第78話 メディーラ大洞窟 後編
いつも読んで下さって有難うございます!
次話で探索パートは完結します!!
「すまん、何を言っているのかさっぱり理解できない」
「だから、その、どんなに頑張っても前に進めなくって」
情報が1バイトも増えていないぞ。まぁ、相当混乱していることだけは伝わった。
「体験した方が早い。コバヤシ、野営地を出て行き止まりとは反対方向に歩いてみろ」
「はぁ」
言われた通りにキャンプ地を出て右に曲がる。半信半疑で歩くこと数十歩、飛び込んできた光景に寝起きの脳は一瞬で覚醒させられた。
「戻ってる……?」
右手側には、今しがた出てきたキャンプ地がある。ただ真っ直ぐ進んでいたにも関わらず、だ。
「聞くまでもないですが、魔法の類ではないですよね?」
「あぁ、私ですら感知不可能な魔法でなければな」
そんなものがあるならお手上げだ。生き埋め覚悟で辺り一帯の壁をぶち壊しながら進むしかない。本当に最後の手段になるけどな。
「見張り中に2頭のラスティーが近付いてきたから、みんなが寝ている場所から離れて処理しようと思ったの。そしたら既にこうなってて……。ラスティー自体は対処できたんだけどね?いくら試してもさっきの小林ちゃんと同じ現象に陥っちゃって、だからセリンちゃんを起こしたんだけど……」
「成る程な」
パーティーのリーダーですら原因を突き止められなかったから、あそこまで慌てていたのか。
寧ろ、こんな異常事態下でラスティーを無傷で倒した彼女に称賛を送りたい。ギド帝国で魔物に怯えていた頃とは明確に一線を画している。
「可能性としては、この場所に来るまでの戦闘で既に魔法にかかっていたか、或いはアベリガレストみたいな魔力を用いない異能による仕業、ですかね?」
「どちらでもないだろうな。罠に嵌めるだけ嵌めて放置する理由が無い。狭い空間に閉じ込められたのなら、量で攻めるなり壁を崩して生き埋めにするなり、次の動きに移っていて然るべきだ。魔物に斯様な作戦を思い付く知性は無いが、人族という餌を前にして動かずにいられる程の理性もない」
一理あるな。現時点で感知に引っ掛かっているのはどれもこれも微弱な反応だけだ。天井近くを飛び回るメラニーのもので間違いない。
仮に魔力を制御できる魔人クラスの強敵がいるならば、それこそとっくに殺されていてもおかしくない。
「……ねぇ、敵が来ないんなら、朝ご飯にしない?」
重苦しい空気の中、突拍子もない発言をする金剛。一体どういうつもりで……、いや、案外それでいいのか。
「ふむ、そうだな。食べながらでも議論は可能だ。空腹で動きが鈍ったところに魔物の軍勢が来ないとも限らん。どちらにせよ身動きは取れないのだ。であれば、今出来ることをする方が合理的だ」
その通りだ。頭の硬い俺では多分出せない発想だな。彼女が仲間にいて良かった。
洞窟に入る前に作っておいたパラメナの燻製を齧りながら、順を追って現状を整理する。
「少なくとも朝方には今の状況になっていた」
「魔法でもないのよね」
「しかも異能の類でもないし、敵の目的も不明」
うん、手詰まりだな。
最後の一口を飲み込んだ金剛が立ち上がり、ぐっと伸びをする。
「いっそ壁をブッ壊しちゃわない?その方が手っ取り早い気がしてきたわ」
ストレッチをしながら魔力を解放し、“ストレングス”をかける金剛に急いでストップをかける。
「待て待てまだヤケになるな!生き埋めになりたいのか!!壊すくらいなら他に良い魔法が」
「あ!」
“クラック”について話そうとした直前、大きな声を出し何かに気付いた様子を見せる金剛。
「……ほんっとに微妙になんだけどね、甘い匂いがするの。上から」
「甘い匂い?」
「いいからみんな“ストレングス”してみて!なるべく全力で!」
