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転生保険とかいう悪徳詐欺を許すな  作者: 入道雲
第二章 ギド帝国
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第55話 解放と宴の始まり

いつも読んで下さって有難うございます!

凡そ10分後、ビズは投げ捨てるように”所有物”を引き渡してきた。


「いったぁ~」


「おらよ、たった今から、コイツはテメェのもんだ」


「違いますよ。彼女は誰のものでもありません」


「あぁ~、そういうウザってェ話は趣味じゃねェ。ついでに手枷と足枷のカギだ。これ持ってとっとと消えろ」


白虎の獣人はカギを地面に放り投げ、そのまま城に戻って行った。ガルに至ってはビズが戻る数分も前に「消化不良だなァ。魔物でも裂きに行くか?」等と物騒な発言をしながらどこかへ行ってしまった。自分がどれだけ手心を加えられていたのかが分かるセリフだった。


「アニキは、コンゴウさんをどうするおつもりで?」


「そうだな、取り敢えず、メダの宿に戻ってセリンさんと相談するかな。多分ですけど、お風呂に入りたいですよね?」


「え!?アタシお風呂に入れるの!?」


「あ、すみません。お風呂と言っても、木桶を借りて魔法でお湯を張り、タオルに浸して身体を拭うだけです……帝国では石鹸も珍しいみたいで……」


オーガス王国には石鹼らしき物があったし、大きなサイズの木桶に湯を溜めて簡易的な湯船に浸かることも出来た。獣人が多いのが原因なのか、ギドでは湯船に浸かるという文化は殆ど浸透していないらしい。


「それだけでも全然マシよォ~!牢獄に入ってからは毎日の様に水魔法を浴びせられるだけだったんだから!」


明るい口調で、凄惨な過去を語る。心がお強い方だ。


「コバヤシ!俺らはここいらで帰らせてもらうぜ。元々ヘルは外に出るのが得意なタイプじゃねぇからな」


「分かりました!本当に、有難うございました!今度酒でも奢らせて下さい!!」


「おぅ!お前さんが泣いて止めにかかるまで飲んでやらぁ!」

「あ!あの!今日はお疲れ様でした!ま、また会いましょう!」


「えぇ!近いうちに会いに行きます!」


軽く手を振って歩み去るベイルさんと、何度もお辞儀を繰り返しながら後退りするように去っていくヘルさん。まるで対照的な2人がどうやって出会ったのか、次会ったら訊いてみようかな。


「アニキが宿に戻るってんなら、オレも帰ります!ガル様に褒められるとか、アニキは超半端ねェっス!ガチでお疲れさんでした!」


「……となりゃあ、おいらもお暇するとしようかね。コバヤシのアニキ、アンタはまだまだ強くなる。これからも楽しみにしてやすぜ?」


「任せとけって。また”登竜門”で会おうな」


残った2人も、それぞれの家路に着いた。茜色に染まる空の下には、残された俺と彼女だけ。


「あ、手枷外しますね?」


カギを拾い、挿し込もうとした時だった。


「あぁ、別にいいわよ。壊しちゃった方が早いからッ!」


そう言いながら瞬時に魔力出力を上げ、ストレングスで鋼鉄製の枷をバキバキと破壊する金剛さん。


「……自分で壊せたんですね」


「アタシだって結構鍛えられたからね~。これぐらいのストレングスは朝飯前よ。ただ、壊せば”お仕置き”があるし、アイツらから逃げ切れるわけもないから大人しく従っていただけ」


「なるほど……」


「しかも、召喚者からの契約も破棄されたから、晴れて自由の身になれたわ!ホントにありがとね!」


良かった、そこも処理済みだったのか。これまでのガルの言動とギド帝国の性質から心配はしていなかったが『実は召喚者との契約は破棄していませんでした』的な状態だった場合かなり面倒だった。


「いえいえ、ファリスからあなたを救うように言われていましたからね。契約にしたがったまでですよ」


「も~、お堅いんだから。でも、助けてくれて本当に有難うね。この恩は何があっても返すから、期待してて頂戴」


「えぇ、よろしくお願いします。金剛さん」


「さん付けも敬語も要らないわよ。なんならダイヤちゃんって呼んでくれてもいいわ」


「じゃあ、前者で」


「……小林ちゃん、アタシの扱いに早くも手馴れつつあるわね。もしかして、運命?」


詐欺女神に騙されてから今日に至るまで、あれだけ辛い目に遭っていたというのに、本当にタフな方だ。なんて頼もしい……いや、頼もしいか?


「ほら、行くぞ。他にもセリンさんっていう仲間……ではなく、僕のお目付け役がいるからさ。今後の方針を決めるために、先ずはそのお目付け役と合流しよう」


「お目付け役って、アナタ、何かやらかしたの?」


「そこも含めてゆっくり話し合おう。あまり時間はないけど、情報共有は大事だからな」


──────────── 


メダの宿に戻るや否や、宿泊していた獣人達から揉みくちゃにされたが、女将の一声で何とか解放された。それから部屋に戻り、無事にセリンさんと合流した。


「貴様、臭いな」


「ちょっと!もっとオブラートに包んで下さいよ!!」


第一声が罵声って印象悪過ぎるだろ!


