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転生保険とかいう悪徳詐欺を許すな  作者: 入道雲
第三章 レインティシア・イリア教皇国
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第66話 最悪のパターン

いつも読んで下さって有難うございます!

「これが、大森林……」


視界に収まり切らない高さの大木が林立し、木々の隙間は車2台が容易に通れる程の幅がある。


「“大”って付いているだけあるわね~!5本も切れば豪邸が建ちそうだわ!」


「……そんな無礼を働けば、エルフの手によって大木の“養分”と化すだろうがな」


「ヤダ、怖い事言わないでよ」


「冗談でも脅しでもない。厳然たる事実だ。過去に実例がある」


世間話の如く身の毛もよだつ内容を口にしながら、彼女は森に入る直前でレンツ車を一時停止させた。


「どうかしたんですか?」


「地竜の皮をしまえ。中では防御よりも視界の確保の方が遥かに重要だ。再三忠告をしているが、特にガラミュラにだけは気を付けろ。いいな?」


「モチのロンよ!だって、死にたくないもの!」


昨日から累計で4度目の注意喚起。……最悪のパターンも想定しておくとするか。


「特にコバヤシに向けて言っておくが、これ以上進むと翌日“反動”でまともに動けなくなると判断したら真っ先に知らせろ。元来大森林は9人の班で探索するのが定石だ。普段以上に慎重にならねばならん」


「確約します」


起こり得る最低のミスだ。無茶だけはしない。肝に銘じよう。


「中に入るぞ。ひと時も感知を切らすな。生きてレインティシアに辿り着きたければな」


平時よりもゆっくりと走っていたレンツ車の中にいた俺は、侵入から1時間と経たない内に多くの反応を捉えた。


「ヴァンディーですかね?」


「だろうな。降りて迎撃の準備を整えろ。魔力の無駄遣いだけはするな」


「分かっていますよ」


「もぉ~、どうして2人はそんなに冷静なのよ~。ホント無理!」


甲高い声を上げながら飛び出してきたのは、苔色の体毛に覆われた猿だった。聞いていた通り1匹1匹の強さは大したことはないが、多過ぎる。


「100……もっとか?」


「数える暇があるならボスを探せ」


「大丈夫です。そこにいます。僕が切り拓くので、お山の大将は任せます」


「……了解した」


纏魔を施し、“道”の邪魔になる首を落としていく。ストレングスも殆ど要らないな。


「十分だ。後ろのフォローに回れ」


「……ですね」


不快な鳴き声が反響する中、戦闘開始5秒からずっと続いている悲鳴の元へ向かう。


「小林ちゃ~ん!助けてー!!」


蹲る金剛に群がる猿。元々のフィジカルと多少のストレングスが相まって、ダメージは一切ないのが見て取れる。溜息を吐き、5匹の雑魚を蹴り飛ばした。


「ありがど~!じぬがと思っだ~!」


「それだけの強さがあって負けるわけがないだろ……。そっちは終わりましたか?」


「当然だ」


三々五々に散って行く奴らを見れば聞くまでもなかったな。


「コンゴウ。言われなくとも分かっているな?」


「次からは大丈夫よ!多分、きっと!」


物凄く不安だ……。


──────────── 


果たしてその不安は、的中した。


「キャッ!」


「ラウネーシュ如きに大仰な風魔法を使うな!」


「ヒィ!今の音は何!?」


「風の音だ。お前だって感知している筈だろ……」


テレビならさぞかし視聴率を稼げるリアクションだろうが、生憎カメラは回っていない。どうにか落ち着いてくれないものか……。


「このペースだと、3日はかかるな」


セリンさんがぼやいた直後、上空に数多の気配を感じ取った。


「もしかして、ネミュラですか?」


「気を引き締めろ。ガラミュラもいる。……チッ、数が多いな」


「お家に帰りたい……」


「弱音を吐いている場合じゃないぞ。今回はカバーに回れるか怪しいからな」


地に足を付け、覚悟を決める。間違いなく乱戦になる。


「来るぞ!先手を打て!」


掛け声を合図に、複数の風魔法“ブレード”を放つ。3人合わせて十数匹は両断したが、ガラミュラは2匹とも健在だ。


搔い潜ってきたネミュラ達が四方八方から襲い掛かってくる。致し方無い……。“中火”のストレングスで針を防ぐか?


