表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生保険とかいう悪徳詐欺を許すな  作者: 入道雲
第三章 レインティシア・イリア教皇国
82/113

第81話 ヘラ・ウェリス

更新が滞り気味で申し訳ありません。

少しずつペースを戻したいと思っています!

最低限の言葉を吐き出した後、横目で見た彼女の表情は珍しく困惑の様相を呈していた。


「魔人との戦闘か。仔細を問いただしたい気持ちもあるが、貴様自身も上手く消化し切れていないと見える。……相分かった。警戒を最大限引き上げて行動する」


この上なく頼もしい。だが、任せっぱなしは性に合わない。戦闘のシチュエーションを複数想定しておかなければ。


「あ、それから、先程は有難うございました」


「何の話だ?」


「いや、背中を」


「知らん」


顔を背けた際にチラリと覗いた耳先は、ほんのり朱色に染まっていた。……“天然モノ”って、こうもグッと来るんだな。


魔力感知すら解除して休息に充てること6時間、やっと1人で立って歩ける程度に回復した。明日にはこれらの不調も無視できるだろう。


「小林ちゃん、セリンちゃん、おはよう!!」


「あぁ」

「お、おはよう」


心なしか普段より大きな挨拶をしながら荷台から出て来た金剛に思わずたじろぐ。


「……どうしたコンゴウ、魔力がダダ漏れだぞ」


「あら、ごめんなさい。迸るパトスがつい溢れちゃっていたわ」


水魔法で豪快に顔を洗う金剛を尻目に、セリンさんが尋ねてくる。


「おい、コバヤシ、今のはどういう意味だ?」


「すみません。ちょっと何言ってるのか分かりませんでした」


「何故何と言っているのか分からんのだ」


凄く既視感のある会話だ。これがナチュラルに成立する日が来るなんて。


「詳しい理由は本当に知りませんが、実は昨晩、彼女もファリス様と話をしていたんですよ。僕が起きた後も色々と相談していたみたいなので、ひょっとすると有難い助言を貰えたのかもしれません」


「……どういう経緯にせよ、あやつがまともな戦力になるのであれば歓迎だ。これまでは完全に力を持て余していたからな。戦闘の幅が広がる」


「確かに、彼女の魔力量がフルに活かされるのであれば心強いですね」


「なるわよ、戦力に」


「うおっ!」


感知をオフにしていたせいで全く気が付かなかった。思わぬタイミングでいかに魔力感知に頼っていたのかを思い知らされてしまった。


「あら、ごめんなさいね。今日は小林ちゃんの代わりにアタシが頑張るから、イリアまでの道中は任せて頂戴!」


「有難う。む、無理のない範囲で大丈夫だからな?」


あの詐欺女神に変なことを唆されたんじゃないだろうな。ここまで急変されると洗脳の類が頭を過ってしまう。


「ふむ、ならば帰路の御者は任せる。露払いは私が行う。貴様はただレンツの制御にのみ集中していればよい」


「分かったわ!」


セリンさんが誰かに御者を任せるなんて珍しいな……。


あぁそうか、“ウォーム”が使えるのは俺だけだもんな。だがしかし、当人は現在使い物にならない状態だ。


せめて風が遮られている荷台部分に居たいのだろう。上手いな~、そして可愛い。


「朝食を流し込め。15分後には出発するぞ」


──────────── 


張り切りまくった金剛の施した“ストレングス”と“コンフォート”の効果は凄まじかった。


途中でアベリガレストや例の魔人による襲撃を受ける可能性を考慮し、魔力感知だけは全開にしていたが、そんな心配を吹き飛ばす勢いでレンツは白銀の世界を駆け抜け、あっという間にイリア教皇国に帰り着いてしまった。


「門番さーん、戻ってきたわよー!」


数秒の後レンツは停止し、荷台の確認だけが行われた。鞄からゴロゴロと“退魔石”の一部を取り出し、お使いが無事に完了したことを示す。


「おぉ!これは素晴らしい!」


「メディーラ大洞窟からのご帰還、一同首を長くしてお待ちしておりました!見たところお連れ様が1人疲弊していらっしゃるようですね。急いで城まで案内させましょう!」


さり気なく後ろに隠した左手から魔力の流れを感じる。『急いで案内させる』という言葉遣いといい、やはり最初にチラリと見えたアレは“共鳴石”で間違いなさそうだな。


道理で対応がスムーズだったわけだ。魔人と教皇国を同時に警戒しながらエルフからの“お使い”を果たさないといけないなんて、胃に穴が空きそうだ……。


──────────── 


「確かに、100キロの“退魔石”を確認いたしました。ファズ、パール、3人をヘラ・ウェリスがいる地下牢まで案内して差し上げなさい。……此方に連れてきてもよいのですが、アレは私達を警戒していますからね。不要な損耗を避ける為にも、どうか皆さんの方から出向いて下さい」


「しょ、承知いたしました。案内をお願いします」


喉から出かけた驚きの言葉をどうにか飲み込んで返事をする。あまりにもすんなり事が運び過ぎて、拍子抜けを通り越して不安感すら覚える。


オーケー、落ち着いて流れを振り返ろう。


先ず、門番の通達から暫くして、城門まで迎えに来たファズさんが城の賓客室まで先導してくれた。


彼は「1人死にかけてるみてぇだし、謁見は明日の昼でいいだろ?……正直ホッとしてるぜ。マジで人死にはめんどくせぇからな」とだけ言い残して部屋を去った。


そして、それから現在に至るまで本当に何事もなく、たった今あっさりとヘラ・ウェリスの解放が承諾された。


昨日から今の今まで魔人の気配なんて微塵も感じられないし、教皇国側も存在を知ってか知らずか、ピリついている様子は少しも伺えない。


…………マジ?


