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転生保険とかいう悪徳詐欺を許すな  作者: 入道雲
第二章 ギド帝国
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第60話 魔人

いつも読んで下さって有難うございます。

「何だよ、これ……」


増援として駆け付けた俺が城壁から見た光景は、正に地獄絵図だった。敵も味方も、死屍累々の様相。


「来てくれると信じていたよ!コバヤシ殿!早速で済まないが、手伝ってはくれまいか!!」


いつも通りの明るい口調とは裏腹に、激しい剣戟を交えながら語りかけてきた彼の表情は、余りに険しかった。


「我との戦いの最中に羽虫とお喋りか。雑兵の支援といい、随分と余裕だな」


流暢に人語を話す相手は、明らかに人族ではなかった。紫色の肌に、赤い瞳。屈強な体はビズよりも一回りは大きい。


「あぁ余裕だね。だから、いい加減に諦めろ!」


一際大きい金属音が響き渡り、2人が距離を取る。だが、俺の入る余地は一切見当たらない。


「……フム、想定よりは歯応えがあるな」


「突っ立っている場合じゃない。なすべきことをなせ」


残り少ない魔力で実行可能な作戦を考えろ。”弱火”のストレングスを発動し、纏魔をかけ、獲物をひたすらに狩る。殺す必要は無い、動けなくするだけでいい。


彼は、目視さえ困難な応酬の合間に、危険の迫っている兵士を魔法で助けている。そんな”勇者”の負担を、少しでも減らすんだ……!


反射に近い速度で敵を処理しつつ、策を練るために先刻目にした化物に思考を巡らせる。


殿下と戦っていたアイツ、何なんだ?知性を持つ魔物なんて、見たことがない。そして何より、他にリソースを割かれているとは言え、”覇者”と互角以上に戦える存在なんて、有り得るのか?


幸いにして、俺は奴にとって”羽虫”だ。隙を突くなら、そこしかない。その為には、先ずはそこかしこにいる畜生共をどうにかしなければ。


時には斬撃で切り伏せ、時には拳で地に沈める。ルーティンにも似た作業を繰り返す内に、違和感を覚え始めた。


思い返せば、雑魚からしてメンツがおかしい。ここらにいるワイルドホーンやデクティルもいるが、ギド帝国近辺に生息する筈のゲイブやウォルグもいる。極めつけに、数種類の初見さんとも接敵した。


ただのスタンピードではない。恐らく、奴が引き連れて来たのだ。それだけじゃない。ベリューズとトールさんを王都から引き離した上で、だ。


確実に、王国を落とす算段を立てた黒幕がいる。できればあの魔物であってほしい。アレ以上がいるなんて、想像したくもない。


不穏な考えに至ったところで、目に付く範囲のモブが粗方片付いた。後は、どうやって虚を突くかを捻り出すだけだ。少なくとも、今ではない。セリンさんの言う通り、ミンチになって終わりだ。さぁ、どう動くべきだ?



「ほんの少し、動きが良くなったんじゃないか?我を相手に、まだ力を隠していられるのか?」


「まさか、アナタの動きが悪くなっただけでしょう」


「フハハ、抜かしおる。”勇者”の名は伊達ではないらしいな」


「……そこまで、知っているのか」


「”覇者”は当然、”十指”も把握しているぞ?そこまで知っていて、オーガス王国を攻め落としに来た。この意味が、分かるな?」


斬撃一つで地に亀裂が走り、魔法一つで地形が変わる。人外同士の戦いに、どう割って入ればいい。


機を伺う時間を稼ぐためか、レイドリスさんが問いかける。丁度いい、今の内に立ち位置を調整しよう。


「ここまで用意周到な作戦を立てた目的を、教えてはくれまいか?」


「そうだな……己が根城を暫く空けていた間に、虫が湧いていたとしよう。腹が立たないか?」


「どこまでも、分かり合えないようだな」


どうやらアイツには、人族が虫にしか見えない病にかかっているらしい。


「時間を稼ぐのは結構だが、魔力が底を尽くのが先ではないか?」


確かに、こちらから見ても残存量は僅か、ガス欠寸前だ。……待てよ?その手があったか。


「それは貴殿も同じではないのかな?私は感知にも自信があるんだ」


「減らず口だけは尽きないらしい。いいだろう。矮小な城壁ごと、消し飛ばしてくれる」


刹那、魔力が膨れ上がり、王子の絶叫が轟く。


「全兵士に告ぐ!即時退避だ!全てを投げ捨てても構わん!!」


「クハハハハ!もう遅いわ!感謝するがいい!数秒後の見通しは頗る良いぞ!!」


好機だ、完全に油断している。セリンさんが言っていた。『敵が大規模な魔法を行使するタイミングがあれば、それは極上の隙だと思え』と。


“羽虫”か……一寸の虫にも五分の魂って言葉、教えてやるよ。


“消火”に切り替え、距離を詰める。召喚されてから半年以上、フィジカルを鍛えておいた甲斐があった。瞬く間に背後を取り、手を当てる。


「なっ!どこから現れた!?」


何が起こっているか、こいつなら既に理解しているだろう。だが、理解してからでは遅いのだ。


『通常、魔紋の異なる魔力が混ざると、不純物と見做されて魔法の効率は落ちる。魔紋の一致率が一定以上を下回れば、発動すら防げる』


異質な魔物と召喚者の魔紋、一体どれ程かけ離れているんだろうなぁ?


「有難う、コバヤシ殿。貴殿は、紛れもなく英傑だ」


「……ッ!羽虫がァ!!」


文字通り足蹴にされ、地を跳ねる体。ほぼ全ての魔力を注ぎ込んだ人間の防御力なんぞ、豆腐同然だ。肋骨の砕ける音が、ハッキリと聞こえた。


ざまぁみろ、なにが『数秒後の見通しは頗る良いぞ!!』だ。すかしっぺもいいとこだ。


それより、キレ散らかす暇があるなら前見た方がいいんじゃない?結果は変わらないと思うけど。


「シッ!!」


レイドリスさんの袈裟切りは、誰の目から見ても明らかな深手を負わせた。鮮血が、辺りを青く染める。


「……不甲斐ない。どうやら私も、ここまでらしい」


膝を突くレイドリスさんを見下すソイツは、至極不満気に呟いた。


「不愉快極まりないが、撤退だ」


撤退、だと?困惑する間にも、踵を返した化物が近寄ってくる。最後に死に体の羽虫だけでも潰しておこうってか?


「貴様、名は?」


「は?」


「名を言え、次こそ生まれてきたことを後悔させてやる。この”隠密”の魔人、アベリガレストがな」


”隠密”?どういう意味だ……?ダメだ、頭が働かない。追撃を喰らうのだけはゴメンだ。素直に答えるしかない。


「小林だ」


「コバヤシか、我を欺いた罪、万死に値する。故に、万全の貴様をすり潰さねば、決して今日の屈辱は晴らせない。まさか、”小手調べ”でここまでの傷を負うとは、あのお方に何と申したものか……」


瞬く間に姿を消した魔人へ、貴重で絶望的な情報をどうも有難う。


もう、意識を保てそうにない。


「魔術師団第4,5部隊!彼を絶対に死なせるな!可及的速やかに治癒を施せ!!」


どこまでも気の回る王子様の声を聞き、俺は意識を手放した。

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[良い点] チートではあるけれど知恵を使って戦ってるので楽しく読めてます。
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