第67話 本音
いつも読んで下さって有難うございます!
今回は金剛視点になります!!
本心を飲み込み、荷台に乗り込んで、厚手の布を被って目を閉じる。すると、自然と考えなくてもいいことをつい脳内会議しちゃう。小っちゃい頃からの悪い癖。
──ネミュラとガラミュラの群れに対峙した後からずっと、彼が怖かった。
庇われた瞬間頭の中に渦巻いていたのは、カッコいい!助かったわ!ありがとう!みたいな正の感情ではなく、どうして?何で?有り得ない、という困惑と恐れが半々に入り混じった負の感情。
迷わず自分の手を切り落とし、即座に周囲に対して的確な指示を出す。それ自体はカッコいいし、スゴいなって感心している。
もしセリンちゃんがアレをやってのけたのだとしたら、手放しで彼女を褒めちぎっていたと思う。
でも、違う。彼は、生まれも育ちも同じ日本人。ギド帝国で聞いた話では、普通の新卒会社員だったハズ。なのに、あの判断力と行動力。
一番怖かったのは、治癒を受けながら虫を淡々と薙ぎ払っている際に口から漏れていた『利き手を残しておいたのは大正解だったな』というセリフ。
当人は口にしたことすら気付いていないかもしれないけれど、その一言で激しく動揺しちゃって完治までの時間が数秒遅れちゃうくらいに戦慄した。
戦闘が終わった後もケロッとしていて、さも当然だと言わんばかりに『事前情報から可能な限りあらゆる“最悪”を想定するようになったんです。』と言い放った。
つまり、“あんな状況”を含めた色んな“最悪”に陥るケースを前もって予測していたって意味でしょ?この世界の兵士としては正常なのかもしれない。だとしても、同じ日本人としては……“まとも”じゃない。
命を救われた身で酷い言い草だって自分でも思うけど、看護師として沢山の人を看取ってきたアタシには何となく分かる。小林ちゃんは、感情を理解している節があるんじゃないかしら。
しっかりと心はある、これは確かな事実。けれど、どう言えばいいのかしら……。
あ!例えるなら“優しい人と優しく出来る人”的な違いに近いのかしら。
前者は「性格から人に親切な態度を取る人」で、後者は「そう接するのが社会一般的に“正解”だと知っているから実行に移している人」。要するに、“優しさ”という感情を理解しているのよ。
“恐怖”を理解しているから、ビズとの初対面で怯えていた。身の危険に晒されていながら対処法が無かったから、畏怖の念を抱くのが正常だと脳が判断し、魔力に感情を反映させた。
一方で夕方の戦闘では、予想の範囲内で事前に解決策を用意していた。手を切り落としても生えてくるのはパロッツちゃんの一件で確認済みだし、セリンちゃんが本気を出せば状況を打破可能だと知っていた。だから、感情を圧倒的な理性で抑えられた。
……本当にスゴい。でも、ちょっと悲しい気持ちになる。
元からなのか、キッカケがあったからなのかは知らない。だけど、いつかは感情をそのまま解放してほしいな。……こんな考え、傲慢かしら。
どちらにせよ、明日からは頑張らなきゃ!人を変えるには、先ず自分から変わらなきゃだもんね!
決意を新たにしたところで、意識は微睡んでいった。
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深夜から明け方までの見張りを終えてからは、完全に気持ちが切り替わった。
「“ブレード”!」
「ナイスだ金剛!」
「残った右の5体は任せてちょうだい!2人はボス猿に向かって!」
「お、おう」
「承知した」
フフ、小林ちゃんったら、あまりの変わりっぷりに動揺しちゃってる。案外カワイイ一面もあるのね。
3人で動けるようになったから、昨日の苦戦が嘘みたいにサクサクと進んだ。
ケリューミアを見つけた興奮で漏れたアタシの魔力で逃げられちゃった時のセリンちゃんは、ビズの10倍は怖かったわ。
「どうしたんだよ金剛!凄いじゃないか!たった一日でどんな魔法を使ったんだ?」
「秘密!“男子三日会わざればなんとやら”って言うけど、乙女は変身に一晩も要らないのよ!」
「フン、ようやく元来の実力を出せるようになったか。今日も変化が無ければ私が直々に鍛え直していたところだ」
そ、それだけは勘弁願いたいわね……。
2日目で初日の遅れを十分取り戻せたらしく、またもや早めに野営をする運びにった。
この味気ない保存食とも、明日でおさらばできるのね……。
「さて、明日の夕方までにはレインティシアにある2つの村の片方に着く予定だ。そこで、貴様らに新たな情報を開示する。コンゴウが変わらなければ黙っているつもりだった情報だ」
「ってことは魔物関係ですか?」
「然り。出会ったら真っ先に逃走を図るべき魔物について、だ」
嘘でしょ?ガラミュラよりおっかないモンスターがいるっていうの??
「あ、貴女がいても?」
「1頭なら問題なく勝てる。しかし、ソイツは雌雄2頭で行動している場合が殆どだ。名をディアメナスとディオメナスと言う。前者がメスで後者がオスだ」
「2匹同時だと勝てないんですか?」
「勝てるが、消耗が激しい。夫婦の片方が死ぬと残された番が輪をかけて狂暴になる。確実にコバヤシに無視できない“反動”を強いるハメになると踏んでいる」
「なるほど、納得しました」
やっぱり2人は強いわ……。常に先の先まで考えている。だけど、いつまでも背中を追っかけてばっかりじゃダメよ!気合を入れなさい!金剛力也!
「ねぇ、偶にはアタシから見張りをやってもいいかしら?」
「いいのか?お肌に悪いんじゃないのか?」
「いいのよ!1日くらい!今日だけよ!」
「当人がいいと言っているのだ。やらせてやれ」
「じゃ、そゆことでお2人さん、お休みなさ~い!」
取り敢えず魔力制御技術を向上させて、治癒速度を上げるのを目標にしようかしら。
100倍なら、多少の無茶をしても“反動”は我慢できちゃうものね。
「……あら、綺麗ね」
昨日は気付けなかった星の瞬き。この紛れもない成長の証を、きっと忘れない。
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