第63話 夢の後
いつも読んで下さって有難うございます
今回は少し短めですが、裏事情を盛り込んでみました
光に包まれた彼が消えた後、蛍光灯に唯一照らされた市役所の一角で、彼女は呟いた。
「……まさか、私が与えた“隠密”を利用して“祖なる者”を復活させてたってのは予想外だったな~。ガチの凡ミスじゃん。スキルの効果範囲は冗談みたいに拡がってるし。付与まで出来るようになってたし」
口からこぼれる真実は、先程まで語っていた内容とは明らかに異なっていた。
「“隠密”は元々“自分を中心とした特定範囲内において感知に一切引っ掛からない”ってヤツだったのに、スキルって進化すんのかよ。知らなかったわ~。……まさか、進化させてもらったのか?」
「上位女神様、全然手を貸してくれないからな~。そういう初見殺しは勘弁してくれって」
怨嗟の籠った愚痴は、止まるところを知らない。
「まぁ、一回目の同時多発的スタンピードで気付くべきではあったな。クッソー!あれもアベリガレストが原因だよな。私が異変に気付けなかったわけだし。この分なら、魔人は既に複数いる可能性が高いなぁ……あぁ~!やってらんねぇー!!」
誰の耳にも届かない絶叫が、市役所中に反響する。
「メンタル弱々繊細ハートの小林にこんな話を馬鹿正直に伝えていたら、間違いなく関係が拗れてたしな。アイツ、表面的には私が“世界のバランサー”であることを理解してっけど、結局同族に対する情は捨てられてねぇからな。聞かれてたらマジでヤバいわ」
キャスター付きの椅子に足を乗せ、クルクルと回る勢いでたなびく長い銀髪は、光の下で美しく輝いていた。
「ってか、こっちだって好きで騙してるわけじゃねぇんだよな……」
これまでの軽い口調から一転して、視線と、トーンが落ちる。
「そりゃあ最初はさ、本気で駒としか見てなかったよ。自分自身の為に世界の調和を保つ必要があったから、人族の1人や2人、犠牲にしても別にいいやって心の底から思ってた」
聴衆のいない中、女神ファリスの独白は止まらない。
「でも……あんな努力を見たらさ、さしもの私も多少の情が湧くわけよ」
机に肘を突き、溜息を吐く彼女の横顔は、万物に対して平等である筈の神らしからぬ表情だった。
「毒探知魔法を何度も使い忘れるアホだし、予想外の展開になるとすぐパニクって使い物にならなくなるし、誰かに止められなきゃぶっ壊れる寸前まで修行するような馬鹿野郎だ。小林は」
その瞳からは、明確に同情以上の感情が読み取れた。
「だからなんだろうな~。応援したくなったのは」
当人には絶対に聞かれたくない、女神の本音。
「多少は頭が回る。だけど、運動能力も、コミュニケーション能力も他の点は何もかも人並程度しかない。そんな奴が、デメリット付きのチートがあるとは言え、半年で一国の王子に認められる傑物になったんだ。そんなん、アツくなるに決まってんじゃん」
一度溢れてしまったら、堰き止めることは最早不可能だ。
「金剛も金剛でスゲェよ。死ぬ前も、死んだ後もあんだけヒデェ目に遭ってたってのに、心が死なないなんてさ。有り得るか?普通。ないない、常人なら100%再起不能だね。でも、立ち直った。……アハハ、思い出し笑いしちゃったよ」
1度目の災厄を無事に乗り越えられた安堵から、彼女は勝利の美酒に酔っていた。
「そう言えば、アイツが立ち直った理由って小林だったな。ウケるよな~。ビズ相手に震えながらも平然さを装う様を見て『こんなにも頼りなさそうな人があのビズ・ナーバに立ち向かっているのよ。アタシも頑張らなきゃ!』だもん。何回でも笑えるわ。いつかバラしちゃお」
イタズラな笑みをたたえ、溜まっていた感情を一頻り吐き出し終えた彼女は、いつもの表情に切り替えた。
「さて……グチグチ言ってねぇで、やることやんなきゃな。腹ァ括れ私。世界の為なら、アイツらの敵にだって味方にだってなるんだ。これからもガンガン騙してやっから、覚悟しとけよな」
2人の召喚者の旅路は、未だ半分にすら届いていない。そして、その行く末は誰1人として、どころか神でさえ知り得ないのだ。
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