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転生保険とかいう悪徳詐欺を許すな  作者: 入道雲
第二章 ギド帝国
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第54話 "王者"の風格

いつも読んで下さって有難うございます!

審判から発せられた、有り得べからざる宣言により、闘技場は沈黙に包まれた。最初にその沈黙を破ったのは、やはりあの馬鹿だった。


「コバヤシのアニキーー!信じてたぜーーー!!」


愛すべき馬鹿の祝辞を皮切りに、闘技場に火が付いた様な騒ぎが巻き起こった。


「オイ、ビズ様が、オイ……!」

「あわわ、コバヤシさん、ほ、本当に……あわわわわ!」


「何なんだあの人族!ビズ様をノックアウトしちまったぜ!”王者の拳”をだぞ!?有り得ねぇ!!」

「知らねぇのかい?ありゃあコバヤシって言ってな、おいらのダチなんだ。アイツはスゲェんだ。何がスゲェって、あんだけ強ぇのに、めちゃくちゃ普通なんだよ。だからスゲェんだ」


「でもよ、何かインチキしたんじゃないのか?最後の方、明らかにビズ様の様子がおかしかったぜ?」

「確かに、あんな慌てているビズ様なんて初めてみたな」

「お前さんら、忘れたのかい?ガル・ニール様の『どんだけ卑怯な手を使われようが、そのダセェ作戦ごと捻り潰す。それが王者ってもんだ』って言葉をよぉ」


困惑する者、感動する者、疑惑を抱く者。様々な声が飛び交っていたが、それら全てが耳を通り抜けていった。完全に出し切った。もう石畳の上で眠りたいくらいだ。


どうでもいいことを考えながら魔力感知を最大範囲まで広げたが、そこにセリンさんの魔力は無かった。意識が飛ぶ前に聞こえたアレは、幻聴だったのだろうか。或いは……


「アニキー!!」


「っづぁあ!馬鹿ファング!こちとら右腕がバキバキに折れてんだぞ!抱き着いてくんな!!」


「す、すいやせん!つい……」


「いやぁ、見事な作戦勝ちでやしたね。今日の試合、少なくとも1年は酒場の肴になりやすぜ?」


「有難う、フィンド。お前の情報が無ければ今回の作戦は思い付かなかった。でも、酒の肴になるのは勘弁してほしいな」


試合中、作戦とは言え、らしくない言い回しを散々したからな。あんなの23歳の発言じゃないし、ぶっちゃけ黒歴史だ。暫く悶えるかもしれない。そんな発言を語り草にされるのはごめんだ。


「どどどうしましょうかコバヤシさん、勝っちゃいましたよ!?国中にコバヤシさんの名が轟きますよ!?あ、そうだ、お、おめでとうございます!」


「落ち着いて下さい。名が広まるのは少し嫌ですが、まぁ好都合でもあります。有難うございます。ヘルさんのアグダロトがあったから勝てました」


いつもの5割増しで慌てふためいているヘルさん。”王者の拳”を倒したという情報が帝国中に広まるのは、災厄に際してギド側に協力を仰ぐ時に有利に働くかもしれない。個人的には嬉しくないが、契約遂行の観点から考えると、かなりのプラスと見ていい。


「よぉ、いいツラになったじゃねぇか、お前さん。1ヵ月前とは大違いだ」


「あなたのお陰ですよ、ベイルさん。今回の勝利はきっと、あなたに出会った時点で決まっていたんです」


「よせやい。……しっかし、マジで”十指”の1人を倒しちまうたぁな!何だかこっちまで鼻が高いぜ」


「じっし?なんですか、ソレ」


初めて聞く呼称だ。流れから大体どういう存在なのかは想像がつくが……


「お前さん、”十指”を知らねぇのかい!召喚者ってのは聞いちゃいたが、にしてもモノを知らな過ぎやしねぇか?」


言われてみれば、この世界の情報に関して知らないことは多い。原因はベリューズだろうな。3ヶ月以上も城から出そうとしなかったんだ。情報に触れる機会が無ければ、常識にも疎くなるのは当たり前だ。


