第50話 新魔法
遂に50話までこれました!
いつも読んで下さって有難うございます!
「というわけで、魔物を狩りに行ってきます」
「待て待て、どういうわけだ」
翌朝、詐欺女神の助言通り”帝都の外で目に付いた魔物を殲滅しよう大作戦”を決行すべく外に出ようとした俺を、セリンさんが引き留める。
……嬉しい。俺の小ボケにあのセリンさんがリアクションしてくれるなんて。
「実は昨日、ファリス様に会いまして……」
そこからは懇切丁寧に現状にどれだけ余裕が無いのかを説明し、それ故に正真正銘の”魔物殺し”になるべく帝都から出る旨を伝えた。
「災厄まで凡そ1ヶ月、女神ファリス様がそう仰ったのだな?」
「えぇ、ですから3週間でなんとしてでもケリを着けます。ですが、前回の様な無茶はしません。それはあの詐欺……ファリス様から止められていますからね」
危なかった『思考はいつか言葉になる』ってアレ、本当だったんだな。
「意気込みはあるようだが、策はあるのか?貴様の成長率が常人離れしているのは知っているが、それでも私の見立てではあと1,2ヶ月かかると踏んでいる」
「新しい魔法を2週間以内に編み出し、1週間で完成させます」
この時の彼女の顔は、スマホがあったら絶対に写真に納めていたと思う。呆けた顔で大きな目をパチパチさせるその顔は、そのくらい可愛かった。
「……新魔法を生み出す、それがどれ程のことか分かっていない様だな。些か楽観が過ぎるとは思わんか?」
真剣な顔つきで俺を問い詰めるセリンさん。この世界には魔術理論なるものが存在し、長きに渡り研鑽され続けてきたその研究を以て様々な魔法が発明されている。彼女は、恐らくそのことを言っているのだろう。
そこは安心してほしい。魔法はイメージが全てだとあの詐欺女神が断言したのだ。話がこじれる上に、この世界に混乱をもたらしかねないから口にはしないが、妄想で何とかなるなら任せてほしい。生前は千を超える漫画、小説を所蔵する立派なオタクだったからな。
「心配ご無用です。何とかなりますから!多分。恐らく。いやきっと……」
「おい、本当に大丈夫なんだろうな?」
一瞬「ここまでカッコつけて宣言して実行できなかったらクソダサい上に超ヤバいんじゃないか?」という不安が過ったせいでほんの少し弱気が滲み出てしまった。元々思考がネガティブ寄りなんだ、しょうがない。
「だ、大丈夫です。先ほども言ったように、ファリス様から助言を頂いておりますから」
「女神ファリス様の深謀遠慮は私には図りかねないが、アレを助言と呼べるのは貴様くらいのものだろうな」
いや、俺もアレをアドバイスとは呼びたくない。よく言う藁にも縋る思いってやつだ。いつ引き千切れるか分かったものではない。しかし、現時点でそれしか縋れるものが無いというだけの話だ。
「とまぁ、そういうわけで、今度こそ行ってきます」
「……あと小一時間は問い詰めたいところではあるが、時間が惜しいのも事実だ。行ってこい」
この人が小一時間と言ったら本当に小一時間かけそうだから怖いんだよな。何にせよ、ご理解頂けたようでなによりだ。作戦を開始しよう。
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帝都の外に出て暫くぶらつき、つい独り言を漏らしてしまう。
「本当に減っちゃったな、魔物」
正確に言えば、減ったのはルービアやワイルドホーン、それからウォルグだ。どいつもこいつも俺がしこたま狩ってしまい、不名誉な二つ名まで付けられる要因となった魔物達。
帝都近辺にいる魔物は、今言った3匹以外には主に2種類しかいない。そしてどちらも蛇蠍の如く嫌われているため、魔物が減った今でもそいつらだけは結構な数がうろついている。以前セリンさんから戦闘を避けるように言われた2種だ。
一匹は蛇蝎という文字にも入っている、サソリに似た魔物だ。ゲイブと呼ばれており、ルービア以上に硬い外殻を持つ上に尻尾に猛毒がある。有り体に言って強敵だ。加えて外殻が硬く、重すぎるが故に加工にも不向きなため、金策的な面においても旨味が無い。
「アレを相手取るなら遠距離魔法でチクチク攻めるか、ガチのストレングスで一発が最善手だろうな……」
因みにコイツを狩ろうとするのは、殆どが元気を持て余した帝都の若僧だけらしい。高確率で逃げ帰っているとも聞いた。
そしてもう一匹が、ベタと呼ばれるスライム状の生物だ。そう、この魔物は、このギド帝国において数少ない二文字の種族名を冠しているのだ。
理由は2つある。生半可な物理攻撃は無効化され、魔法耐性もそれなりにある耐久特化型であるという点が1つ。また、液状に近いためコアも体内で自在に動かせ、斬撃でも容易には仕留められない。
「有名なRPGなら序盤で殺せる魔物なのにな……」
