第75話 作戦会議
いつも読んで下さって有難うございます!
思いの外前準備が長くなってしまいました。
次話から探索パートに入ります!
案内された部屋で各々の荷物を整理し、作戦会議を始めようとしたタイミングでノックの音に遮られた。魔紋からして、イリアの隣にいた男だ。
「どうぞ」
先ず目についたのは短髪の赤髪に緑色の瞳。体格も近くで見ると金剛と同じくらいゴツイな。魔力量も俺の全快時と同等に近いし、まともにやり合ったら敗北濃厚だ。
「ほらよ、今渡せる物資だ。残りは出発時に自分らで荷台に積んでくれや。めんどくせぇからな」
受け取ったのは走り書きのメモと、見たことのない石だった。
「この石は何ですか?」
「知らねぇのか?……めんどくせぇな。“音響石”つってな、魔力を込めてぶち割ると注いだ量に応じた爆音が出る。コイツもメディーラ大洞窟で取れる石の1つだ。まぁまぁ貴重だからここぞって場面で使えよな」
面倒臭いとか言いながらちゃんと説明してくれるんだ。「実は似た魔法を使えるんですよ」なんて言うのは野暮だよな。有難く頂戴しておこう。
「助かります」
「人死には少ねぇに限る。気にすんな」
もしやこの人、メチャクチャ良い人なのか?
「お名前を聞いていませんでしたね。教えて頂けますか?」
「あ~、ファズ・ノードだ。ついでにさっき隣にいた女はパール・メイラス。じゃあな、もう引き止めんなよ、めんどくせぇから」
手をひらひらと振りながら去っていくファズさん。彼とは仲良くなれるかもしれない。
「やはり、あやつらが“断罪”のファズと“福音”のパールだったのか」
へぇ、あの2人は“十指”だったのか。道理で隙が無いわけだ。
「面倒見が良さそうな殿方だったわね。因みにそのメモはなぁに?洞窟の地図?」
「大事な鉱床の地図を渡す訳ないだろ。見た感じ、洞窟に出現する魔物のリストだ。聞いたことない種族が多いけど、肝心の具体的な特徴は殆ど書いてない」
きっと「わざわざ細かい特徴まで書くなんてめんどくせぇ」的なノリで省いたんだろうな。
「ふむ、見せてみろ……。下位種の龍まで出るのか。少し厄介だな。力を抑えておいて正解だった」
「どういう意味ですか?」
「人族至上主義を掲げる国が、自国民を傷つけた混血児という唾棄すべき存在を生かしておく理由は?」
突然話が飛んだ様に思えたが、すぐに言葉の意図が掴めた。
「聞き出したい情報があるんですね?」
「そうだ。退魔石を求めるのは守りを更に鉄壁にするため。ヘラを殺さずにいるのは、村の場所を知り、数名のエルフを攫って戦力を増強するため。また、守りを重視している様子から察するに、遠く無い未来に災厄級の何かが襲来すると知っているのだろう」
「酷い人達ね!……でも、それと魔力を抑えるのがどう関係するの?」
「多分、4割の力じゃまず達成不可能な条件を提示して、大切な情報源を奪いに来た異邦人を自らの手を汚さずに処分したかったんじゃないか?」
恐ろしい謀略、詐欺女神よりも悪辣だ。
「正解だ。洞窟を探索している間に村の場所を特定し、尚且つ私達が生還した場合は攻防の両面が盤石になる。石だけが手に入った場合でも、目的の半分は労せず達成される」
「ダメ押しに、どちらの目論見も破綻するという最悪の結果に終わったとしても、“聖者”か2人の“十指”で地図を携えてちゃちゃっと石だけ回収すればいい」
下手したらゲルギオスやベリューズ以上の周到さだ。戦力面に関しても“聖者”と“十指”が揃っていれば最低でも首都は守り切れる。ここまでくると一周回って感心する。
「あんなに穏やかな顔してそんな恐ろしい事考えていたのね。人間不信になりそうだわ……」
「でも、セリンさんのお陰で採掘以上の無理難題を吹っ掛けられずに済んだ。ですよね?」
「確実な命の保証はない。努々気を抜くな」
「勿論ですよ」
もしかして、最初に力をセーブする指示を出した際に理由は教えてくれなかったのは金剛のためだったのか?不安や恐怖が魔力に影響する可能性を考慮して。
