第59話 パロッツ
いつも読んで下さって有難うございます
遂に彼の再登場です!
数ヶ月前、この国から逃げるために走った道を、今は救うために走っている。不思議な感覚だ。
「コバヤシ!本当に南側は殿下が対応なさっているのだな!?」
「はい!それがどうかしましたか!?」
「凄まじい力を2つ感じる。1つは殿下のものだ。だがもう片方は、知らない。……有り得ないとは思うが、レイドリス王子に”万が一”があるやもしれん」
「馬鹿な!」
「”勇者”様ですら勝てないかもってこと!?そんなの、誰にも勝てっこないじゃないの!」
クソ……!詐欺女神の未来視はまともに機能しないし、セリンさんが戦慄するレベルの強敵が来ているし、不穏な要素が多過ぎやしないか?
「助力に行かなくていいんですか!?僕と金剛だけで北側に向かう手もありますが!」
「いや、連携に慣れていない者が助太刀に入れば、双方とも本来の力を発揮できなくなる。最悪共倒れになるだけだ」
そうだよな、俺に考え付く案を彼女が思い付かないわけがない。となれば、一刻も早く北側に向かうのが正解なのだろう。
「ねぇ!アレ!!」
指し示す方を向いた瞬間に高火力の氷魔法を放ち、魔物を凍結させる。基本属性を修めておいて良かった。子供の、尊い命が奪われる寸前だった。
完全に集中が乱れている。こんな調子じゃ、再会した時に「ダメじゃないっスか、戦場で油断は禁物っスよ!」とか言われてしまうな。
襲われていた子の元へ向かい、なるべく優しく尋ねる。
「お父さんとお母さんは?」
「分かんない。『すぐに追いつくから、先に逃げなさい』って言われて、ずっと走ってたら大きな羽の生えた怖いのが出てきて、もうダメかもって思ったら、お兄ちゃんが助けてくれたの」
……流石に知らない人は探知できない。この子の両親の無事を祈ろう。
「大丈夫よ!パパとママはね、皆とっても強いの!!だからね、大丈夫。お城に向かうのがいいわ、待っていれば、きっとお迎えが来るから!」
「うん……!ありがと!!」
頼りになるな、女の子の表情から、不安が取り除かれた。指示も完璧だ。
感知の結果から、城門付近に数体、他は周囲に固まっていると判明した。辺りに人の気配はない。騎士団や魔術師団が迅速に避難させ、食い止めてくれている証拠だ。ならば、王城に向かうのが最適解だろう。
走り去る少女を見送り、礼を言う。
「助かったよ、俺には真似できない」
「なに言ってんのよ!命を救ったのは小林ちゃんじゃない!アタシはちょっとしたアフターケアをしただけ」
自分だってまだ怖いだろうに……強いな。
「正門に急ぐぞ、他にも襲われている国民がいるやもしれん。ストレングスを発動しておけ、攻防両面で役立つ。但し、出力は抑えろ。浪費はご法度だ」
「了解です」
「分かったわ!」
王城から正門までが一本道で助かった。見通しが良く、危険な目に遭っている人を助けやすい。……逆に言うと、門を突破されてしまえば、城まで軍勢が一挙に押し寄せてしまうことをも意味する。
「襲われている人は、いませんね」
「あぁ、先程まで存在していた気配も消えた。兵士が処理したのだろう」
「じゃあ、アタシ達はどうするの?あの立派な城壁の上から援助するの?」
言葉の端々から、接敵したくないという意思が感じられる。
「否、貴様らはその為の訓練を重ねていない。味方への誤射は戦場を混乱させる火種になり得る。故に、王都の外で敵を殲滅しつつ、怪我をしている兵士を治癒してもらう」
「了解」
「分かったわ……」
「安心しろ。私が全霊を尽くして守ってやる」
「有難う、セリンちゃん……!」
見た目中学生の女性が発した”守ってやる宣言”に180cm超えの大人が感謝する構図、シュールだ……。
「覚悟は決まったな?行くぞ」
掛け声を合図に、3人は城壁を跳び越えた。
「……マジか」
「こ、こんなの、どうにかなるの?」
夥しいなんて言葉では済まされない数の魔物が、暴れ、殺され、そして殺している。
「どうにかなる、ならないではない。どうにかするのだ」
ブラック企業の上司みたいな台詞をこの世界で耳にするハメになるとはな。実際問題、そうせざるを得ないんだけどさ。
……ただ、気掛かりなのは、ここまで来てもアイツの魔紋が微かにしか感じられないという点だ。
「コバヤシはストレングスと纏魔を使ってひたすらに雑魚を処理しろ。先程の様な魔法は誤射の観点から禁止する。私と金剛は、2等級以下では対処が難しい獲物を処理しつつ兵士を治癒していく」
2等級では相手取るのが厳しい魔物を獲物呼ばわりね。頼もしい限りだ。
「僕はパロッツを探しながら駆け回ります。ですが、もしもの事態が起こった場合、大声でお2人を呼びます。すぐさま駆けつけて下さい。お願いします」
「分かっている。貴様がこの国に戻って来た本懐だ。対価として、期待以上の仕事をこなせ」
「任せて下さい」
「じゃ、無理せず頑張ってね?小林ちゃん!」
「お前もな」
その会話を最後に、各々の役割を果たすため、二手に分かれた。
