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転生保険とかいう悪徳詐欺を許すな  作者: 入道雲
第三章 レインティシア・イリア教皇国
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第80話 遅過ぎる報せ

いつも読んで下さって有難うございます!

「あ~、これは明日動いた方が良いですね」


「だな」


洞窟を抜けると、既に夜の帳が降りていた。月の位置から察するに21時辺りだろうか。


「戻りは一度も野営せずにひたすら進み続けたものね……。お陰で足がパンパンよ」


「見張り、どうします?要りますかね?」


洞窟内でも大活躍だったあの石は野外でも効果覿面な筈だ。少しばかり近付かれたとしても、襲撃される確率は限りなく低い。


「ふむ……、私が意図的に眠りを浅くして万が一の場合に対応できるよう便宜を図ってやる。所謂“擬似見張り”というヤツだな」


何……だと……?睡眠を自力で制御可能な人類が存在するのか??“所謂”とか言っちゃっているけど、普通に初耳だ。


「そ、そんな芸当が可能なんですか?」


「私を誰だと思っている。第零部隊隊長だぞ」


え、全然関係無くない?まさか、不可能を可能にするのが王国の隠し玉になる条件なのか?


「でも、それじゃセリンちゃんが休めないじゃないの。アタシは交代制でもいいわ」


「案ずるな、貴様らに合わせているだけで、本来なら3日は不眠で動ける」


あぁ、確か最初に会った頃に言っていたな……。


「それに、貴様ら2人からはハッキリと疲弊が見て取れる。然らば、平時より大きい“反動”が来るのではないのか?」


確かに、リマ・パルマの群れを抜ける際にかなりの魔力を消耗したし、洞窟を抜けるまで常に“ストレングス”を発動していた。久々にキツいのが来そうな予感はしている。


「そうね……。アタシはともかく、小林ちゃんの“反動”を考えるとお言葉に甘えた方がいいのかしら」


「そういうことだ。さて、中では使えなかった火を使える。バラメナを出せ」


「おぉ、いいですね!」


燻製にした分はもう無いが、生のパラメナは丁度一食分ある。豪勢な夜食で体力を少しでも回復して“反動”に備えるとするか。


「見た目が可愛いからちょっと躊躇っちゃうけど、本当に美味しいのよね~」


焚火を起こし、軽い歓談を挟みつつ依頼達成の喜びを3人で噛み締め、俺と金剛はレンツ車の荷台で眠りに就いた。


──────────── 


「お久しぶりです。早速ですが、お2人の気分を台無しにするニュースがございます。聞きますか?“聞かされ”ますか?」


久々に出てきたと思ったら、第一声がそれかよ。思わず溜息が漏れる。


「ハイハイ小林ちゃん!切り替えましょ!一度結んだ契約は絶対なんだから」


「流石は金剛様!器がお茶碗サイズの誰かさんとは大違いです!」


お猪口の次はお茶碗ね。個人的にはバケツくらいはあると思っているのだが、下らない口論をしている状況では無さそうだ。とっとと話を聞かせてもらおう。


「で、本題は?」


軽く咳払いをし、居住まいを正した詐欺女神は、とんでもない未来を実に事務的に伝えてくれた。


「イリア教皇国内に新たな魔人が侵入いたしました。そして、侵入した魔人との戦闘は確定事項です」


「え?魔人って、あの……?」


金剛の顔からみるみる血の気が引いていく。冷静ぶってはいるが、俺自身もかなり動揺している。あの圧倒的な力の矛先がこちらに向いていると考えるだけで心臓が早鐘を打つ。


「どうしてそれ程の超重要事項を……。あぁ、“隠密”か」


「理解が早くて助かります。アベリガレストの手引きで侵入したのでしょう。現状特に目立った行動は起こしておりません。魔人の存在が確認可能な事実から、アベリガレストは教皇国を離れていると推測されます。ご質問はありますか?」


「敵の目的は?」


「ド直球に申し上げますと、お2人の命です」


「えぇっ!!アタシ達!?嘘でしょ!?」」


「“聖者”や“十指”に囲まれる危険を冒してまで教皇国に侵入しておきながら、狙いは俺達?」


突っ込み所が多過ぎる。何故この場で襲わない?奴が撤退した理由は?教皇達は魔人の存在に気付いているのか?


「小林様の疑問も尤もですし、それら全てにお答えするのは可能なのですが……。えぇと、ん~、どう申せばよいのでしょうか……」


妙に歯切れの悪い詐欺女神。そこまで込み入った事情があるのか?


「一番重要なのは、3人いれば魔人に勝てるのかどうかです。どうなのですか??」


「そうですね。ご安心下さい、金剛様。十中八九勝てます!ですが、言葉を選ばずに言わせて頂くと、今小林様の脳内で渦巻いている疑問に答えてしまえば、その勝率が大きく下がってしまうのです」



「え、意味が分かりません」


「ど、どうしてですか?」


逆だろ、普通。どうして情報が足りない方が勝ち易くなるんだ。直近でリマ・パルマに苦労したばかりだぞ?


「説明が難しいので、結果だけお教えいたしますね。ここで敵に関する情報を詳細に伝えると、多大なる苦痛は避けられる代わりに戦闘は短時間で切り上げられ、魔人を逃がしてしまいます。逆に一切を伏せておけば、苦痛を伴う上に長期戦になってしまうものの、ほぼ確実に勝てます」


ダメだ。余計に謎が深まった。ただ、言いたいことだけは分かった。


「要するに、多少の痛みを我慢させてでも魔人を1人潰しておきたいと」


「はい。ぶっちゃけると、そうなりますね」


「痛いのはイヤだけど、女神様がそう仰るのであれば……」


「まぁ、高確率で敵勢力を大きく削れるのなら、ちょっとした痛みには目を瞑れます」


イマイチ信用し切れないが、ファリスの依頼内容を考慮すれば嘘を吐く理由なんて無い。大人しく従うとしよう。


「……すっかり警戒されてしまっていますね~。私、悲しいです。えんえん」


泣きマネをする詐欺女神に若干イラついてしまうが、グッと堪える。こちとら散々アンタに騙されてんのよ。誰の目から見ても自業自得だろうが。


「さ、訊きたいことはこれだけですか?直に日を跨ぎますが」


視線を俺1人に向けて問う女神。……やっぱり今回の“反動”はデカいらしい。


「特には」


「あの、ワタシは質問ではなく、相談があります。女神様、よろしいでしょうか?」


「えぇ、勿論ですとも」


相談か……。気にならないでもないが、意識はとうに暗転を始めている。それに、人の悩みに首を突っ込むべきじゃないよな。


あぁ、最近無茶をしていなかった分、久々に“反動”が怖いな。せめて体が動かせる程度であってほしい……。


──────────── 


「っづぁ……!」


頭痛で視界がチカチカとする。吐き気も酷い。外なのが幸いだな、どこにでも吐ける。


「大丈夫か、コバヤシ」


いつの間にか横にセリンさんがいた。背中に添えられている手が温かい。


「有難うございます……。大丈夫とは、言い難いですが、すぐにでもお伝えしなければならない事が、あります」


額を伝う冷や汗と、脳を直に締め付ける様な痛みが鬱陶しい。呂律が上手く回るか心配だ。


吐しゃ物の代わりに、今しがた聞いた話を単語単位で吐き出していく。その間セリンさんは、ずっと背中をさすってくれていた。

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