第68話 門前払い
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大木から伸びた枝葉の隙間から漏れる陽光が赤く染まり出した頃、漸く大勢の人の気配が感知に反応した。
2日目以降、金剛が大活躍してくれたお陰で殆ど危な気無く目的地に到着できた。ポテンシャルとやる気が噛み合った彼女の実力は予想以上で、1等級兵士レベルなら倒せてしまうのではないかと思える程のものだった。
「祖母からの情報が間違っていなければ、あそこが“叡者の村”だ」
「原始的な集落ですね」
「魔物が入り放題じゃないの」
合計10,000人、片方で5,000近いエルフが生活を送っているのだとすれば、一端に整った防御壁等があると踏んでいたのに。ギド帝国とさして変わらない木の柵が長く連なっているだけだ。
「各個人が自衛可能で、尚且つ“叡者”までいるとなれば視界や射線を遮る壁は邪魔でしかない。もう一方も同様だろうな」
「なるほど……」
その発想は無かった。正に強者の理論だ。
「降りるぞ、奴らに武器や敵意が無いと示す。1人は見張りとして残れ」
「オッケー!ならアタシに任せて!」
入口から50m離れた地点でレンツ車から降り、門に近付いて行くと、2人いた門番の内の片方が問いかけてきた。
「何用だ!」
「危害を加えるつもりは一切無い!話がしたくて来た!不躾を承知で頼む!フェリュート・ネル・ライラスに会いたい!」
長の名前を出した途端、門番の魔力が跳ね上がった。警戒態勢だ。
「質問に答えろ!」
「子細な部分まで語るには時間がかかる!一先ず中に入れてもらいたい!」
「怪しい奴め!テューラ!槍を構えろ!」
「待て待てミューダ、相手をよく見ろ。害意が無いのは明らかだ」
「それこそが敵の策略である可能性を貴様は否定できるのか!?」
あー、面倒臭い雰囲気になってきた。どっちも普通に強い。頑張れば倒せるが、そんな状況になれば確実に目的を果たせなくなる。
「どうします?」
「頭の硬い……。警備として至極当然ではあるが、限度がある。かと言って、強行突破は下策だ。5,000人に囲まれて生き残る術は無い」
「ですよね……」
口論を続ける門番に住人が気付き、ざわつき始めた頃、嬉しいことに目的の人物の方から出向いてくれた。
「やかましいぞ、ミューダ」
「フェリュート様!申し訳ございません!この者らが村に入りたいとしつこく要求しておりまして……。追い返そうとしていたところであります!」
禿頭に鳩尾まで垂れさがる白い髭。長老のお手本みたいな外見だ。だがしかし、眼光は射抜かれんばかりに鋭く、魔力に関しては静謐さが段違いだ。制御技術においてセリンさんの上を見たのは初めてかもしれない。
門を出て此方に歩み寄って来た彼は厳かに、しかしハッキリと拒絶の態度を示した。
「大事な時期でな。同族ならともかく、ハーフエルフと人間なんぞと対話するつもりは毛頭無い。ケガをしたくなければ即刻立ち去れ。これは忠告ではない。命令だ」
「……突然の来訪、失礼した。二度と近付かないと約束しよう」
「物分かりがよくて助かるわい。もしワシではなくエルフ族に用事があるのなら、“賢者の村”を尋ねるとよい。少なくとも門前払いはされんじゃろうな」
躊躇いなく踵を返し、背中を晒して戻って行く“叡者”。急襲されても余裕で捌けるってか。
「素直に“賢者”の村に行きます?」
「それしかあるまい」
入ることすら叶わないとは……。随分と排他的だな。いや、“大事な時期”とも言っていた。大きな催しがあったりするのか?
「ここまで聞こえていたわ!意地悪なのね!」
「切り替えろ。陽が沈みきるまでには着くぞ。嫌な予感がする」
レンツに強めの“ストレングス”と“コンフォート”をかけ、木々の隙間を縫うように駆け抜ける。
「ヴァンディーもラウネーシュも追い付けないスピードね」
「予定が狂っちゃったからな。にしても速過ぎるけど」
圧倒的な速度の恩恵によって30分もかからずに“賢者の村”に着いた。やはり柵で簡単に全体を覆う程度の守りしかない。
「コバヤシ、降りるぞ。コンゴウ、見張りを頼む」
「りょーかい!」
入口には中学生程の背丈の双子が立っていた。雪を連想させる肌に翡翠色の長い髪、そしてエメラルドを彷彿とさせる瞳。最早ドッペルゲンガーを見ている様な気分だった。
「「ようこそ、“賢者の村”へ!」」
「ワタシが姉のフェート・ジ・ミラで」
「ワタシが妹のフェート・ジ・リラ!」
「レインティシアの“十指”って双子だったんだ」
「1人では他の“十指”にやや劣る実力だが、両者が揃えば間違いなく上回る」
「そうなの!」
「ワタシ達まだまだ成長期だから!」
「で?用件は?」
「ぶっちゃけ精霊祭の準備で忙しくて部外者に対応している暇は無いカンジなんだけど!」
「精霊祭?」
「あぁ……的中してしまったか……」
珍しく肩を落とすセリンさん。完全に置いてきぼり状態だ。
「詳しく説明してもらえますか?」
「毎年3月になるとね」
「大森林を司る精霊様を崇めるお祭りがあるの!」
「より豪華に崇められた村が勝者となって、その一年は精霊様からの恩恵が多く貰えるの!」
「だから絶対に負けられないの!余裕が無いの!」
「春に催されるとは聞いていたのだが、まさか既に準備期間に入っていたとは。誤算だった……」
フェリュートめ、分かっていて俺らを送り込んだな?あわよくば準備の邪魔になれば僥倖だとか考えて。ベリューズタイプだ。
「余所者である我々に割く時間が無いのは重々承知の上で頼みがある。話を聞いてくれまいか?」
「うーん、どうしよっかなー」
「あ!リラ!あの遊びで決めようよ!」
「遊び?」
「おにーさん目瞑って?」
目配せで確認を取ると、首肯で返された。了解です。
「はい、閉じましたよ」
「「10秒数えたら目を開けていいよー!」」
ゲームの内容は予想が付いた。実に運が良い。目を開けて、何かを言われる前に目の前に立つ少女達に向かって宣言する。
「僕から見て右側がミラさんで、左側がリラさんですよね?」
「「すっごーい!」」
「「どうして~!?」」
「魔紋がほんの少しですが異なります。第一、妹さんの方は姉に合わせて魔力を抑えていますよね?そりゃあ外見が一緒でも区別つきますよ」
「……へぇ~」
「結構やるね、おにーさん」
俺の解答を聞くや否や目の色を変えた2人。エルフって元来温厚な種族なんですよね?セリンさん??
「「ついでに、少しだけ“味見”させてよ」」
「勘弁して下さいよ……」
助けを求めるべく横目でチラリと視線を送る。
「私の知らぬ間に、エルフも変わりつつあるらしいな……」
ダメだ。感慨に耽っていらっしゃる……。もう即興でやるしかない。ヤケクソだ。
習得した全魔法で暴れるだけ暴れてやる。
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是非とも!