「いいのよ別に、実際アタシもそう思うわ」


「受付で木桶とタオルを借りてくるといい。コバヤシが金を払ってくれる」


俺の奢り前提かよ。セリンさん、いつの間にか距離感変えてきたよな。いい傾向なんだけど。ポーチから硬貨を数枚取り出し、手渡す。


「このくらいで足りると思うから、一階の端にある風呂場でさっぱりしてくるといいよ」


「ありがと。じゃ、お言葉に甘えて行ってくるわね」


扉が閉められた後、ずっと気になっていたあることを尋ねた。


「もしかしてなんですけど、試合観に来て下さいました?」


「結果の分かっている試合を見に行く程、私は暇ではない。そもそも、貴様なら私がいなかったことくらい感知できた筈だ」


流石は暗殺部隊隊長、表情はピクリとも変化しない上に、反論まで返ってきた。だがしかし、その反論には穴がある。セリンさんの魔力制御の方がよっぽど優れている、という穴だ。


要するに、俺に気付かれずに観戦するなど造作もないのだ。ここはいっちょハッタリをかましてみるとしよう。


「勝敗が決する瀬戸際、確かに見かけた気がするんですよね~。あれで何というか、負けられないぞ、という気持ちになれたのでもし事実であれば是非お礼がしたくて」


これでどうだ……?


「幻覚だな。私がわざわざ足を運んでまで貴様に声援を送るわけがなかろう」


ほうほう、『わざわざ足を運んでまで貴様に声援を送るわけがなかろう』ですか。


「おや?僕は声援を頂いた、だなんて一言も口にしていませんが?」


「……その癇に障る顔をあと2秒以内にやめれば、”1発”で許してやろう」


「すみませんでした。幻覚に決まっていますよね。だからその拳を下ろしてください」


もう少し、あと一歩でデレ期が来る気がするんだ。しかし、その一歩が中々に大きい。


「そんなくだらん話よりも、ヤツを見て、貴様はどう感じた」


一転して真剣な雰囲気に変わったので、こちらも真面目に応える。


「凄まじい魔力制御技術の持ち主ですね。その割に”漏れ”が目立つ気がしましたが、実力は確かだと思います」


“登竜門”で出会った時から思っていたことだ。ブレがかなり綺麗に抑えられている。並大抵のヤツには真の魔力量を見抜けないだろう。


「概ね同意見だ。付け加えるとするならば、”漏れ”が目立つのは致し方ないことだ。彼女は明らかに僧侶向きだからな」


「どういう意味ですか?」


「治癒魔法とは、大雑把に言うと他者、或いは自身の特定部位に魔力を注ぐことによって様々な損傷を再生させる魔法だ。それ故に、治癒魔法を得意とする者は、そうでない者と比較して体表から魔力が漏出し易い」


「なるほど……ってことは、そんな僧侶タイプであるにも関わらずあれ程抑え込められているのって、相当凄くないですか?」


「そうなるな。天賦の才か、性格、又は極度の恐怖体験が起因となっていると考えられる」


極度の恐怖体験、か……思い当たる節があり過ぎるな。そこを掘り起こすのは、余りにも酷だ。


空気が少し重くなったタイミングで、図ったかの様に金剛は戻って来た。


「あ~!さっぱりしたわ!どうせなら魔法で浴槽とか作っちゃおうかしら」


「浴槽か、考えたことも無かった……アリかもしれない」


「でしょでしょ!?後は石鹸さえあれば文句なしなんだけど」


直後、一変した会話の流れを打ち壊す様に帝都中に鐘の音が鳴り響き、外からは異常事態を告げるがなり声が反響していた。


「”宴”だー!!”宴”が始まったぞー!!」


「スタンピードか」


「えぇ!?魔物が沢山来るあの!?」


「でも見てみろよ。4部隊の構成員らしき獣人達の嬉しそうな顔。こっちが出る必要も義理もないって」


「そ、それもそうね。大人しくここに引きこもらせてもらうわ……」


フィンドが言っていた初めての”宴”のトラウマがあるせいか、僅かに体が震えている。


それにしても、こんなタイミングでスタンピードが起こるだなんて。全く運が悪いよな……


「あ!!」


「おい!いきなり大声を出すな馬鹿者!!」


「突然どうしたの?」


「僕、ちょっと行ってきます」


「何故だ?貴様が先刻言っていたではないか。わざわざ出る幕ではないと」


「いえ、お世話になった方々に万が一のことがあってはいけません。秘薬のお陰で余力はあるので、サクッと行ってきます」


「おい!コバヤシ!」


「こ、小林ちゃん!?」


2人の制止を無視して、ひったくるように立てかけてあった剣を取り部屋から飛び出す。


さっきの発言は真っ赤な嘘だ。本音を言うと、ある事実に気が付いてしまっただけなのだ。これから危険極まりない外に繰り出すのは、その罪滅ぼしに過ぎない。


……兆候ならあった。狩りまくったせいで見かけなくなった3種の魔物。加えて、止めになったであろう最後の修行における2種の魔物の殲滅。


つまり、俺こそが、この”宴”の元凶なのだ。

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