第77話 メディーラ大洞窟 中編
更新が遅れてしまい、申し訳ありません。
今後は無理のないペースで定期更新を目指します。
「今後私が指示を出さない場合、接敵までは陣形1、接敵後は陣形2だ。いいな?」
「分かりました」
「いいわね。すっごく効率的だわ」
一度ピンチを切り抜けたお陰か、以降の2度の戦闘は淀みなく、どちらも開始から終了まで10秒とかからなかった。
ただ、食糧になるラスティーの血抜き作業を行った時は流石に気が滅入った。とは言え、いつまでも甘ったれてはいられないと身に染みた俺は無心で血を抜き、皮を剥いだ。
「鞄にしまう前に剥いだ皮に包め。他の荷物に匂いが移るとかなわん」
「あ、そっか。有難うございます」
5kg近い可食部を収納したが、保存食などを含めても動きに支障をきたす重さではない。
オーガス王国での基礎体力訓練で使った重りⅣくらいの重量だろうか。“ストレングス”を使わずとも背負える重さだ。
「この三叉路は右か?」
「ですね。左も怪しいですが、魔物の分布的にぐるっと入口方向に戻される気がします」
「ここは真っ直ぐだな」
「そうね。またラスティーかしら。外光が殆ど届かなくなったせいでちょこっとだけやり辛いわね。問題無いけど!」
感知を頼りに順調な歩みを続けること数時間。追加で数回の戦闘を終えた時点でセリンさんがこちらを振り返る。
「体力と魔力に余裕は?」
「まだまだいけるわ!」
「僕もいけます。ただ、大洞窟にいる5種類の魔物の内、未だにメジーとリマ・パルマが確認できていないのが不安ですね」
「メジーは気配を隠すのが上手く、積極的に姿を現さないのだろう?道中何匹か見逃していてもおかしくはない。そこら中にいる有象無象にかかずらっていては永遠に最深部に辿り着けんぞ」
「心配なのは後者の方よね?大きくて、強くて、しかも群れで行動しているんですって?大雑把過ぎるメモだけど、不穏な文言のオンパレードじゃない」
そうなんだよな。それなりに役に立つんだけど、とにかく情報が雑だ。余程時間が無かったのか、彼の性格なのか、はたまた別の理由があったのか。
いずれにせよ、メモに書かれていた内容に嘘は紛れていない。つまり、こちらの身を案じているフリをした罠である可能性は否定こそ出来ないが、かなり低い。
しかし、見ず知らずの異邦人に肩入れするメリットがさっぱり分からない。こればかりはシンプルに彼が善人であることを祈るしかない。
様子から察したのか、俯いて思案に耽る俺の肩をセリンさんが叩く。
「気を揉むだけ無駄だ。敵が何であれ、観察し、隙を見て冷静に動けば打開策は自ずと出てくる。極力使用は控える予定だが、私には“奥の手”もある」
「……どんな手かは訊きませんが、使わせずに済むよう尽力します」
「頼んだぞ。もう暫く進んで適当な場所を見つけ次第、野営の準備に入る。行くぞ」
この切り替えの早さ、眩しいよなぁ。生来気が小さい俺にはどうにも難しい。しかも、彼女クラスの実力者が持つ奥の手なんて響きからして安心感がある。
感慨深いもので、漸くセリンさんや“覇者”級の人外達と自分との距離を測れるくらいには強くなれた。
それによって判明した事実の1つに、“覇者”と“十指”との間に存在する“隔絶した壁”がある。過半数の“十指”が手を組んでやっと“覇者”1人に届くかどうか、といった具合だ。
そして俺は、その“十指”1人に真正面からでは勝てない。うーん、喫緊の課題だな。無茶をしなくなった分、成長も鈍化傾向にある。
そろそろ詐欺女神からケツを叩かれてもおかしくはない。
「コバヤシ」
「大丈夫です。上ですよね」
“フロスト”で吐き出された糸ごと氷結させる。“シェルロック”でも倒せるが、タトゥーラに対しての使用は先刻禁止になった。
と言うのも、一度だけやけに腹の大きいタトゥーラにブチ当てた際、子どもがわんさか飛び出して阿鼻叫喚の地獄絵図が展開されたのだ。……あぁ、思い出すのも悍しい。
「あ!この先にラスティーの群れがいる場所があるじゃない?丁度野営場所にいいんじゃないかしら!」
「そうだな。先が続いているかは怪しいが、寧ろ魔物の来る方向が制限されて見張りが楽になる」
「決定ですね。サクッと処理しましょう」
「陣形は5だ」
「了解です」
「がってんよ!」
5は“各々の判断で暴れろ、但し離れ過ぎるな”だ。ぶっちゃけフォーメーションでもなんでもない。
平和にたむろしていたハスキー犬もどき達には申し訳ないが、運が悪かったと思って諦めてほしい。
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「イリア教皇国の保存食、意外とイケますね」
「栄養は王国の方が上だ。恐らくミナリギ草を入れていないのだろう。保存食は実利面に欠けてはならんのだ」
国のことになるとすぐ熱くなるセリンさん、可愛いなぁ。
「見張りはどうします?」
「アタシは何番目でもオッケーよ」
「ではコバヤシ、私、コンゴウの3交代制でいく。“ライト”は絶やすな。集団を感知した場合は迷わず叩き起こせ。いつもの野営と思っていると痛手を負うぞ」
「はい!」
「洞窟内だと交代の時間が分かり辛そうね」
「体内時計が覚えている筈だ。多少ズレていても構わん」
「じゃあ、僕から始めますね。皆さん、ゆっくり休んで下さい」
「お休み~」
“ライト”の光量を調整しつつ、“退魔石”の回収方法について思案を巡らせる。
あの石は結構な強度があると聞いている。だが、爆破は当然NGだ。天井が崩落して生き埋めなんて間抜け過ぎて笑えない。
鉱物か……。もしも綺麗な結晶になっているのなら一瞬で解決するんだが、実物を見ていないからなぁ。念の為、いつでも使えるよう練習だけはしておくか。
「丁度この壁なんて良い感じじゃないか?」
キャンプ地を囲む壁に手を当てて、初めに結晶面を想像する。更に、面をずらして連鎖的に劈開させるイメージで魔力を込めれば……。
「“クラック”」
岩壁に小さな亀裂が走る。うん、大成功だ。少量の魔力でも結晶が綺麗であれば劈開は勝手に連鎖してくれる。逆に加減が難しい。
「コバヤシ、交代だ」
「あれ、もうそんな時間ですか」
「……またおかしな魔法を編み出していたらしいな」
「そのおかしな魔法に感謝する日が来るかもしれませんよ?」
「フン、早く寝ろ」
「お休みなさい」
「あぁ。存分に肩の力を抜くといい。貴様は油断こそ少ないが、肩肘を張り過ぎるきらいがある。早く0と100の間を覚えろ」
「バレバレですか」
「バレバレだ」
ホント、敵わないな。まぁ、今日のところは最強の見張りに甘えてぐっすり眠るとしよう。明日でケリが着くといいなぁ。帰路も考えると食糧に余裕があるとは言えないからな。
いや、今考えても仕方がないか。あっさりと看破された通り、体力と魔力ではなく精神的な疲弊の方が遥かに深刻で、既にかなり眠い。
羊を数える間もなく、意識は深く沈んでいった。
「小林ちゃん!起きて!緊急事態よ!!」
身体を強く揺す振られ、沈んでいた意識が瞬時に浮上する。
「敵襲か!?」
「違うの!前に進めないのよ!」
「は?」
前に、進めない……?
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