「いいかい?”十指”ってのは、”王者”、”勇者”、”叡者”、”聖者”。総称して”覇者”と呼ばれる人外達に次ぐ強者達だ。ギド帝国に4人、オーガス王国とイリア教皇国、最後にレインティシアに各2名ずつで十人。だから”十指”って呼ばれてんだ」


ギドには他の国の倍もいるのか。加えて今まで目にしてきた全筋っぷりを加味すると、まともな外交が無いのは必然とも言えるな。


「あぁ、あぁぁ!」


「おっと、”王者”が姿を現すと気絶する癖、いい加減治らんもんかねぇ……」


「嫌な予感がするなぁ」


ビズよりも更に刺々しい魔力、数秒前から気付いていたが、やっぱりこっちに向かってくるのか……


「いつまで寝てんだビズ!叩き起こされてェのか!?」


「ガ、ガル様……」


「城から見てたぜ。口を酸っぱくして言ってたじゃねェか。怒りをぶちまけるのはいいが、我を忘れるんじゃねェって。途中や終盤の妙な魔法にしても、魔力感知さえ鍛えてりゃもっと上手く対応できた筈だ。違ェか?」


「いえ、全くもって仰る通りでございます……」


あのビズが、普通に敬語を使っている。いつもの口調ってやっぱり憧れでマネしていただけだったんだな。


「まだ魔力はあるか?」


「当然でございます!」


「なら、アイツの傷を治せ」


勝者への労いだったら嬉しいんだけど、違うよなぁ。


「は?しかしコバヤシは……」


「手本だ、手本を見せてやる」


ほらな、そう来ると思ったよ。


「有難き幸せ!承知いたしました!」


物凄い勢いで駆け寄ってくるビズの後ろから、何かを投げてくるガル。折れていない右手でキャッチした物は、透明な液体の入った瓶だった。


「レインティシアの秘薬の紛い物だ!飲め!魔力が回復する」


全力全快にした上で叩きのめすってワケね。飲むだけ飲んで逃げたいけど、無理だな。追い付かれてお終いだ。第一、まだ金剛さんを引き取れていない。


「クソが、何だって俺様が……」


悪態を吐きながら治癒魔法をかけるビズ、そこかしこにできた打撲は勿論のこと、恐らく粉砕骨折していた左腕すら綺麗に治してみせた。


「……凄いな」


「テメェに認められても嬉しくねェんだよ。次は確実に殺してやるからな」


「はいはい」


念の為毒探知魔法を発動し、何の反応も無いことを確認してから瓶の中身を飲み干す。


「おぉ……!」


身体の内から魔力が湧き上がるのが実感できる。これ程の効果があって紛い物なのか、本物にはどんな効能があるんだろうな。


「完璧に元通りだなァ、立てるだろ?」


笑顔が邪悪なんだよ。3歳児なら絶対漏らしてるぞ?


