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転生保険とかいう悪徳詐欺を許すな  作者: 入道雲
第二章 ギド帝国
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第53話 決闘 後編

いつも読んで下さって有難うございます。

この話で試合が決します。

「俺様が誰だか分かってて言ってんだろうな?」


「勿論。”王者の拳”にして天下無双のストレングスの使い手、ビズ・ナーバさんですよね?」


「……上等だ。言っておくが、この試合に場外なんて生温いルールはねェ。試合が決する条件は、相手が降参するか、”戦闘不能”になるか、この2つだけだ。尤も、オマエに降参はさせねェがな」


戦闘不能、通常なら意識を失うか、重症を負うことを意味するのだろうが、コイツの場合は違うんだろうな。


「分かっていますよ。お好きでしょ?殴り合い」


「”縄張り”の外でチマチマ魔物を狩るだけの腑抜けだと思っていたが、違ったみてェだなァ」


その言葉を境に、ヤツの先程までの単調な動きは、緩急のある動きに変わった。圧倒的な切り替えの早さと野性的な動きに、コンマ数秒だけ対応が遅れる。


避けるのは無理だと冷静に判断し、迫りくる左拳を最大限に強化した右腕で受ける。


「~ッ!マジかよ……」


「俺様の拳を喰らって腕の関節が増えなかった奴ァそういないぜ!嬉しいねェ!!」


最高速度は見切っていたが、コンパクトな動きも混ぜられると全てを躱し切るのは厳しいな……。あの無謀な修行を断行していなければ、さっきので右腕が折れていた。


一撃を当て、余裕を見せるビズに即座に反撃を仕掛ける。


「シッ!」


息を短く吐き、前蹴りを放つ。フィジカルで遥かに劣っている俺がダメージを与えるには、足を使う方が良い。わざわざ『殴り合いをしましょう』と言ったのは、俺の手に意識を割かせる為だ。


「……クッソが、俺様は如何にも雑魚が考えそうな小賢しい戦い方が一番嫌いなんだよ」


「よく反応できましたね。完全に騙せたと思っていたのに」


両腕でしっかりガードされたが、直撃した左腕にはかなりのダメージが入っている。折れてはいないものの、あれでは十全な機能は果たせない筈だ。


そう思った矢先、ビズの左腕が淡く光り出した。


「なるべく使いたくなかったんだがなァ……」


みるみる癒えていく大きな痣。治癒魔法を使えるだなんてフィンドの情報には無かったぞ!?


