第64話 新たなる旅立ち
いつも読んで下さって有難うございます!
これで第二章は完結となります!引き続き第三章もお楽しみ下さい!
火照る顔を誤魔化しながら夕食を流し込み、別部屋にいた金剛を呼び出した。国王と話すには、一度レイドリスさんを経由する必要がある。……良かった。自室にいるみたいだ。
「そんなに急がないといけない内容なの?」
「あぁ、マジでヤバい話だ」
「……まさか、もう2度目が来ちゃうの?」
「暫くは来ない、と思う。詳細は関係者が全員集まってから話すが、多少の猶予があるとみて問題は無い」
「はー!良かった~」
安堵のため息を吐く彼女にあの“お告げ”を伝えないといけないなんて、本当にしんどい役目を押し付けてくれたよな。詐欺女神のヤツ。
4階にある王子の部屋をノックし、声をかける。
「レイドリスさん!今お時間ありますか?」
誰が来るのか分かっていたのだろう。すぐに扉を開け、俺が何かを言うまでもなく察してくれたらしい。
「何やら差し迫るものを感じますね。謁見が必要ですか?」
「最優先事項だと捉えて頂いて構いません。ゲルギオス王は勿論ですが、ベリューズとトールさん、それからメイド長もお呼び下さい」
「……なるほど。分かりました。15分後に謁見の間にいらして下さい。全員を集めます」
きっかり15分後、眼前にはこの国のあらゆるトップが揃っていた。
「先程ファリス様からのお告げがありました。その内容を、お伝えいたします」
目の前の6名に向かって、今回の災厄で判明した絶望的な事実を伝えた。
「結論から申し上げます。敵方の勢力は、コチラを遥かに上回るとの見込みです」
ピクリと眉を動かし、王が口を開く。
「……遥かに、か。であれば、レイドリスが戦っていたあやつが魔族の長ではないということか?」
「はい。ファリス様は『“祖なる者”が現れた』と仰っておりました」
その発言にいち早く反応したのは、ベリューズだった。
「原初の魔人か!」
「知っているのですか?」
「……我々が何故魔法を使えるようになったのか、貴様は知っているか?」
頼むから疑問に疑問で返さないでくれ。時間の無駄だ。
「いえ、知りません」
「何分古い文献だ。真実かどうかは定かではない。だが、魔法は原初の魔人が人族に伝え広めたとされている」
「え!どうして!?」
金剛のリアクションも尤もだ。意図がさっぱり掴めない。
「魔術を研究する者として相応しくない物言いになるが、話半分で聞いてくれ。……曰く、“お遊び”らしい。“作業”を“遊戯”に変えるため、彼の者は我々に魔の力を与えたそうだ」
誰もが、理解を越えた発言に困惑の表情を呈した。
「彼の者は『つまらん、そして不愉快だ。故に、貴様らに武器と時間、そしてチャンスを与えてやる。滅びたくなくば足掻き、藻搔き、我を楽しませよ。』と言い放ち、魔法を授け始めたと記録にある」
なんだ……それ……。
「要するに、獲物が弱過ぎて退屈だった。だから武器を与えた、とでも言うのか?」
トールさんの理解で合っているが、合っていると思いたくない。命を削って戦っている此方側と違い、敵方はゲーム感覚で人族を滅ぼそうとしているのだ。
「そんな理由で、アタシたちは滅ぼされようとしているっていうの……?」
場の重苦しい空気を打開するためか、国王が再び口を開いた。
「して、女神ファリスは他に何かお伝えなさらなかったのか?」
言わんとすることは魔力のブレを視れば察せられる。とにかく安心できる情報が欲しいのだろう。
「あります。ここからは比較的希望のある話になります。あくまでも“比較的”ではありますが」
“祖なる者”は己のコアを消費して魔族を生み出しており、アベリガレストという強大な魔人と大量の魔物を生成した以上、少なからず力が衰えている。それ故に次の災厄までは猶予がある筈だと伝えた。
加えて、“隠密”に関しても話した。そのスキルが原因で、女神様のお告げが不正確なものとなってしまっていたことも。
全てを聞き終えた国王は顔を上げ、セリンさんに向かって言った。
「第零部隊隊長、セリン・ミル・ラネーシュよ、お主に次の指示を与える」
「……何なりと」
「2名の召喚者に同行し、各国との連携を図りつつ、更なる戦力を我が国に引き入れるのだ」
「はっ!委細承知いたしました!」
どう考えても無理難題だ。しかし、彼女は一瞬の間もなく返事をした。たとえどの様な指令であろうと、そうしたのだろう。ただ、個人的にはかなり嬉しかった。
セリンさんは監視者のつもりだったかもしれないけど、長い時間を共に過ごしたことで、確かな仲間意識が芽生えていたからだ。あとは純粋に、戦力としてかなり頼もしい。
「動きは早ければ早いほど良い。出立は明朝だ。旅に必要なあらゆる準備は済ませておく。コバヤシ殿とコンゴウ殿は、必要な物があれば共鳴のベルでメイドを呼ぶがいい」
「分かりました」
「承知いたしましたわ」
こうして、錚々たるメンツが一堂に会した人族の存亡に関わる会議は、終わりを迎えた。
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「なんか、普通のテリムと違いません?」
翌朝、王城正門に呼び出された俺は、見慣れない生物を見てセリンさんに尋ねた。
「テリムの上位種に相当するレンツという魔物でな、体力も速度も最大積載量も段違いだ。まぁ、人族を救うための旅路に出るのだ。レンツが選ばれるのは必然だろう」
「この車体を覆う皮も随分と丈夫ね!手触りもすっごく良いし!」
「そうであろう。地竜の皮を使っているからな。そこいらの魔物では傷一つ付けられん代物だ」
どこか自慢げに語る彼女は、見た目相応に可愛かった。照れ隠しで腕を折られたりしたら嫌だから絶対に口には出さないけど。
「コバヤシさーん!待って下さいっスよ~!」
「おっ、やっぱり来てくれたか」
明朝に国を発つとは伝えていたが、見送りに来てくれとは言わなかった。言わずとも、駆け寄ってくるパロッツの姿が目に浮かんだから。
「レンツ車に地竜の皮っスか!太っ腹っスね!!」
いつも通りはしゃぐ彼に、意を決して話を切り出す。
「なぁ、お前も来ないか?……なんならさ、直接トールさんに掛け合ってもいいし」
彼の答えは、聞かずとも分かっていた。
「ホントっスか!?自分なんかが付いて行っていいんスか!?……って飛びつきたいのは山々っスけど、自分はオーガス王国の騎士ですから。それは、出来ません」
「だよな……」
今度会う時には、1等級騎士になっていたりするんだろうな。コイツなら。
フラれるのは想定済みだったから、別れの言葉も既に考えてある。
「パロッツ二等級騎士!」
「は、はいっス!」
「ご武運を」
それだけ言って、レンツ車に乗り込んだ。パロッツは、今までで一番カッコいい敬礼をして、剣術訓練場に戻って行った。
正門へと続く道から見える空はどこまでも晴れ渡っていて、これからの旅路を祝福しているように感じた。
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