ヤるか?」
「おい、話は終わりだ。話題を移すぞ。目的地であるネルー湖に住む、魚人族についてだ」
……助かった。あの目はガチだった。頭の先からつま先まで筋肉が詰まっているわけではないというだけで、基本的な思考回路が“全筋”な彼女は、自分より強いセリンさんには滅多に逆らわない。
まったく、セリンさんには最初から最後まで頼りっぱなしだ。恩返しの機会がほしいものだ。
「一口に魚人族と言われがちだが、実際には水中でしか生きられない種族や地上での生活に適している種族、或いは両方に適応した種族が存在する。それぞれ寿命も価値観もバラバラだが、3種族には2点だけ共通項がある」
「と言うと?」
「種族間で使用される言語は1つだけだ。そして特筆すべきは、奴らには“文字”という概念が無い」
文字が、無い?
「それは……」
「ど、どういう意味かしら?」
「あ~、村にいた時に聞いた気がすんなァ」
ヘラさんはこの衝撃的な発言の意味が分かっているのかいないのか、至極どうでもよさげだが、とんでもない話だぞ?
「言葉通りの意味だ。水中に文字を残すのは難しく、地上でも多雨な気候であるネルー大湿地では文章を残すのが困難であったために文字が定着しなかったと考えられている」
「な、なるほど……」
一理あるが、この世界に来て一番のカルチャーショックを受けたかもしれない。
「えっと……、じゃあ、どうやって魚人族ちゃんの言語を学べばいいの?またセリンちゃんから教えてもらえるのかしら?」
「いや、私は彼らの言葉を1割程度しか知らない」
「え、ならどうするんですか?災厄について色々と話し合う必要があると思うんですけど」
「コバヤシ、貴様がいるではないか。ギド帝国の獣人語を数日で習得していただろう?魚人族の言葉も1週間でどうにか覚えてくれ。頼りにしているぞ」
「へェ、頭良いんだな、オマエ」
この“全筋”、何も分かってない顔してやがる。確かに赤ちゃんは文字を知らない状態でも周囲の会話から言葉を徐々に習得していくが、それとこれとはワケが違う。
「本気ですか?」
「今冗談を言う必要があったか?頑張ってくれ。魚人族との関係は貴様にかかっていると言っても差し支えない」
恩返しの機会が予想より随分早く訪れたと思おう。そうしよう。じゃなきゃやってられない。
……どうやら、今までで最も幸先の悪い旅路が始まったようだ。
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