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「今ので何体目だ?」
100を超えてからは、カウントを放棄した。どこまでも終わりが見えない現状に、精神が少しだけ疲れてきた。
「ここいらはもういいか。離れた場所に移ろう」
目に付く雑魚を処理しながら王都から距離を取り出していた最中に、遂に発見した。俺がこの国に戻って来た”理由”を。
駆けつけ、声をかける。心臓が、荒れに荒れている。
「パロッツ!!」
「……コバヤシさん、声が大きいっスよ」
「お前、あ、脚が……」
右膝から下が、無かった。いや、すぐ側に落ちていた。辺りに広がっている血が、ファリスに見せられた監視カメラの映像を想起させる。
「……いやぁ、カッコよく味方を庇ったのは良かったんスけど、その後がダメでした」
どこまでもコイツらしい理由だ。しかし、このままでは確実に……。
パロッツの耳を塞ぎ、”ラウダー”を使って叫ぶ。ギド帝国で喰らっておいて本当に良かった。あんなの、拡声器をイメージするだけでマネできる。
『セリンさん!金剛!今すぐに来てくれ!今すぐに!!』
響き渡った絶叫から1分で、2人は駆け付けてくれた。緊迫感から全てを察してくれたのか。
「彼のケガを、治せるか?治せるよな??脚だってあそこにあるんだ!なぁ!!」
「……ごめんなさい。断面が酷過ぎて無理だわ。部位欠損治癒にしても、アタシの魔力では……足りない。出血を止めるなら簡単よ。だけど、それをしてしまうと、脚を繋ぎ直すのはほぼ不可能になるわ」
嘘だ、そんなの、嘘だ。
「コイツはこれからもっと沢山の人を救う騎士になるんだ!どうにかならないのか!?頼むって!!」
「落ち着け」
「落ち着いてられるかよ!アンタそれでも血が通ってんのか!!」
「落ち着けと言っている!!」
初めて、”底”を視せられた。膨大な圧に、黙らされてしまった。
「……魔力供給を行えばいい。そうすれば、噛み千切られた脚も生やせる」
「そ、そんなことが出来るんですか!?」
「通常、魔紋の異なる魔力が混ざると、不純物と見做されて魔法の効率は落ちる。魔紋の一致率が一定以上を下回れば、発動すら防げる。恐らく召喚者同士だからなのか、貴様のソレは私と金剛より随分似通っている。畢竟、膨大な量を注ぎさえすれば、100%成功する。手法は簡単だ。術者に手を……説明は不要か」
説明の途中で、イメージが湧いた。金剛の背に手を当て、遠慮なしに注ぎ込む。
「な、なにコレ……」
「もういい!馬鹿者!十分だ!!やり過ぎると術者の毒になる!」
あまりの剣幕に慌てて手を離す。……今ので半分は無くなった。空間接続魔法と、戦闘で消費した分を合算すれば、残存量は2割もない。
「いけるわ」
一言呟き、地に膝を突いた彼女から発せられた淡い光は、神々しく見えた。骨、血管、神経、脂肪、筋肉、そして表皮がたちまち再生されていく。これは最早、奇跡だ。
立ち上がり、一頻り歩き回った後、彼は呟いた。
「す、スゴいっスね」
「失った血液までは完全に戻っていないわ。でも、すぐにいつも通り動けるようになる筈よ。小林ちゃんからの”プレゼント”が多過ぎたから、効率が落ちても十全な治療ができたの」
「有難うございます!……というか、横にいらっしゃるのって、メイド長さんっスよね?違います?さっき、”覇者”級の圧を感じたんスけど……」
「このことを口外すれば、分かるな?」
無表情で小首を傾げるメイド長様。発言の内容に目を瞑れば、可愛いのになぁ。
「も、勿論っスよ!女神ファリス様に誓うっス!!」
「よし、これでまだ戦えるな。戦力が増えて助かった」
……鬼だ。この場に鬼がおる。
「何だその顔は、こやつはそこそこ強い。動けるなら働かせるのは必定だ」
「そうっスよ!これでも自分、2等級騎士なんで!!」
「あれからまた昇級したのかよ!凄いな!!」
「いやいや、コバヤシさんこそ何なんスかその魔力量、”十指”が来たのかと思いましたよ」
良い見立てだな。疑いの余地無く、強くなっているみたいだ。
「まだ災厄は終わっていない。こやつを加えた3人で引き続き正門付近を何とかする。コバヤシは南側へ向かえ」
「え、どうしてですか?」
「此方側が片付くのは時間の問題だ。ならば、反対側に少しでも増援を送るのは当然だろう」
一理ある。セリンさんと復活したパロッツがいれば、問題は無さそうだ。
「分かりました。急いで向かいます」
「あぁ、但し、レイドリス王子が戦闘中の化物には近付くなよ。ミンチになりたくなければな」
「……肝に銘じます」
本気でヤバいらしいな。まぁ、災厄における目的は果たしたも同然だ。向こうの雑魚を減らして王子の負担を軽減すれば、多分安泰だろ。
軽い足取りで再度城壁を跳び越え、俺は反対側に向かった。
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何卒、ホント何卒……!!




