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転生保険とかいう悪徳詐欺を許すな  作者: 入道雲
第三章 レインティシア・イリア教皇国
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第86話 第三の召喚者

いつも読んで下さり有難うございます!

「よぅ、早いじゃねぇか」


「ファズさんの方が早いじゃないですか」


「広場を修繕しとけって言われてたからな。そもそも城に戻ってねぇのよ。往復すんのはめんどくせぇ」


言われてみれば、戦闘中に砕けたタイルや折れた樹木が綺麗に片付いている。


俺は直したり治したりする類の魔法は使えないから、こういうのを見ると改めて魔法って凄い技術だよなと感心させられる。


「さっさと行こうぜ。“聖者”様がお待ちだ」


「ですね。因みに」


「アンタだけが呼ばれた理由なら知らねぇぜ。直接訊いてくれや」


「……分かりました」


ぼんやりとしている風に見えて、相変わらず聡い人だ。


────────────────── 


「この廊下を真っ直ぐ進めばパルメナ様の部屋がある。アンタなら魔紋で分かんだろ?じゃあな。俺ぁ自分の部屋に戻るぜ。めんどくせぇ作業のせいでくたくたなんだ」


「あ、有難う御座いました」


気だるげに去っていくファズさん。ここまで徹底していると、面倒臭がりと言うより超効率主義に見えなくもない。


そういう人程頭が切れる。楽をするために最小の労力で最大の結果を出そうとする思考回路が身に付いているからな。



「……ここか」


国の最高戦力の部屋はさぞかし立派なのだろうと思っていたが、パルメナさんの魔紋が感じられた部屋は他の部屋と大差無かった。流石は“聖者”と言ったところか。欲が無い。


軽くノックをし、許可を求める。


「僕です。入ってもいいですか?」


「えぇ、構いませんよ」


部屋の中には、シングルのベッドと控え目なサイズの机、そして壁に掛けられた剣が一本。ミニマリストを彷彿とさせるシンプルさだ。


「狭苦しいお部屋で申し訳ございませんが、どうぞお腰かけ下さい」


「いえ、煌びやかな部屋の方がよっぽど緊張するので、寧ろ助かります」


「そう言って頂けると幸いです。……しかし、私はコバヤシ様お1人で来るようにとお伝えした筈ですが」


……やはりバレていたか。別に俺から頼んではいない。セリンさんがどうしても付いて行くと言って引かなかったのだ。


当然反対したが「あらゆる“最悪”を想定しろと言ったのは貴様ではないのか?」と言われてしまい、ぐぅの音も出なかった。


ファズさんには気付かれていなかったが、“覇者”級は別格だな。……ここはお相子に持ち込ませてもらおう。


「申し訳ありません……。ですが、そちらも天井裏にパールさんがいらっしゃるので、ここは1つ見逃してもらえませんか?セリンさんの方がずっと遠くに控えておりますし」


バレるとは思っていなかったのか、上の方で僅かに魔力がブレる。


一方で、微笑を浮かべるパルメナさんは川の清流を彷彿とさせる安定っぷりだ。


「素晴らしい感知精度ですね。……ただ、あの子にはまた“稽古”をつけてあげる必要がありますね」


「魔力感知だけが取り柄ですので」


後半の意味深なセリフと、天井裏から聞こえてきた、悶える様な声は聞かなかったことにしよう。触らぬ神に祟りなしだ。


「ご謙遜を。……さて、召喚者の情報を知る者はなるべく少ない方が良いのですが、お互い様と言われては致し方ありませんね。始めるとしましょう」


「あ、1つだけ質問してもよろしいですか?」


「構いませんよ」


「何故、金剛は同席させてもらえなかったのでしょうか」


真っ先に事情を尋ねたのは俺じゃない。敢えて金剛を外した理由が聞きたい。


「簡単な話です。これからお話しする内容は、我が国の醜悪な面を多分に含みます。召喚者の死を理解した瞬間に怒りを滲ませた彼女が聞けば、今後の計画に差し支える恐れがあります。従って、あの場で平静を保っていたコバヤシ様だけをお呼びしたのです」


