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転生保険とかいう悪徳詐欺を許すな  作者: 入道雲
第二章 ギド帝国
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第52話 決闘 前編

いつも読んで下さって有難うございます

遂に決戦の時です

「いけるか?コバヤシ」


「うーん、やるだけやりました。後はファリス様次第ですね」


「大事な試合で神に頼るなんてマネをするな。己が力で打ち勝て」


「分かってますよ」


第一、ここぞという場面であの詐欺女神に縋るなどという愚行は犯さない。


「暇だったら観に来て下さい。その方が多分勝率が上がるので」


「あぁ、気が向いたらな。安心しろ。死にそうになったら担いで逃げるくらいはしてやる」


「試合前から物騒なこと言わないで下さいよ」


でも、助けてくれるんだ。何か、最近のセリンさんは前よりも優しい気がする。もしかして、デレ期、なのか……?


「といっても、あのビズの素早さなら私が着く頃には貴様は挽肉になっているだろうがな」


……勘違いだったかも。まぁいい、一連の会話で大分緊張も解れた。さぁ、殴り込みだ。


────────────


「確か、この城の側にあるのが闘技場だったよな?」


闘技場という名前から、コロッセオ風の建造物を予想していたが、どちらかというと中国拳法の稽古場っぽい感じだ。


正方形に敷き詰められた石畳に、四隅に立つ紅色の支柱。階段から登れるギャラリーは俯瞰視点で試合を眺めるための場所だろう。


それも3階建てで、雨を防ぐ真っ平らな屋根まで付いている。期待を裏切らない全筋達の闘技場、観客もさぞかし多いのだろうな。


その闘技場の正面にいる、屈強な受付に要件を伝えるべく声をかける。


「あの、僕コバヤシって言います。ビズ・ナーバさんとの決闘をしたいんですけど」


ビズの名前を出した瞬間に、目つきが変わった。凄まじい圧だ、見掛け倒しの筋肉だるまではなさそうだ。


「札は?」


「え?」


「”登竜門”の札だ。弐の札以下の雑魚はそもそも闘技場で試合をする権利が無い。だから札を見せろ」


し、知らなかった……あの野郎、ワザと言わなかったのか?いや、アイツなら普通に「おっと、言い忘れていたなぁ、ガハハ」とかありそうだ。


偶々ポケットに入れていた壱の札を差し出すと、更に目つきが変わった。


「これはこれは、壱の札持ちでしたか、畏まりました。只今ビズ様をお呼びいたします」


一気に尊敬の眼差しに変わったのは、やはり見間違えではなかったか。この徹頭徹尾っぷり、逆に好きになって来たかもしれない。


それから5分も経たない内に、周囲がざわつき出した。奴が現れたからだ。相変わらず、ザラついた魔力をまき散らしてやがる。


「案外早かったなァ。取り敢えず様子見の一戦で対策を練ろうってか?」


「まさか、ちょっと退っ引きならない用事ができたので、予定を前倒しにしただけです」


「ならよかった。オマエに二度目はねェ。ギドでの試合は殺しもアリだからな」


これ見よがしに魔力出力を上げるビズ。帝都に来たばかりの俺なら死を覚悟していただろう。実際、今でも少し怖いが、なるべく表情に出さないように努める。勝負は既に始まっているのだ。


「……これでビビらねェか。思ったよりは楽しい殺し合いが出来そうだなァ」


おかしいな、こっちは試合のつもりで来たんだけど……。牙を剝き出しにして邪悪に笑うビズが、大きく息を吸い込んだ。その動作を見て、反射的にストレングスを発動する。魔法を使う兆候が読めたからだ。


「15分後!久々にこの俺様が”試合”をする!!暇な奴もそうじゃねェ奴も、全員観に来やがれ!!」


凄まじい声量と音圧、発動が遅れていたら鼓膜が破れていたかもしれない。実際、周りには気絶している獣人も何名か見受けられる。


「随分な”ご挨拶”ですね。これがギド流の礼儀なんですか?」


「バァカ、この程度の音魔法でダメージを喰らう雑魚ならこの場で殺していただけだ。要するに、単なる選別だ」


大体の実力くらい魔力感知で分かるだろ。品性を胎内に置き忘れて来たのか?とは言え、何とか強気な態度を保てているものの、改めて人外の片鱗をこの身に受けて若干ブルっているのも事実だ。


「なるほど、それで、合格ですか?」


「あァ、俺が好きなのは命を賭けた戦いだ、蹂躙じゃねェ。今ので選別が出来た。15分後、あの闘技場の中心で待ってろ。その間にあの女に別れの言葉を告げに行ったっていいんだぜ?」