「何をボサッとしているの?早く付いて来なさい」


「あ、はい。すみません」


呆気に取られつつ、2人に付いて階段を降りていく。


地下牢に向かう途中でファズさんにお礼を伝えたかったが、パールさんも同行していたため、下手な言動は控えるしかなかった。


薄暗く冷え切った廊下を挟んで並ぶ幾つもの牢獄。その最奥から感じられる荒々しい魔力は、ビズのソレに近い。


唯一重々しい扉の着いた牢のカギを開け、鉄の塊が嫌な音を立てながら開いていく。


「出ろ。解放してやる」


──最初に目に入ったのは、たてがみを思わせる純白の長髪。次いで傷一つ無い褐色の肌。銀色の瞳は宝石の様に美しいが、彼女の獰猛な視線は、小動物なら射殺せそうな鋭さを孕んでいた。


唐突な宣言に、唸る様に応えるヘラ・ウェリス。


「アァ?どういう風の吹き回しだ?」


「事情を説明すんのはめんどくせぇから、コイツら3人から聞いてくれや」


「……誰だテメェら」


視線を促された彼女は、鋭い眼光をそのまま俺達3人に向ける。


「“賢者”からの“お使い”で来ました。貴方をフェート大森林まで連れ戻せと」


無駄な情報は省いて伝える。“賢者”からの依頼と教皇に話した内容は真逆に近いからな、うっかりで事態を拗らせるのは避けたい。


「……ハッ!そーかそーか!なら納得だぜ。また暴れさせてくれるってか!」


突然現れた赤の他人の一言で破顔するヘラ・ウェリス。表情から不安や疑念は全く感じ取れないし、魔力からも一切の動揺は見られない。


よっぽど察しが良いのか、或いは“全筋”の類なのか、どちらかだろうな。


牢にぶち込まれた経緯を聞く限りでは後者に当てはまりそうだが、どうにも彼女の思考が筋肉に支配されているようには見えない。ただの勘でしかないけれど。


「一緒に来て下さい。すぐにここを発ちます」


「いいぜ。いい加減体を動かしたくてウズウズしてたんだ」


四肢に繋がれていた重りを外され、立ち上がった彼女の体躯は170センチを超えていた。衣服は最低限しか肢体を隠していないため、正直目のやり場に困る。


練り上げられた肉体と長身の相性が抜群過ぎて目に毒だ。荷台に戻ったらすぐに外套を渡そう。


──────────── 


階段を昇り、城から出るまでひと時も警戒は緩めなかったが、終ぞどんでん返しは起きなかった。


唯一気掛かりな点と言えば、玄関から出た途端にパールさんが「……この気配は!!」と叫び飛び出して行ったことくらいだ。


ファズさんに何事かと尋ねたが「あぁ~、忘れてくれ。発作みたいなもんだ。そんでこれ以上は訊かないでくれ。めんどくせぇからよ」と戸口を閉められてしまった。


レンツ車に荷物を積み込む前に、城に戻ろうとする彼を呼び止める。


「“音響石”とメモ、有難うございました!本当に助かりました」


「気にすんな。“退魔石”が手に入りゃ国の守りが硬くなる。そうすりゃ人死にだって減る。別にお前らだけの為じゃねぇよ。ま、気ぃ付けて帰れよ。……いや、俺らを出し抜けるぐらいなら不要な心配か」


頭をかきながら気だるげに去って行く後ろ姿を見ながら、教皇国を頼る時の窓口はファズさんにしようと心に決めた。


さっきの“お前ら”の中には、確実にセリンさんも含まれていたからだ。


この国において、ファズさんだけがセリンさんの目を見て話していたことを、俺は決して忘れない。



レンツ車を出した後、適当なマントをヘラさんに渡そうとしたが、ニヤリと笑みを浮かべて拒否されてしまった。


「要らねェよ。お前の為に服を着てやるつもりはねェからな」だそうだ。


どうやら“前者”だったらしい。本気でやり辛いタイプだ……。と言うより、寒くないのかよ。


お喋りな金剛が御者をしているのも相まって、城から離れる道中の荷台には終始気まずい空気が漂っていた。


──そう、入り口付近の大広場に着くまでは。


「よし、ここならイケるな。もう我慢できねェ。“味見”させろ」


「は?うおっ!!」


物騒なセリフが耳に届いた次の瞬間には、荷台から放り投げられていた。


慌てて受け身を取り、混乱する脳をフル回転させて状況の理解に努める。


「どういうつもりですか?」


「耳か頭が悪ィのか?言ったろ?『いい加減体を動かしたくてウズウズしてたんだ』ってよォ!そんな弱っちい魔力でどうやって大森林を抜けて来たのかどうしても気になってな!ほら、どっからでもかかってこいよ」


……あぁ、俺はとんでもない勘違いをしていたらしい。味見とかいう聞き覚えのある言い回し。そうか、ヘラ・ウェリスは“察しの良い全筋”だったのか。

感想、評価、ブックマークを宜しくお願いいたします。

それが何よりのモチベーションに繋がります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