「流石は年の功、ってレベルじゃないな。先見の明があり過ぎる」
「年の功、だと?」
……マズい、久しく踏んでいなかった地雷に足を置いてしまった。
「いえ!聞き間違いですよ!ほ、本題に入りましょう!」
「次は無いからな」
「はい、肝に銘じます」
「今のは小林ちゃんが悪いわね!さ、何から決めるのかしら?」
「先ずは陣形と各々の役割からだ。基本的な陣形は1から5まである。私が数字を言うだけで即座に該当する陣形になれるまで頭に叩き込め」
「了解です」
「頑張るわ!」
その後は緊急時の対応や荷物の配分など、目的を達成する上で必要な事項を粗方話し合った。特に魔物の対処に関しては入念に策を練った。
ファズさんから貰ったメモには本当に最低限の情報しか書かれていなかったからだ。何が起こるか分からない以上、あらゆる事が起こると想定しておかねばならない。
数時間に及ぶ議論が終わりかけ、セリンさんが最終確認を取る。
「他に質問はあるか?」
「あります。歩いた場所が自動的に地図化される魔法か、或いは現在地が既に通った道か否かを判別するための魔法はありませんか?」
上記の内のどちらかがあるかないかで、探索にかかる時間には天と地程の差が生まれる。
「……なるほど、後者に近いものならある。“リビール”と言ってな、特定個人の足跡を浮かび上がらせる。細かい条件はあるが、通常は標的の追跡に使う」
最高に有用じゃないか。セリンさん万歳だ。
「それを使えば同じ道を行ったり来たりした時に一瞬で気付けるわね!」
「よし、洞窟に入った時点から使用するとしよう。他にはあるか?」
「ん~特に無いわね!」
「僕も大丈夫です」
「では明日の昼前に出立だ。各自十分な睡眠を取れ」
「見張りが無い睡眠なんていつ振りかしら」
「明日からまた再開すると思うけどな」
軽い会話を交わした後、時間を置かずに就寝した。久々のベッドの包容力には抗えなかったのだ。
「起きろ、コバヤシ」
「あ、おはようございます」
詐欺女神から一言くらいアドバイスがあると踏んでいたんだが、無かったな。最近アイツと会っていない気がする。寂しいなんて可愛い理由ではなく、純粋に違和感がある。
「おはよう小林ちゃん。さっきパールちゃんが来て、荷台横に最低限の物資を用意したって連絡しに来てくれたわ」
「有難う。朝ご飯は道中食べる感じですか?」
「そうだな。数日分の食料もあると聞いた。可能であればパラメナを狩りながら向かうぞ」
「ですね」
城を出ると、入口付近にレンツ車と数個の木箱が積まれているのが見え、側にはパールさんが立っていた。
「提供有難うございます。これが昨日言っていた残りの物資ですか?」
「残り?何の話だ?」
まさか、アレは個人的な提供だったのか?……念の為黙っておいた方が良さそうだな。
「あ、いえ、失礼しました。自分の勘違いです。恥ずかしながら寝起きなもので」
「……呑気なものだな。まぁいい。確かに渡したからな」
それだけ言うと、彼女は城に戻ってしまった。無愛想な人だ。
「コバヤシ、荷物は積み終わったぞ。さっさと乗れ」
「はい!すぐに!」
出国の際は入国時と同様に荷台の確認をされ、その後は“ストレングス”と“コンフォート”でメディーラ大洞窟まで駆け抜けた。無駄な戦闘による消耗を避けるためだ。
偶々パラメナを発見して仕留めた時以外はノンストップの道程だった。
眼前にて大口を開いて構えるメディーラ大洞窟は、圧巻の一言に尽きた。
「想像以上におっきな洞窟ね~」
「数日分で足りるか怪しくなってきたな」
「食料が尽きれば中の魔物を狩ればいいだけだ。行くぞ、陣形1だ」
セリンさんを先頭に、最後尾が俺になる形で直線を作るのが陣形1。基本はこのフォーメーションでいくらしい。
緊張8割、ワクワク2割といった具合だな。油断せずに行こう。誰一人欠けることなく目的を達成するために。
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