「お気遣い、痛み入ります」


「ケッ、透かしやがって。その余裕、何秒持つんだろうなァ」


捨て台詞を吐き捨てながら、そのまま去っていくビズ。傲岸不遜とはコイツに使うためにあるんだろうな。


「あ、来ていたんですか、ベイルさん」


「お前さんは後頭部に目が付いてんのかい。気持ち悪ぃなぁ」


「ちち、違いますよ。魔力感知精度が高過ぎるんです。ボ、ボクも魔力で人を識別可能ですから」


流石はヘルさん。よく分かっていらっしゃる。


「へぇ~、俺には一生できそうにもねぇや」


「そ、そんなことより!いいんですか!?ビズ様にあんな態度を取っちゃって!!すぐ謝りに行った方が良いんじゃないですか!?」


あ、だからいつも以上に挙動不審だったのか。やっと得心がいった。


「ガッハッハ、もう遅ぇよ。寧ろそんなマネしたらその場で喉笛を噛み千切られるってなもんだ」


「うおっ!」


スイッチが切れたかのように意識を手放したヘルさんを受け止める。


「はぁ……またかよ」


「また?」


「ヘルの野郎。さっきのビズ様の音魔法、”ラウダー”を喰らった時も気絶しやがってな」


言いながら慣れた手付きでヘルさんの顔を絶妙な加減で引っ掻くベイルさん。もう熟年夫婦のソレじゃん。


「じゃ、一足先にギャラリーに行ってくらぁ。いい場所取りてぇしな」


「了解、じゃあまた試合の後で」


……試合の後で、か。口にしたからには、何があっても勝たないとな。


「アニキーー!聞きましたぜー!!」


入れ替わるように聞こえて来たやかましい声。間違いなくアイツだ。絶対に来ると思っていた、普通に嬉しいけど。


「やっと勝てる算段がついたんですかい?ま、1週間で何とかなるわけないと思っていたおいらとしては、少し安心しやしたけどね」


「色々と事情が変わってな。だけど、余裕は無い。今日でケリを付けるつもりでここに来た」


「ヒュ~、アニキの大言壮語はいつ聞いても痺れまさぁ。ファングの馬鹿と一緒に応援してやすぜ。……あのビズ様に勝てなんて大それたことは言いやせん、ただ、くれぐれも死なないで下せぇ」


「有難う。フィンドからもらった情報、しっかり役立ててみせるよ」


背中越しにひらひらと手を振りながら、ファングを引き連れて闘技場のギャラリーへと向かう2人。ファングはまだ何か言いたそうだったが、耳を掴まれていては引き摺られざるを得ないようだ。


「有難い、本当に」


試合まで残り5分だ。気の利くフィンドはきっと、俺に集中する時間をくれたのだろう。


一歩一歩踏みしめて、地に足が着いていることを実感しながら、石畳の中央に向かう。


「10秒はもってくれよー!」

「いや、1分は立っててくれ!結構な金賭けちまったんだ!!」

「何言ってやがる!最長記録が42秒だぞ?1分ももつワケねぇだろ!バカかテメェは!」

「んだとぉ!?」


上から降り注ぐ雑音は、殆ど耳を素通りしていく。いいね、集中力は最高潮のようだ。


その集中は、全て目の前にいるビズに注がれている。


「いいねェ、良い魔力量だ。どこに隠していたのか知らねェが、初めて会った時とは比較にならねェ量だ」


普段なら絶対にやらないことだが、現在、既に”強火”の最大火力を出している。それ以下の出力では、100%コイツの動きに反応出来ないことを魔力感知によって理解しているから。


「余裕ですね」


「あァ?調子に乗り過ぎじゃあねェか?テメェも俺の魔力が視えてンだろ?」


「そりゃあもう、ハッキリと」


俺の2倍ってとこか?真正面から殴り合えば確実に負ける魔力差だ。なら、正面から殴り合わなければいいだけの話だ。


「カカカ、手、震えてんぜ?」


クソ、当たり前だろ。こんな化け物を前にして恐怖しない方がおかしい。それでも、ここは退いてはいけない。


「武者震いですよ。あれれ?知らないんですか?」


「……いい度胸だ。おいランド!銅鑼を鳴らせ!試合を始めろ!!」


第一ステップ『煽りまくって判断力を奪ってしまおう』は順調なようだ。情報通り、マジでチョロいな。でも、もしかしたらちょっとやり過ぎたかもしれない。


心なしか魔力が若干膨れ上がっているような……


「それでは、ビズ・ナーバ様対挑戦者コバヤシの試合を開始する!!」


響き渡る銅鑼の音が、この世界の命運を分けるかもしれない勝負の始まりを告げた。


「五体満足で死ねると思うなよ?」


俺の想像以上に沸点が低すぎた。だが、これでいい。それでこそあの作戦が活きる。


「あの、息が顔にかかってますよ。歯、磨いています?」


止めの一言で怒髪天に至ったビズが、途轍もない速度で殴り掛かってくる。


「風圧でコレかよ……」


煽り倒した甲斐もあり、魔力の流れが丸わかりだ。いくらスピードがあろうが、そんな攻撃に当たってしまったら体術を仕込んでくれたセリンさんに殺されてしまう。


「あっさり壊れてくれるなよ?偶には1分くらい全力を出してェんだ」


「5分でその膝地面に突かせてみせますよ」


「ッ!どこまでも減らねェ口だ!!」


そこから輪をかけて単調になった攻撃は、かすりもしなかった。どうやら舌戦の方は俺の勝ちみたいだな。


普段なら有り得ない光景を目にした観衆が、徐々にざわつき出す。


「……おい、何秒だ?」

「秒だと?何言ってんだ、とっくに1分は過ぎてるっての」

「いいぞー!コバヤシとか言うヤツ!これで一ヶ月は酒飲み放題だ!!」


最後の発言が気に障ったのだろう。ビズが声のした方向を一睨みした。それだけで、闘技場に静寂が戻った。


「大人気ないですよ、あれくらいの野次で」


「オマエは、八つに裂いてゲイブの餌にしてやる」


怒りが一周回って目が据わり始めた。お喋りは止めて、次のステップに移ってもよさそうだな。


「ビズさん、殴り合い、しましょうか」

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