「アンタそんなキャラじゃないでしょ……」


「だから使いたくねェんだよ。漢らしくねェだろ?治癒魔法なんてよ」


プラプラと腕を振り、完治したのを確認するビズ。……大丈夫、こんな状況も想定の内だ。その中でも最悪のケースなのは間違いないが。


「そのしょぼい蹴りが最後の手札ってこたぁねェよな?」


「まさか、まだ使い切れるか心配な位残っていますよ」


「……やめだやめだ、オマエと会話してもイラつくだけだ。下らねェ」


これ以上煽るのは無理っぽいが、十分だ。ヤツの魔力の流れは、現時点で俺でも読めるレベルになっている。


だがしかし、それでもビズの攻撃を捌ききれていないのも事実だ。余裕ぶっこいてる暇はコンマ1秒たりとも無い。


「とっとと死ね!!」


「っと」


殴打ではなく爪で攻撃と来たか。天下無双の使い手と言われるだけあって、ストレングスの特性が本当によく分かってやがる。


広範囲に及ぶ衝撃や魔力を防ぐのに特化したストレングスは、点や線の攻撃に対しては本来の防御力を発揮できない。


「オラオラどうしたァ!俺様と殴り合うんじゃなかったのか!?」


あと少し、あと少しだけ精神的に追い込む必要がある。威力よりも手数を優先させよう。


「どこから殴るか迷っていただけですよ!」


ここでダメージを与える気はない。治癒魔法で簡単に治せてしまうし、そもそもストレングスでの殴り合いの目的はそこじゃない。


一気に間合いを詰め、死角に回り込みながら攻撃を加える。これはセリンさんから教えてもらった対格上との接近戦における鉄則の1つだ。


この時、相手が不意に隙を見せても決して好機と思わず、堅実に一撃一撃を加え続けることが重要らしい。


「痒いなァ!そんなパンチじゃ何百発当てようが俺様は倒せねェぜ?」


「強がらなくていいですよ、僕もストレングスだけは自信があるんでね」


「……ストレングス以外の魔法を全然使ってこねェなとは思っていたが、まさかオマエ、他に大した魔法がねェのか?」


ビズの瞳から、明確に失望の色が伺える。マジでチョロいな。第二ステップ『手札が無いと勘違いさせよう』もクリアだ。


「さぁて、どうでしょうね?」


「あぁいいわ、そういうブラフは。久々に骨のある人族と闘えそうだと思ってたのに、もう底が見えちまったか。ハァ……ガッカリだぜ」


だらりと肩を落とし、落胆を露わにするビズ。その脱力から生み出す、最速の動き。そして放たれる、俺を”終わらせる”ための渾身の一撃。


「待ってました」


平静を失わせ、手札が切れたと思い込ませ、ダメ押しで魔力感知の拙さに付け入る。このタイミングでストレングスをアグダロトに切り替えれば、感知なんてまず間に合わない。


「ガッ!?アァ!?!?」

「……っ~!覚悟はしていたが、キッツいな」


鳩尾に打ち込まれた膨大な魔力を纏った拳と、ビズの視線から予期して胸部に集めていた魔力がぶつかり合うことで、過去最高の硬度が生まれる。


衝撃の反作用を与えるため、吹っ飛ばされないよう必死で踏ん張る。当然、そんなことをすれば俺にもダメージは入るが、利き手がひしゃげた相手さんに比べれば無傷も同然だ。


「テメェ……!騙しやがったな!?」


激昂しながらも右手を再生する器用さには驚いたが、魔力が相当量消費されているのが見て取れる。あのレベルのケガを治すには相応の対価が必要なようだ。


「違いますよ、アナタが勝手に騙されたんです」


「クッソがぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


帝都中に響く怒りの咆哮。試合前にも見た音魔法だな。ここまで来たら、戦いの終わりはすぐそこだ。敢えてアグダロトを再度発動し、待ちの姿勢を見せる。


「俺様に二度同じ技が通用すると思うな」


……どうやら、さっきの絶叫で怒りを吐き出しきったらしい。見た限り、目の前にいる白虎の獣人は頗る落ち着いている。


「ガル様にまた叱られちまうなァ……いつもそうだ、俺は油断さえしなけりゃ最強なんだ」


「つまり、今のアナタを倒すことが出来れば、僕の完全勝利ということですね?」


「そうだなァ、万が一にもそんな結果になりゃあ、あの奴隷の解放だけじゃねェ、何でも言うことを聞いてやらぁ」


おいおい、ここにきてこんなに嬉しい誤算が来るとは思ってなかったな。静謐なこの闘技場に響いたその言葉、この場にいる全員が聞いたからな?


「いいですね、絶対ですよ?」


「めでてェ野郎だ。ここまで頭が冷えた俺様に勝てる気でいるたァな」


殆ど効果は無いと思うが、一応煽れるだけ煽っておこう。締めの一手が決まる確率が0.1%でも上がれば御の字だ。


「そんな”めでてェ野郎”が”雑魚らしくごちゃごちゃ考えた作戦”にまんまと引っ掛かったのはどこの誰なんですかね~」


「安い挑発だな。俺様はこんなのに一々腹を立てていたのか。情けねェ」


予想通りだが、効果無しか。戦いの中で成長すんじゃねぇよ、主人公かお前は。


「ここまで来て、まだその弱点だらけの魔法を使う気か?」


……一度受けただけでそこまで看破したのか。まぁ、最終ステップ『白虎は二度騙される』には影響しないから問題無い。


「今度こそ、正真正銘の切り札を使います。その代わり、ビズさんは正々堂々正面から来て下さい」


「馬鹿かテメェ?全く交渉になってねェよ。俺様に何1つメリットがねェ……だが、面白ェ。乗ってヤるよ」


「そう言ってくれると思っていました」


この全筋しかいない国の中でも、アンタは随一の全筋だからな。


発動していたアグダロトを解き、奥の手を発動する。


「前のと大して変わりねェが、いいんだな?」


「いつでも、どこからでも」


「……認めてやるよコバヤシ。テメェは雑魚じゃねェ。全力の一撃で沈めてやる」


最初から最後まで正面から突っ込んできたビズ・ナーバ。性格こそ最低だが、その戦いへの姿勢だけは認めてやるよ。


眼前に迫る獣人の拳が、俺の顔面を捕らえる直前に、左腕を間に挟み込む。


左腕の骨が砕ける音が聞こえた。加えて、受け切れずにそのまま顔面まで強打した。激しい痛みと衝撃で流石に意識が飛びそうだ。マズい、これにさえ耐えたら勝てるのに。クソ、意識が……