その圧倒的耐久力の代わりに、攻撃力は皆無だ。体から酸を吐くが、浴びても軽い火傷にしかならない上に避けやすい。
そんなスライムがここまで忌避されているのは、もう1つの特徴が原因となっている。このベタが頻繁に行う、”跳びつき”という技だ。
コイツには目も口もない癖に、的確に顔面めがけて飛び跳ねてくるらしい。頭部を包まれたが最後、ほぼ100%の確率で引き剝がせずに窒息死、ないしは溺死してしまう。
陸上で溺死なんて怖すぎる。言われなくとも可能な限り戦いたくない。
「っと危ない」
近付いてきていたのは分かっていたが、思いの外尻尾の動きが速かった。
「割と大きいな」
眼前で鋭い鋏をカチカチと鳴らし俺を威嚇するゲイブ。目算だと体高2mはある。全長に至ってはその倍以上あるだろう。
だが、威嚇の仕草がパン屋のトングを鳴らすアレを彷彿とさせて何だか滑稽だ。うん、コレに負ける気はしないな。
“中火”寄りの“強火”でストレングスを発動し、巨躯の側面に回る。外殻の頑強さは、同時に鈍重さをも意味しているようで、全く反応が追いついていない。そのまま脚と脚の隙間に入り込み、蹴り上げる。
「うっわ!マジかよ……」
想像よりも力が入っていたのか、或いはコイツが脆かったのか、紫色の体液をまき散らしてひっくり返る大サソリ。
間違いなく昇天しただろうが、こちらのテンションはだだ下がりだ。吐き気を何とか抑えて体内に腕を突っ込み、コアを引き抜く。これも一応金になるからな。
「うーん、コイツから学べそうな部分はこれといって無かったな~」
猛毒の魔法は使えるかもしれないが、毒のイメージが難しい。組成や化学式、毒の効果を詳細に知らないと言う事実が、本来自由な筈の魔法を不自由にしてしまっている。明らかに俺の頭が固いせいだ。こればかりは短期間ではどうしようもない。
それに、毒でビズに勝てたとして、この国の全筋達が俺の実力を認めるとは到底思えない。
そうなると残るのは、10m先にいるあのスライムしかいないわけだが……
「気が進まない……」
発動していたストレングスをそのままキープして、一息で近付く。攻撃力と魔力の乏しいこの魔物に対して、アグダロトは相性が悪過ぎる。使い物にならない。
「一発、本気で殴って爆散するか試してみるか……うおっ!バカ!!」
魔力出力を上げたその瞬間、顔面に向かって跳ねてきたスライム。心臓が5mmは跳ねたと思う。
「八つ当たりだ、受け取れ」
地面にベチャリと落ちたベタの真上から、遠慮なく拳を振り下ろす。地面との間にこの魔物がいなければ、小さいクレーターができてもおかしくはない威力の筈だ。
「……おぉ、これは凄い」
ベタの下には、予想より少し小さいサイズのクレーターが出来た。問題は、拳が粘着質なボディに完全に埋もれたことだ。もの凄い吸着力で離れる気配が無い。
焦らずそのまま高火力の火魔法を拳回りに発動する。ストレングスで補強しているため、こちらが感じる熱は大したものではない。
幸いにして魔法によりコアは溶解したらしく、スライムは液体となり、地の染みとなった。
「今起こった出来事をまとめると……」
ボディに対して、衝撃はかなりの割合で貫通する。それはクレーターができたことから明らかだ。痛覚に関しては不明だ。神経らしきものが透けて見えるが、この魔物には口が無い。
特筆すべきは、その吸着・粘着力だ。俺の全力のパンチを受けても爆散せず、尚且つその後も離れる気配が無かった。この魔物が牙や強力な酸を持っていたらと思うとゾッとする。
「……コレだ」
他の追随を許さないストレングスにより動き回るビズを捕らえるのはほぼ不可能。コンパクトな動きで軽い攻撃を当てたとしてもストレングスの防御力でダメージは通らない。かと言って、渾身の一撃を当てるには素早過ぎる。
ならば、捕まえてしまえばいい。そういう魔法を、作ればいい。イメージは既に出来ている。このベタが、正に理想そのものなのだから。
「つまり、新魔法は完成したも同然!」
……おっと、テンションが上がり過ぎて独り言がヤバいレベルに達していた。気を付けなければ。
兎に角、一刻も早くこれを形にして、アグダロトと同様に練度を上げよう。初日で完成形が見えたのは僥倖と言う他ない。色々と実験も出来るし、地力の底上げにも時間を割ける。
よしよし、風はこちら側に吹きつつある。
その日から3週間、新魔法に関する実験に協力してもらい、完成度を高める為に目に付く限りの魔物を狩った。
結果的にあの詐欺女神の言う通りに動いてしまったのは少し癪だが、お陰で準備は万全だ。
待っていて下さい金剛さん、明日までの辛抱です。
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