「もしかして、僕が負けたら約束を反故にする、とかじゃないですよね?」


考えられる最悪のパターンだ。ボコられるだけならまだいいが、大目標である金剛さんを返してもらえなくなるのは致命的だ。


「バカにしてんのか?そいつはビズとお前が勝手に結んだ約束だろうが。俺様との勝負に関係あるわけねェだろ」


……なるほど、これが”王者”か。これだけの尊敬を集められるわけだ。


立ち上がり、所々砕けてしまっている闘技場の中央に戻る。


「安心しろ、ハンデを付けてやる」


「有難いお話ですね」


万全の俺がビズに勝ったのですら作戦勝ちに過ぎない。直ちに次の試合を組まれれば、敗北は必定だ。況やガル・ニールとの試合をや、だ。


「俺様に触れることが出来たら、お前の勝ちでいい」


……本気で言っているんだろうな。魔力量1つとっても莫大な差がある。今の発言は驕りではなく、シンプルで純粋なお情けだ。


「分かりました。その条件でお願いします」


「ランド!銅鑼だ!」


「ハッ!……それでは、ガル・ニール様対挑戦者コバヤシの試合を始めます!!」


突然の事態に置いてけぼりになっていた観衆も、いつの間にかギャラリーに戻ってどんちゃん騒ぎの様相だ。


銅鑼の音が鳴った瞬間に、全力全開のストレングスをかける。とにかく触ることだけを考えればいい。作戦はアドリブで捻り出せ。


「オイ、寝てんのか?」


「!?」


反射で後退する。心臓の音が外まで漏れていそうだ。ただ早いだけじゃない、何と言えばいいのか、意識の隙を突かれた感じだ。


「離れてりゃ安全だと勘違いしてねェだろうなァ?」


魔力が石畳を伝って来るのが視える。魔法もイケる口かよ……


魔力がこちらまで届くのを防ぐため、前方の石畳を土魔法で盾状に隆起させる。そして、今しがた生成した壁を思いっ切り殴り壊す。視界が少しでも悪くなれば御の字だ。


全速力で死角に回り込もうとした俺の眼前に、奴はいた。


「悪くねェ、1手に2つ以上の意味を持たせるのは戦闘における鉄則だ」


魔力感知が鋭いにしても動きが速過ぎるだろ!どうなってんだ!?


「ホラ、このぐらいなら耐えられるだろ?」


全身が粟立ち、反射でアグダロトを発動する。直後、ただの”ジャブ”が腹にめり込む。


「ッ……!」


踏ん張る間もなく吹き飛ばされ、銃弾の如き速度で支柱に激突した。肺から空気が抜け、視界が明滅する。


「さっきも見たが、面白ェ魔法だな。お前自身の反射速度も悪くねェ。魔力制御技術に至っては、ビズとの比じゃねェ」


酸素が足りない。魔力が、フィジカルが、全てが足りていない。今思い付く策は、これしかない。


「“ミスト”、”シールド”」


水魔法の”ミスト”で闘技場を霧で覆い、同時にさっき使った土魔法で幾つもの壁を生成する。試合が見えなくなった観衆が何やら騒いでいるが、そんなことはどうでもいい。


「また目隠しか?つまんねェ……!?っと危ねェ。……お前、マジでイイな。オーガス王国で見た時からどんな魔法をかけたらここまでマシになれるんだ?」


「ただの努力ですよ」


ほぼほぼチートのお陰だけどな。ボーナス倍率がなけりゃ、アンタは初めて会った時と全く同じ感想を抱いていただろうよ。


「ていうか、降参していいですか?押し潰されそうなんですけど」


霧で視界を無効化し、壁の生成音で足音を隠した。そこから”消火”に切り替えて、物理的にも魔法的にも姿を消した上で魔力感知を頼りに近寄った。


正直勝ったと思った。それなのに今、石畳と全身でキスをしている。


「惜しかったなァ、俺様の耳がもう少し悪けりゃ、或いはお前がもう少し速けりゃ届いていたのになァ。……”ウィンド”」


闘技場を覆っていた霧が、瞬く間に払われる。そして、審判の高らかな宣言が闘技場に響く。


「勝者、ガル・ニール様!!」


鼓膜が割れんばかりの歓声が湧き上がる。先刻とは比にならない音圧だ。


「ビズ!城からカスを連れて来い!手枷足枷はここに持って来てから外せ!途中で暴れられたら面倒だ!!」


「承知いたしました!」


あれが人外の片鱗か。身に刻もう、糧にしよう。来る災厄に備えて、実力至上主義国家の王の力を借りるには、俺自身があの境地に近付かなければならない。


一体どれだけかかるかは想像もつかないが、今はただ、金剛さんを救い出せたことを喜ぼう。あぁ、本当に良かった。

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