一応、それらしくは聞こえる。俺が感情の無い人間だと言われている風に取れなくもないが、一々突っかかっていては話が進まない。


「なるほど、分かりました。話の腰を折ってしまいすみませんでした」


「いえいえ。では、本題に入らせて頂きますね」


この国で何が起こったのか、うっすらと予想はついているが、是非聞かせてもらおう。


「お願いします」


「……半年以上前に、シンドウ様はこのイリア教皇国に召喚されました」


半年以上前、となると俺が召喚されてから1,2ヶ月後か。


「彼は非常に純粋で正義感に溢れ、強さに貪欲でありながらも身に付けた力をむやみやたらに振りかざす様なマネは決してしない、素晴らしいお方でした……」


シンドウの死を心から惜しむ表情。もしこれが演技なら天晴としか言えない。潔く騙されよう。


「ですが、その真っ直ぐすぎる正義感が我が国では問題だったのです……」


「というと?」


「召喚から数ヶ月後、この首都イリアに魔物の軍勢が押し寄せて来ました」


あぁ、あのスタンピードか。この世界に転移して初めての大規模討伐戦。


ゲルギオスも王国だけでなく、ギド帝国にもイリア教皇国にも襲来があるって神託を受けていたな。


「防衛戦において彼は目覚ましい活躍を遂げ、民衆から厚い支持を得ました。……その結果、悲劇が起きたのです」


話が飛躍したな。未だに全貌が掴めない。


「防衛戦後も鍛錬を欠かさなかった彼は、益々市井の民から信頼を勝ち取りました。また、彼自身もそれを理解していました。故に、大広場にてとある宣言を大々的に行ってしまったのです」


「とある宣言?」


「意識改革です。大衆を前にして『エルフや獣人族を差別し、人間こそ至上の種族とする考えはおかしい!皆は洗脳されているのだ!』と説き始めたのです」


あぁ……。異論など挟む余地の無い正論だが、アプローチが絶望的にマズい。


「当然国は大混乱に陥り、教皇様の耳にもすぐに演説の内容は届きました」


「そして、国の思想に反する異端者として内々に“処理”した、というわけですか」


「はい……。災厄を乗り越えた教皇は自国の戦力と安寧を考慮し、国民には『シンドウ様との度重なる議論も虚しく、終ぞ国を出て行ってしまった』と伝え広めたのです。ダメ押しに、民衆に対する“再教育”も行われました」


教皇国民は最初から洗脳されていたも同然だったってことか。確かに、こんな話を金剛が聞いたら大激怒だな。俺だって胸糞悪いと感じているし、今も反吐が出そうだ。


「しかし、新たに魔人が現れると神託を授かった教皇は即座に退魔石による防御面の強化と、エルフ誘拐による戦闘面の強化を図ったのです」


そのタイミングで俺らがのこのことやって来たってか。そりゃ渡りに船だ、どう転んでも利得があったとは言え、交渉がすんなり進む筈だ。


「以上がことのあらましです。そして、ここからが本題になります」


「本題?」


戸惑う俺をよそに、居住まいを正した彼女は真剣な眼差しを此方に向けながら語り始めた。


「私は、この国が異常だととうに気付いています」


……驚いた。まさか彼女の口からそんな言葉が飛び出すとは。パールさんの魔力も酷く乱れている。初めて聞かされたのか?


「ファズも同様です。ですが、一度浸透してしまった差別意識は容易には払拭出来ません。長い間たたらを踏んでいた私は、シンドウ様の死をきっかけに、本格的に動くことを決意いたしました」


「どうしてその様な重大な話を僕に?」


「協力して頂きたいのです。災厄は今後も訪れます。エルフ、獣人族とエルフの混血児、そして人間。異なる種族が集まったあなた方と手を取り、災厄を退ける様子を民衆に見せつけ、少しずつでも我が国にこびり付いた“染み”を落としたいのです」


燃え滾る信念の宿った瞳は、思わず見惚れてしまう程に美しかった。


「……その話を僕達が断る想定はしていなかったのですか?」


「勿論です。あなた方も、災厄を乗り越えるために各国との繋がりが欲しいでしょう?それこそ、喉から手が出る程に」


パルメナ・ネイダル。分かってはいたが、ただの人格者ではないらしい。


「あとは……、実を言いますと、ずっと秘密を抱えて過ごすのが辛かったのです。力の付いてきたパールにもこの話をする良い機会だと思いまして」


恥ずかしそうにはにかんだ彼女の顔は破壊力抜群だった。天井裏から「あぁ……!」とか「なんて尊い……!」とか聞こえてくるのも仕方が無いと思えるレベルで。


咳払いを1つして、表情を切り替える。


「というわけで、コバヤシ様、私達と手を組んで頂けますか?」


正直、願ってもない話だ。まさか向こうの方から持ち掛けてくれるとは。


「喜んで」


握手をする前に、俺は全力の“ストレングス”を解いた。信頼の証を示すため。


「……有難う御座います。コバヤシ様」


「いえ、こちらこそよろしくお願いいたします」



結局、その後宿に戻るまで何も起こらなかった。騙されっぱなしだった生活のお陰で染み付いた警戒癖が、初めて空振りに終わってくれた気がする。


何にせよ、“聖者”と2人の“十指”の協力が取り次げたのは大きい収穫だ。


……ただ、シンドウについて黙っていたあの詐欺女神には訊きたいことが色々と増えてしまったな。


本当に、アイツはいつまで俺を騙し続けるつもりなのだろうか。

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