「セリンちゃん!危ない!」


慌てて振り向くと、ネミュラの1匹に刺されていた。とは言え、心配など無用。解毒魔法を既に発動している。寧ろ、マズいのは金剛の方だ。恐らく動揺から感知を切らしている。


「愚か者!上だ!」


忠告を放ったのはいいが、その位置からでは間に合わない。予定通りの“最悪のパターン”だ。球状に領域を拡げる訓練をしておいて良かった。俺なら間に合う。


「ぐっ……!」


硬直している彼女を押しのけ、針を手で受け止める。“中火”では火力不足だったか。刺さるを通り越して、手の平を貫通している。神経が、焼ける様な痛みを脳に伝えてくれる。余計なお世話だ。


即座に“ブレード”を己が手首に放ち、左手首から先を切り落とす。


「コバヤシ!?」


驚愕の声に応える余裕は無いが、総崩れだけは御免だ。


「セリンさんは殲滅に集中して下さい!金剛!毒入りの左手をくっつけても意味が無い!部位再生魔法だ!すぐに頼む!」


ストレングスの応用で思いっ切り筋収縮させて無理矢理血管を狭めてはいるが、出血は止まらない。


「りょ、了解よ!じっとしててね!」


是非とも“奇跡”を眺めていたいが、孤軍奮闘の状態を継続させるわけにはいかない。


「“フロスト”!」


1人仕留めたと勘違いした間抜けを氷結させ、尚も群がるネミュラを剣と魔法で薙ぎ払い続けた。利き手を残しておいたのは大正解だったな。


セリンさんが本気に近い力を出してくれたお陰で、たったの5分で群れは全滅した。


「……予定よりも早いが、今日はここで野営をする。通常通り3交代制だ」


火はご法度なため“ライト”で明かりを確保し、王城から積んできていた保存食を食べる。


あの後から終始無言を貫く2人の気まずさに耐え切れず、適当な話題を切り出した。


「いやぁ、実は僕、想定外のハプニングにメチャクチャ弱いんですよね」


「言っていることとやってのけたことが矛盾しているが?」


「そうよ!アタシの方が全然パニクってたじゃない!!」


当然のリアクションだ。しかし、一切嘘は吐いていない。


「簡単な話ですよ。アドリブの効かない性格はもう変えられないと判断した僕は、何かに取り組む前に事前情報から可能な限りあらゆる“最悪”を想定するようになったんです。そうすれば、さっきみたいな事態に陥っても焦らずに済むでしょ?」


「すっごーい!ザ・インテリってカンジ!!」

「……私は、初めて貴様に恐怖の感情を抱いているかもしれない」


正反対の反応だが、育った環境の差だろうな。片方は平和な日本で生まれ育った人間だ。ピンと来ていないのだろう。もう一方は、文字通り万策を捻り出す苦労と、いざという場面で実行する難しさを知っている。


俺だって完全に予想通りのシチュエーションでなければ、あそこまで完璧に立ち回れていない。正直、買い被られ過ぎな気がする。


「さ、食事も済みましたし、いつも通り僕からでいいですか?」


「大丈夫なのか?」


「えぇ、問題ありません」


「あのね、小林ちゃん。アタシ、明日からは頑張るわ!」


「頼んだぞ」


……さて、他にどんな“最悪”が有り得るか、練り直しておくか。

宜しければブックマーク、評価、感想の程よろしくお願いいたします!

筆の速度が段違いになりますので何卒……!


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