第69話 条件
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「「よーいドン!!」」
了承を出す前に攻撃してきやがった!どうせあのナリでも半世紀は生きてんだろ!?良識とかないのか?
左方向から飛来してきた岩を砕き、地の下から這い寄る魔力が届く前に纏魔の要領で足元を固める。
「いいねぇいいねぇ!」
「下からのは躱すもんだと思ってたよ!!」
更に目をギラつかせる双子。もしやギド帝国ご出身ですか??
その後も水やら風魔法やらで上下左右ありとあらゆる方向から攻めてくるが、辛うじて防ぎきれている。エルフだからだろうか、接近戦は現時点で一度もない。
「ねぇそっちからも来てよ~」
「そうだよ面白くないよ~」
「こんな弾幕を浴びつつ同時に反撃なんて無理ですって……」
動かない戦況に飽きたのか、唐突に一点を見つめるミラとリラ。
「「あ!ガラミュラだ!」」
……気を逸らすにしても下手過ぎるだろ。俺の感知範囲を侮るな。
「“フロスト”、“ブロック”」
「「わっ!あっぶなーい!」」
拙い嘘に乗じて虚を突いてみたが、あんな一瞬だけじゃダメらしい。“ストレング”に関しては戦闘開始時点から8割の出力で発動しっぱなしだ。絶対に明日に響くパターンだろ、クソったれ。
「ねぇねぇ~」
「もう終わり~?」
……一か八か、敢えて隙を見せるか。
視界に収めていた双子から目を話し、遠くを見つめる仕草を取る。勿論、そんな好機を逃す“十指”ではない。
「「余所見はよくないな~」」
案の定、避けられない弾幕を放ってきたので、全力の“ストレングス”で受け切る。滅茶苦茶に痛いが、ギリ耐えられる範囲だ。その上で意趣返しをする。
「いえ、見間違いかもしれませんが、遠くにケリューミアが見えたものですから」
あの珍獣は気配を殺すのが非常に上手い。ハチャメチャに魔法を撃っていた2人が気付いていなくともおかしくはない。
となれば、貴重な激レアさんの存在を示唆されたエルフがどうなるかと言うと……。
「「え!?嘘!どこどこ!?」」
見事な魔力制御だ。完全に抑え込むまでにコンマ数秒もかかっていない。形勢をひっくり返すなら、今だ。
「“マッド”」
やっと騙されたことを悟ったようだが、時すでに遅し。2方向に別れて地を伝う魔力が足元に泥沼を生み出し、動きを阻害する。
「「ウソつくなんてサイッテー!」」
先に騙してきたのはそっちだろ。リラに全速力で近付いて殴りかかったが、あと数センチというところで反射的に寸止めしてしまった。
実年齢が何歳であろうが、中学生にしか見えない奴を躊躇なく殴れる程イカれてはいなかったらしい。
「あ~あ、勿体ない。最後のチャンスだったのに」
右拳に力を集中させ、ボディーブローを狙うリラ。実にナイスだ、助かる。
「“アグダロト”」
軽く飛び退きつつ、パンチを受け止める。
「いっったぁ~い!!折れたんですけどー!!」
感謝してくれよ。後退せずに踏ん張っていたら反作用で拳が砕けていた。
「リラに何すんのよ!」
ブチ切れながらも綺麗な右のハイキックを放つミラには、オリジナル魔法で対処しよう。
「“G・ストレングス”」
粘着性の高い魔力の下に薄く通常のストレングスを張り巡らせ、ダメージの軽減を図った改良版。いいね、想像以上に上手く機能している。
「うえっ!離れない!?」
目論見通り、困惑している。相手は“十指”だ。俺如きがダメージを加えても大ケガにはなるまい。
右腕を振り下ろし、勢いよく地面に叩き付ける。受け身を取る暇なんて与えない。
「ぐぇ!」
カエルの様な呻き声を出した彼女を解放し、停戦を申し出る。
「ここいらで止めにしませんか!?十分“味見”は出来たと思うのですが!」
「ん~、どうする?ミラ?」
案の定あっさりと立ち上がる姉。咄嗟に“ストレングス”を発動したっぽいな。
「いいんじゃないかな、リラ。期待以上に楽しめたし」
……いつ折れた手を治したんだよ。しかも、初見殺しを2つとも使用したってのに彼女らの本気を引き出せなかった。多少は成長したつもりでいたが、まだまだ上は果てしない。
「じゃあ、とある依頼を見事達成してくれたら、話を聞いてあげる!」
「立場上、ワタシ達じゃ不可能なんだよね~。どうする?」
ここまでやって更にお使いまでこなさないといけないのか?いい加減にしてくれ……。
「いいだろう。内容を聞かせろ」
即答するセリンさんを慌てて引き止める。
「ちょっと、二つ返事で受けちゃって大丈夫なんですか?無理難題を吹っ掛けられる可能性も十分有り得ますよ?」
「仕方あるまい。他に道はないのだ。前にも言った筈だぞ『どうにかなる、ならないではない。どうにかするのだ』と」
ブレないなぁ。カッコいいけどさ。
「相談は終わった?安心してよ!依頼は“超単純”だから!」
「イリア教皇国に囚われている同族、ヘラ・ウェリスの奪還!それだけ!」
よりによって人族至上主義のイリア教皇国か……。
「あれ?エルフって真ん中にも名前がありませんでしたっけ」
「……例えば、セリン・ミル・ラネーシュの“ミル”は私の先祖の名だ。他にも、尊敬する人物の名を入れる者もいる。貴様らは今言った例に該当するな?」
「バレた?」
「ワタシ達、ジ・ギド様の強さに憧れてるから!」
「しかし、“忌み子”には中間名を付ける権利が無い。獣人族とエルフの混血児は、レインティシアにおいて古来より忌避されているからだ」
「そんな……」
長く続いている慣習に口を出す権利など無いのは重々理解しているが、あまりにも不憫だ。因習と言ってもいい。
「大きな声では言えないけど」
「ヘラのこと、結構気に入ってるんだよね」
「それで、彼女を連れ戻して来いと」
「その通り!」
「村の皆はテキトーな理由で誤魔化しとくからさ、手段は問わないから奪還してきてよ」
「了解した。明朝出発する。」
「ヤッター!話が早くて助かる~!」
「大森林を抜けるまでは荷台で見張りしてる人族と同じくらい強い護衛も付けてあげるね!」
しれっと離れた位置にいる金剛の実力を看破している辺りが末恐ろしいな。絶対に敵に回したくない。
「気遣い痛み入る」
「陽が昇る頃には護衛役を連れてくるよ!」
「ってことでバイバーイ!」
村に戻って行く2人を見送り、気になっていた点を確認する。
「因みに、僕の見立てではとんでもない無茶を押し付けられたと踏んでいるのですが、如何ですか?」
「断言は出来んな。すんなり終わる可能性もあれば、最悪教皇国を敵に回す未来もある」
うん。九分九厘後者のパターンになるだろう。俺の経験がそう告げている。何故なら、リラは“超簡単”ではなく“超単純”な依頼だと言っていたからだ。
嘘ではない。囚われの身にある同族を解放する。確かにシンプルだ。……はぁ、気が重い。
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