第5話 アドバイス
いつも読んで下さってありがとうございます!
「……なんでまたここに?」
確か、あれから部屋で豪勢な夕飯を食べてからベッドの寝心地を確かめていた筈なんだが。
また、あの市役所にいる。薄暗く、人気のない、冷え切った市役所に。
『受付番号1番の小林さーん!1番カウンターまでお越しくださーい!』
「はいはい、今行きますよ」
二度目ともなれば混乱は殆ど無い。大人しく詐欺女神の待つカウンターの席に着く。
「それで、今回はどんなご用件なんですか?」
「ぞんざいな物言いですね~、召喚と同時に王の御前で奇声を上げた小林さん?」
「誰のせいだと思っているんですか!」
心底ムカつくにやけ顔だ。無駄に美人なのも腹が立つ。
「酷いなぁ、せっかく今後の動きに関してアドバイスしてあげようと思っていましたのに」
「失礼いたしました。女神様、この私めにありがたい助言を下さいませ」
「……よろしいでしょう、心して傾聴なさい」
なんなんだこの茶番。まぁいい、助言に関してはしっかり聞いておいた方が身のためだ。自身の利益に直結するからな。
「アドバイスは、全部で3つあります。小林様の脳みそでは難しいかもしれませんが、全て覚えて目覚めて下さい」
「……はい」
一々煽りを挟まないと喋れないのかコイツは。
「まず1つ目、暫くの間は剣術、及び魔術の鍛錬は程々に控えなさい」
「え、本気で頑張らなくていいんですか?」
人族の滅亡まで余裕が無いのでは?
「最初の内から飛ばしてしまうと、後々よくない状況になりかねませんからね。特に貴方は生前から適度に力を抜くのが稚児よりも下手くそでしたから。心身を壊して肝心なタイミングで動けない、なんて悲惨な事態を未然に防ぐ意味合いもあります」
「なるほど……」
1つ目に関しては生前から友人知人に散々言われていて耳が痛いくらいだ。素直に従うのが吉だな。
「あ」
「どうしました?マヌケ面を晒して」
だから一言多いんだよ。
「剣術や魔術の訓練中に模擬試合とかする場合があると思うんですけど、それは契約違反に該当しないんですか?試合における敵意って”明確な敵意”かどうか怪しいラインな気がして……」
「うわ、コイツ細かいなぁ……。安心して下さい、大丈夫ですよ。そこまで融通の利かない契約ではありません。肝心なのは、 “双方がこれは試合であると認識している状態”にあります」
「サラっと引かないで下さいよ。つまり、僕が一方的に『試合だ!』とか言って襲い掛かるようなマネは出来ないんですね?」
「その認識で合っています。言うまでもなく、逆の場合は思う存分反撃可能です」
オッケーオッケー、訓練が始まる前に気付けてよかった。
「そして2つ目、魔術の鍛錬が始まったら、とにかく魔力制御の技術向上に力を入れて下さい」
「えーと、もう少し具体的にお願いします」
「そうですね、通常、無意識下では魔力は体から漏れ出しています。所謂”垂れ流し”状態ですね。更に、流出している量は本人の持つ魔力総量に比例するため、感知が出来る人は溢れ出る量を見るだけで相手の実力を推測できてしまうわけです」
「流出量の調整によって本来の力を悟られないようにしろ、というわけですか?」
「その通り。常識的に考えれば、並の魔術師が行う粗削りな制御など一流の魔術師から見れば児戯に等しく、実力を隠していることなど一目でバレてしまいます。ですが、その常識を覆すためのボーナス倍率1,000倍です。とにかく、制御技術の向上を最優先して取り組んで下さい。いいですね?」
「分かりました」
真の力を隠す、か。俺が中学2年生ならテンションが上がっていただろうな。
「加えて、魔力を解放する時も最大量の半分以下に抑えて下さい。これは、たとえ大切な試合で負けそうになった時でも守り抜きなさい」
「すみません、そんなハンデを背負ってどんなメリットがあるんですか?流石に3ヵ月後の試合で手加減して負けてしまったら元も子もないと思うのですが……」
「貴方の実力を過小評価させ、戦闘経験に乏しい小林様が初っ端から激戦区に飛ばされて死んでしまう未来を防ぐためでもあります。第一、たかが3ヵ月でずぶの素人が国の2トップに勝ってしまう方が問題です。間違いなく悪目立ちをしてしまうでしょう」
「言われてみれば、そうかもですかね」
オーガス王国の2トップがたった3ヵ月鍛えただけの一般人に負けた、なんて話が万が一国外に広まろうものなら、真偽は別にしても諸外国にナメられてしまいかねない。
「ご理解頂けて何よりです。ぶっちゃけてしまうと、例え1,000倍ボーナスがあってもギリ勝てないと思いますけどね。私の予想では」
「そんなに強いんですか?」
「最初に言ったでしょう?上には上がいるのです。決して慢心だけはしてはなりませんよ」
「承知しました」
3ヵ月の1,000倍、約250年修行しても2トップには勝てないのか。恐るべき異世界だな。
「厳密には、魔術と剣術の2つを同時並行で鍛錬するので各125年ですよ」
「あ、そっか」
どちらにせよ、化け物であることには変わりない。
「最後に、3つ目のアドバイスですが、今日から1週間以内にパロッツという下級騎士があなたの世話係につけられます。彼と仲良くなりなさい」
「何故ですか?」
「それは言えません。詳細な理由を口にしてしまうと未来が変わってしまう恐れがあるからです。ま、彼は少々抜けていますが基本的に典型的な“いいヤツ”なので私がとやかく言わずとも仲良くなれると思いますよ。なので最後の助言はあまり気にしなくても結構ですよ」
「なら、良かったです」
好きじゃない奴と仲良くするのって相当なストレスだからな。顔に考えている内容が出がちって言われるし、パロッツとやらが嫌な人間だったら良好な関係を保つのは厳しいだろう。
「それから、本日の夕飯を食べる際に毒探知魔法は使われましたか?」
「……あ」
「はぁ……、言ったじゃありませんか。日頃から気を張ってほしいと。初めの内は気疲れもしますし、中々に大変でしょうが、1週間もしない内に慣れますから」
「約20年になりますからね。1,000倍って本当にチートだ」
「そうやってすぐ慢心するのも悪い癖です。気を付けなさい」
「はい……。あれ?僕ってまだ魔法の使い方を教えてもらってない気がするんですけど、どうすればいいんですか?」
「……あ」
オイコラ。じゃあどちらにせよ毒探知は不可能じゃねぇか。
「ま、まぁ、誰であれ失敗はありますからね。肝心なのは同じ失敗を繰り返さないことです。違いますか?」
「……そうですね」
本当調子が良いな、この詐欺女神。
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