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転生保険とかいう悪徳詐欺を許すな  作者: 入道雲
第三章 レインティシア・イリア教皇国
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第72話 イリア教皇国

いつも読んで下さって有難うございます。

イリア教皇国というサブタイトルですが、入国は次話からになります笑

四面楚歌をどうにかこうにか切り抜けてからは、何事もなく森を抜けられた。つまり、護衛役であるリリーラさんとはここでお別れだ。


「では、達者でな」


「リリちゃんなら心配要らないけど、帰り道も気を付けてね!」


「本当に有難うございました!イリア教皇国での目的は存じ上げませんが、上手くいくように願っております!」


「こちらこそ助かりました。貴女の魔法が無ければどうなっていたことやら……」


「いえいえ!次は“賢者の村”でお会いしましょう!」


無事に任務を達成した彼女の緊張はすっかり解けたらしく、随分と快活に振舞っている。元来の性格はきっとこっちなんだろうな。


愛する人を残して死んでしまう恐怖は、誰であろうとあれ程狼狽させてしまうものなのだろう。


「うおっ、見えなくなった」


「幻覚魔法の応用だろう。リリーラに配偶者がいなければ、是が非でも仲間に引き入れたいところだが……。詮方ないな」


また、遠い目をしている。迂闊に踏み入ってよい領域ではないと脳が忠告している。自身の思考を逸らすため、先刻から感じていた変化をわざと声に出す。


「それにしても、凄く寒いですね」


「そうね~、肌寒いわね」


は、肌寒い?……金剛の頑強な装甲には防寒機能も備わっていたのか。非常に羨ましいが、絶対に言葉にしてはいけないな。


「フェート大森林以北は気候がガラリと変わり、降雪も珍しくない。今までとは異なる環境での戦闘には細心の注意を払え」


「当然です」

「頑張るわ!」


全員魔力の消耗が激しかったため、久方ぶりに通常運行でレンツ車を走らせること数十分。セリンさんの異変に気が付いた。決して御者をする彼女を凝視していたからとかそういう訳じゃない。断じて。あの詐欺女神に誓って。


「大丈夫ですか?」


「何の話だ?」


いやいや、強がりにも限度があるだろ。尖った耳は赤く染まっているし、シバリングが一向に収まる様子がない。寒さに弱いなら言ってくれればいいのに……。


火を使わずに簡単に暖を取る方法か、意外とイケるかもな。やってみよう。


「“ウォーム”」


「!?」

「あら、凄いわね!」


うん、予想通りだ。気温が低い状態とは、気体分子の運動が鈍い状態と言い換えても差し支えない。要するに、その逆をイメージしてやれば気温は制御可能だ。


とは言え、細かな温度調整は難しい上に、狭い領域でも魔力消費が思っていたより激しい。それでも大した量ではないが、常時発動は厳しいな。


「コバヤシよ」


「どうしました?」


「恩に着る」


「ん!?」


「……二度は言わん」


常時発動しよう。魔力が枯れるまで。


──────────── 


途中拾い集めた枯れ木を燃やし、暖を取りながら今後の予定を共有する。もう立派なルーティーンになっている。


「明日は“ストレングス”と“コンフォート”を使用して移動する。故に、明日の午後には着くだろう」


感覚狂うよな。体感の時速でしかないが、強化状態のレンツ車の出すスピードはゆうに時速100キロを超えている。村からの距離を概算すれば、教皇国まで1,000キロはあると思う。


「見張りは私の次にコンゴウ、最後にコバヤシの順だ。異論はあるか?」


「無いですね」

「了解よ!」


俺の疲労を加味しての順番だ。心底有難い。


「お先に失礼します」

「敵が出たら叩き起こしてくれていいからね!」


「要らぬ心配だ。回復に専念しろ」


極度の緊張を経験したからか、見張りの順番が回ってくるまで一度も夢を見なかった。



「うぅ、寒いな……」


「夜は流石に冷えるものね。じゃあ、よろしくね!」


「おう。お休み」


結局メナス夫婦との邂逅のせいで全快には至らなかった。極力消費を抑えていたつもりではいたが、7割のパフォーマンスが限界だな。


力加減を文字通り体で覚えたとは言え、激しい頭痛と筋肉痛にすっかり慣れている自分が恐ろしい。徐々に人間離れしているのを実感する。


「……ん、パラメナか。いいね、朝ご飯にピッタリだ」


セリンさんから聞いていたモブの1匹だ。真っ白なキツネの見た目をしたソレは、申し訳程度に鋭い爪を携えているが、教皇国付近では市場に並ばない日は無いらしい。


「“アイスピアー”」


高速で射出された氷柱は正確にコアを貫き、純白の地面がじんわりと赤く染まる。そう言えば、食料を得るためならどんな外見の魔物でも躊躇なく仕留める俺を見た金剛がドン引きしていたな。


俺にだって可哀想だと思う心はあるが、生前人任せにしていた部分をやっているに過ぎない。命に対する感謝だって忘れていない。


初めての血抜きやその他諸々の作業に四苦八苦している間に、空が白んできた。いつもはセリンさんがいつの間にか終わらせているから、こんなに大変だとは思わなかった。だがコツは掴んだ。ボーナス倍率万歳だな。


時間も丁度いい。火を起こして皆を起こそう。枯れ木を集め、加熱調理に入る。ワイルドホーンなんか比較にならないくらい良い匂いだ。食欲を刺激される。


「そろそろ起きて下さーい。朝ですよー!」


声をかけた直後にレンツ車からのそのそと降りて来た2人。既に起きていたらしい。


「む、バラメナか。コイツは燻製にしても美味いぞ」


「良い香り!王国から持ってきた調味料も要らなそうね!」


「直に火が完全に通ります。今しばらくお待ち下さい」


あぁ……、焚き火に手を当てて暖を取るセリンさん、可愛い。


十分に火の通ったパラメナの肉は柔らかく、臭みも無かった。村に戻る前に燻製を用意しよう。保存食よりよっぽど美味しい筈だ。


「地竜の皮を骨組みに被せろ。視界の通る現状でソレを寝かせておく理由は無い」


「了解です」


金剛と共同で地竜の皮を覆い被せる。これなら風を防げるし、“ウォーム”による消費も相当抑えられる。到着まで発動し続けても支障は無いだろう。


「さて、出発だ。準備はいいな?」


「いつでもオッケーよ!」

「お願いします!」


手綱の一振りでレンツは走り出す。凄まじい速度が出ているのだろうが、一面の銀世界と“コンフォート”の影響でイマイチ実感が湧かない。


「ヘラちゃんだっけ?スムーズに引き渡してもらえるといいんだけど」


「そうはいかないんだろうな……」


面倒事に巻き込まれる予感しかしない。そして残念ながら、嫌な予感は当たるのが世の常だ。保釈金的なアレでちゃちゃっと解放してくれると助かるのに。


出発からイリア教皇国に到着するまでの約5時間、一度も接敵しなかった。どころか、感知に引っ掛かる魔物すら殆どいなかった。


この幸運が逆に怖い。どうにか続いてくれますように……。

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