勢いに負けて“強火”のストレングスを発動した直後、微かにバニラに似た匂いが鼻腔をくすぐった。
「……まさか」
「コンゴウ、でかした」
軽く地面を蹴り、4,5メートルは飛び上がったセリンさんは、匂いの発生源と思しき場所にかなり手心を加えた拳を叩き込む。
壁に野球ボールサイズの染みができ、微弱な反応が1つ消えた。
事態が解決したと確信した俺は、風魔法で辺りに残留している匂いを吹き飛ばす。
「あ、完全に消えたわ!」
「嗅覚に働きかけるタイプの幻惑は盲点だったな……。クソ」
この世界に馴染んでしまったが故に、無意識に魔法以外を選択肢から外してしまっていた。
「もっと早く気が付くべきだった。雑魚を無視しろと指示を出したのが最大の要因だ。済まない」
「もう!2人とも反省するのはいいけど引き摺っちゃダメよ!対処法は分かったし、飛行するメラニーと同じ高さにいるよわ~い魔物が原因だなんて初見殺しもいいとこじゃない!そんなのを一々気にしていたら今ここまで進めていないのは紛れもない事実なんだから、自分を責めないの!」
「それもそうだな、前向きに考えよう」
「……実に合理的だ。まさか、コンゴウに諭される日が来るとはな」
「ちょっと!どういう意味よ!」
「気にするな、荷物をしまえ。時間を無駄にした分、先を急ぐぞ」
「あ、誤魔化したわね?お茶を濁そうったってそうはいかないんだから!」
あれだけ緊迫していた雰囲気が一瞬で和らいだ。ムードメーカーってこういう人を指すんだろうな。
荷物を全て収納し、“リビール”と“ライト”をかけ直す。別れ道まで戻り、モンスターが多い方に向かって進み、接敵したモンスターを文字通り秒で片付ける。
何度も繰り返される一連の流れに辟易し出した辺りで、ついに最深部に到着したことを悟った。
「うーん、左かしら」
「いや、右だな。間違いない」
「理由は?」
「2人とも、上方向にも伸ばしている感知範囲を思いっ切り平面にして下さい。すぐに僕と同じ結論に至る筈です」
「……あら、ホントね。けど、全然喜べないのはアタシだけかしら」
「群れでいるとは書いてあったが……、これ程までとはな」
右の道には暫く雑魚敵が“一切”現れないため、今までの方針だと“ハズレ”に該当する。
しかし、更に先まで進むと、洞窟内では一度も見なかった大きな反応が犇めくエリアがあると分かる。
「1匹も見当たらないモブ敵に加え、巨大な反応の群れ。そこから導き出される結論はただ一つ」
「“退魔石”の鉱床がある、ってことね?」
「そういうことだな」
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右方向に道なりに進んでいくこと十数分、漸く洞窟の端に辿り着いたらしく、2メートルに満たない小さな入口が見えてきた。
「既に気付かれているな」
「みたいですね」
「無理矢理突破、なんて絶対にさせてもらえない雰囲気ね……」
“ライト”から伺える入口の先は洞窟の最初のエリアと同様にドーム状になっており、300メートル四方はくだらない大規模な空間が広がっていた。
「アレが、リマ・パルマか」
「ディオメナスとディアメナスに囲まれた時を思い出すわね。見た目もちょっと似てるし」
「数はあの時の10倍じゃきかないけどな」
この群れを力業で突っ切るのは無理ゲーだ。観察しろ、頭を使え、理想は無傷で突破だ。
ヒントなら既に幾つかある。後はソイツらを組み合わせるだけ。
「貴様ならどうする、コバヤシ」
試す様な、或いは期待する様なセリンさんの問いかけ。燃えるじゃないか。
「5分下さい。100点の解答を出してみせます」
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