「踏ん張るのだ!コバヤシ!!」


そこにいる筈のない、セリンさんの叫び声が耳に届いた。


──────────── 


「それで、実験とは何をすればよいのだ?」


新魔法の名前を決めてもらい、実際の効果を試すため、俺はセリンさんに協力を要請した。あの日も彼女は、存外素直に俺の願いに応えてくれた。


「今から新魔法を発動するので、また僕を殴って下さい」


「またか?まぁいい、アグダロトの時と同じ威力でいいか?」


「あ~いや、今回は軽めでお願いします。あの魔法とは系統が違うので。えっと、すぐに発動しますね」


「……類似する部分もあるが、確かにストレングスともアグダロトとも違うようだな」


一目でこの違いに気付くのか。魔法の根本の部分は大体同じなんだけどな。どんだけ鋭い感知精度を持っているんだこの人は。


「準備は出来たので、お願いします」


「分かった、いくぞ」


「はい!」


瞬きをする間もなく接近し、ジャブを打つセリンさんの右手を、左手で受け止める。


「……なんだこれは!?」


「くっついて離れないでしょ?これが、奥の手です」


守るためでもなく、攻めるためでもないこの魔法の目的は、素早く動き回る相手を捕まえること。着想の原点は、ゴチの粘着ボディだ。


「なるほどな。悪くない、いや、最善手に近いかもしれない。ただ一点の問題を除けばな」


「やっぱり、分かりますか」


「当たり前だ。軽く殴って下さいという前置きと、相手を捕らえることに特化した魔法。貴様、防御を9割捨てたな?」


素晴らしい見立てだ。殆ど正解と言っていい。


「はい。この魔法は、相手をほぼ確実に捕らえられる代わりに、通常のストレングスの15%程度の防御力しかありません」


“反動”により、痛みへの耐性が常人より遥かに高い俺だからこそ使える。故に、切り札足り得る。


「最悪、死ぬぞ」


「そこまでしなければ、アイツには勝てません」


「……私が何を言っても、貴様はこの魔法を使うのだろうな」


何でもお見通しって感じだな。そう、残された時間で事態を解決するには、これしかない。


「それにしても、Gストレングスだったか?提案した私が言うのも何だが、余りに安直過ぎないか?」


「いいじゃないですか。ゴチから生まれた新しいストレングス。故にGストレングス。シンプルで覚えやすくて好きですよ、僕は」


「貴様がそれでいいなら、そうするがいいさ」


「えぇ、そうしますとも」


──────────── 


「……走馬灯?いや、ちょっと違うな」


「何ブツブツ言ってやがる!とっとと離しやがれ!!」


どうやら俺の勝ちが確定したみたいだ。初見の魔法で突如利き手の自由を奪われたビズは、面白いくらいに動揺している。


あれだけ凪いでいた魔力は焦りでブレブレだし、利き手を引き剝がすために魔力が極端に偏っている。


これまでの流れの全てが、予定通りだ。残っている魔力の全てを注ぎ、右手だけにストレングスをかける。ここまで策を練っていなければ、負けていただろうな。


「金剛さん、解放してもらいますね」


渾身の右ストレートが顔面を捉えたと同時に、Gストレングスを解除する。じゃないと俺まで吹っ飛んじゃうからな。あんな感じで。


紅色の支柱に激突したビズからは、魔力を殆ど感じない。それは即ち、意識が消失したことを意味する。


立ち呆けている審判に、声をかける。


「ランドさんでしたっけ?まだ試合は終わっていないんですか?」


ややあっと我に返った彼は、高らかに宣言した。


「しょ、勝者!挑戦者コバヤシ!!」

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[良い点] 全部 特に戦いの中で成長するじゃねえよ、主人公かお前はのところ [一言] 声出して笑ってしまい家族に怪訝な顔されました
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