第85話 密談の予約
いつも読んで下さり誠に有難うございます！
「その話、詳しく聞いても宜しいかしら？」
背後から歩み出た金剛が問う。俺が戦闘中思案に耽っている間、相当な数を相手取ってくれていたというのに、体には傷一つ無い。戦いを恐れなくなった彼女はここまで頼もしいのか。
しかし、現在は魔力から動揺がハッキリと伝わってくる。いや、少しばかり怒りも混じっている。……気付いたのか。
あの詐欺女神から3人目の召喚者がいたなんて聞いていないし、ましてや召喚国の懐刀から“いました”などと不穏な過去形を耳にするなんて予想だにしなかった。
単にイリア教皇国を出て行った、と言うだけの話ならファリスの口から聞いている筈。貴重な“ボーナス持ち”をパーティーに引き込まない理由が無いし、理由が有るのなら説明の1つや2つなされていて然るべきだ。
つまり、名も知らぬ召喚者はもう……。
「コバヤシさん、でしたか？」
問いを投げかけた金剛から視線を逸らし、どういうわけか俺に声を掛けるパルメナさん。
「コンゴウさんも召喚者であることは存じておりますが、その上でコバヤシ様だけにお話があります。今夜、私の部屋に来て下さいますか？そこで真実を語りましょう。ご理解頂けていると思いますが、決して罠の類ではございません」
「……どうしてワタシはダメなのでしょ」
「とんでもありません！何をお考えになられているのですか！？」
いつの間にかパルメナさんの後ろに控えていたパールさんの絶叫が、金剛の言葉を掻き消す。
大洞窟に発つ前とキャラが随分違うのには驚いたが、彼女の横入り自体はごく自然な流れだ。
召喚者の処遇や動向など、国の機密情報だ。他国の者にあっさりと開示するなんて、いくら国の最高戦力とは言え独断専行が過ぎる。
「パルメナ様の私室にお、男を連れ込むなど……！絶対にあってはなりません！！」
ん？
「パール、私が彼に“ナニか”するとでも？」
んん？？
「まさか！逆です！パルメナ様の美貌を一目見たケダモノが正気を保っていられるとは思えません！ファズならまだしも、斯様などこぞの馬の骨とも知れぬ者を招くのをどうして見過ごせましょうか！」
思っていたリアクションと違う。もしやパールさんの態度がやけにそっけなかった理由って……。
「お黙りなさい。そもそも、貴方はこの国の者でもない方々が生死を賭して戦って下さっていた間、何処で油を売っていたのですか？“福音”の名が聞いて呆れますね。……まぁ、その点については私も人に言えた義理ではございませんが」
「そんな！パルメナ様は神託に従い魔人の動向を探っていらっしゃったではありませんか！私に関してはその……。教皇のご指示で色々と……」
周囲で呆けていた住民達は、遅れて到着したファズさんの誘導で元の生活に戻って行った。
それ故に現在、閑散とした広場にはやけにピりついた雰囲気が漂っている。
召喚者2人組はとうに置いてきぼりで、セリンさんとヘラさんに至っては我関せずと言わんばかりにレンツ車で待機している。
「教皇“様”、ですよ。パール、貴方にはまだ“教育”が足りないようですね。……コバヤシ様、私の部屋に来て頂く時間を夕刻に変えてもよろしいですか？少々“お仕置き”が必要になってしまいましたので」
「そんな……！」
菩薩の如き笑みをたたえながら物騒なワードを吐く“聖者”。言い知れぬ圧を出す彼女に、異議申し立てをする勇気などある訳も無い。
「え、えぇ、承知いたしました」
何より、“お仕置き”という単語を聞いて紅潮した頬に両の手を当てる“福音”が怖過ぎる。チラリとファズさんに視線を送るが、彼は目を瞑り、首を横に振っている。
……成る程、触れない方がいいらしい。俺が心配しても意味が無いのは百も承知だが、大丈夫なのか、この国。
少し頭が痛くなってきたため、空気を入れ替えようと戦闘中に思っていたことを口に出す。
「いやぁ、それにしても、教皇国民の方々が武器を持っていなくて助かりましたよ。お陰で教皇国の方を傷付けずに対処できましたから」
洗脳されていたのがもし兵士だった場合、後の面倒がどうとか悠長な事は言っていられなかった。
「あぁ、それは当然ですよ。我が国の民は法によって武器の所持が禁じられていますからね」
「え？」
……まさか、この国は。
「話が逸れてしまいましたね。ともかく、陽が沈む頃に再度この広場に来て下さい。ファズを使いに出します。申し訳ございませんが、それまでは城門付近の宿で待って頂いてよろしいですか？宿のお代等はこちらが負担致しますので」
普段ならセリンさんにお伺いを立てる場面だが、今回はそうもいかないか。どちらにせよ召喚者の情報は気になる。大人しく指示に従おう。
「分かりました。では、後ほど」
──────────
「行くのか？」
4人部屋を取ってもらった後、すぐさま開かれた緊急会議。言うまでもなくヘラさんは不参加だ。既にいびきをかいて寝ている。
「行くしかないでしょう。真偽はともかく、貴重な情報が得られるかもしれませんので」
“聖者”のあの魔法。不意を打てば4人諸共瞬殺できる威力だ。故に、罠をかけるにしてもわざわざ1人だけ呼び出す必要は無い。
寧ろ俺を拷問にかけて情報を引き出す、という可能性ならあるが、“あの雰囲気”からしてその線も薄い。
そうなる場合は事前に一度くらい交渉が挟まっているだろう。無意味に王国と軋轢を生むメリットが無い。
「では、私も付いていく」
「何を言っているんですか。ここで約束を反故にするのはどう考えても得策ではありません」
「しかしだな……」
自分の言っていることが合理的でないと理解しているのだろう。純粋に心配してくれているのだ。有難いし嬉しいが、危ない橋は渡るべきではない。
「大丈夫ですよ。すぐに戻ってきますから」
「小林ちゃん、身の危険を感じたらすぐに逃げていいからね？アタシ達も何時でも出られる準備は整えておくから」
「助かるよ金剛。ホント、頼もしくなった」
「もう、褒めても何も出ないわよ」
「というわけで、第三の召喚者の情報を貰いに行ってきます。万が一、いや、億が一のケースになった折には派手に暴れますので、それを合図だと思って下さい」
「……うむ、相分かった」
「本当に気を付けてね！」
「あぁ、万全を期すよ」
詐欺女神からコルニパ戦以降の注意は受けていない。先ず“最悪”は有り得ない筈だが、問題は語られる内容だ。
何故召喚者が死に至ったのか、情報を貰ったらファリスを問いたださなきゃいけないな。
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