第47話 ビズ・ナーバと金剛力也
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「そうっすねぇ~、ビズ様は、とにかくストレングスによる物理攻撃しかしやせん。というより、他の魔法を捨ててストレングスを特化させてるんで、ろくに他の魔法を使えないってのが正しい表現になりやすね」
ほうほう、これはかなり有益な情報だ。間延びした気だるげな喋り方のフィンドはどこか頼りなく見えるが、その実目端が利くし、本人の言う通り多くの情報に通じている。
「ストレングス以外の魔法が使えないときたか。これまた尖り散らかした野郎だな」
「全く使えないってわけじゃあないんすけどねぇ。その代わり、ビズ様のストレングスは天下一品でさぁ。”王者の拳”の名は伊達じゃないってことっすね~」
「バチバチの接近戦タイプか、あまり近付けたくないな。魔法を使いつつ、チャンスを狙うしかないか」
「異常なまでに勘が鋭いビズ様に隙なんてもんはありゃしませんが、煽り耐性はハチャメチャに低いことで有名でさぁ。加えて、魔力感知精度だけは4部隊の中でも特段粗く、フェイントにほんの少し弱い。ビズ様はガル様を尊敬していやすが、この微かな弱点に関してガル様からよくお叱りを受けているのはかなり有名ですぜ」
色々と得心がいった。あの駄々漏れで刺々しい魔力に、粗雑な口調。全てガルをリスペクトしてのことだったのか。そう思うと、少しはガキっぽいところもあるんだな。煽るとすれば、そこかもしれない。
「助かる。かなり有益な情報だった」
「いやいや、とんでもねぇ。もっと知りたい情報はないんですかい?」
知っておきたいこと、か……本筋からはズレてしまうが、気になっていることはある。フィンドが知っていれば御の字だな。
「この国の召喚者、金剛力也について知りたい。何か知っていることはあるか?いつ頃来たのか、とか。何であんな状況になっているのか、とか」
「それならオイラじゃなくても知ってまさぁ。先ず、あのデカいのが召喚されたのは、大体半年前ってとこでやすかねぇ」
俺が召喚されてすぐじゃないか。まさかとは思うが……いや、これは本人に聞く方が早いな。
「それで、そこからの半年で何があったんだ?」
「最初は、現れたのが屈強な体格の人間だったもんで、そりゃあもう国は湧きやした。大アタリを引いたと。ただでさえ召喚者の成長率は著しいのに、デフォルトで強そうな奴が現れたらお祭り騒ぎになるのは必然でさぁ」
確かに、彼女の体は俺と違って仕上がっている。前の世界での職業が気になるレベルに。
「最初の基礎訓練には1日も休まずしっかり参加していたんです。まぁ、召喚者の命令には基本逆らえないから当たり前っちゃあ当たり前なんでやすが」
「1日も休まず!?」
ボーナス倍率が100倍とは言え、”反動”は相当なものの筈だ。それに耐えながら訓練に参加していたってのか?どれだけタフなんだ……
「え、えぇ、それがどうかしたんでやすかい?」
「いや、いい、続けてくれ」
「ところがどっこい、帝都中を騒がせた事件は、召喚から約3ヶ月後、”宴”の発生時に起こりやした」
3ヶ月前……オーガス王国に魔物の軍勢が攻めて来た時期と一致するな。
「彼、いや、コバヤシのアニキに従うなら彼女は、大量の魔物を目の前にしてこう言ったんでやす。『ヤダ、怖い』と」
……なるほど。この国ならさぞかし大騒ぎになったことだろうな。とは言っても、初陣がアレなら誰でもそうなるだろう。こちとら死ぬ前まで魔物なんぞ見たことすらなかったんだから。
「大量の獲物を前に尻尾を巻いて走り出した彼女を見て、これまでの評価は一転しやした。”宴”が終わり、ガル様が『とんだ大ハズレを引いちまったみてぇだな。引き裂く気にもならねぇカスだ』と仰った時の殺気で気絶した野郎が何人もいたとか」
何とも容易にイメージが出来てしまう光景だ……あの殺意にあてられて平気な者はそれだけで強者と認定されていいだろう。
「それで、今のあの状況に?」
「ざっくり言うとそうなりやすね。あの後も何回かは魔物狩りに連れ出したんですがね?それでも結局盾にすらならねぇもんですから、鍛えられたフィジカルを少しでも活かす為にビズ様の荷物持ちになったんでさぁ」
アレを荷物持ちと呼ぶのはこの国くらいだろう。あの扱いは完全に奴隷のソレだった。根付いた文化というのは恐ろしいな。
「もう少し色々と話せることはありやすが、まだ聞きますかい?その場合、ちょいと刺激が強くなりますぜ?」
「いや、いいよ。十分だ、有難う」
金剛さんは、きっと心根が優しい方なのだろう。3ヶ月以上もあんな扱いを受けて尚、俺と初めて顔を合わせた時には気丈に振舞っていた。この闘い、益々負けられないな。
「そうですかい。ま、それがいいと思いやす。今の話を聞いて、ビズ様に勝てる算段はつきましたかい?」
「まさか、今のままじゃ十中八九負ける。だが、少なくともあと一週間、猶予がある。その間に何とかするしかないさ」
「ヒュー、それだけの大言壮語が出来んのはコバヤシのアニキ位のもんですぜ。普通ならそれだけで周囲の嘲笑を買うか、或いは喧嘩を売られやすからね」
「そりゃあ、俺が余所者だからだろうな」
というのは建前で、本音を言うと、自分を鼓舞しているだけだ。実際問題、得られたビズの情報は弱点らしい弱点とは言えない。結局のところ、地力を上げるか、新たな一手を捻り出すしかない。分かりやすいピンチだ、しかし、焦ってはいけない。冷静に、頭を使え。
秘策を考え出そうとしたタイミングで、登竜門の入り口が勢いよく開かれた。この魔力は……そうか、アイツが帰ってきたのか。
「コバヤシのアニキ!どうしても情報が得られなかったんで、良い喧嘩相手を見つけてきやした!!」
どうしてそうなった……いやホントに、どうしてそうなるんだ……
怒気を漂わせながら現れたサイを思わせる獣人から迸る魔力は、それでも流れの読みにくい穏やかさを保っていた。そして、血管を浮き立たせてファングに問いかける。
「おい、まさか貴様が言っていた強者とは、この軟弱そうな人族ではなかろうな?」
「そうなんすよドマさん!こちらのコバヤシのアニキこそ最近噂の”魔物殺し”でっ」
自慢気に語り出したファングを、拳の一振りで殴り飛ばしたドマとか言う男。確実に嫌な音がした。骨に異常が生じた時の音。
ファングは馬鹿だけど、気の良いヤツだ。何度もアニキと呼ばれる内に、本当に弟分の様に思え始めていた。そんなファングが、理不尽に殴り飛ばされた。
「テメェ”ッッ!!」
……本当に馬鹿か俺は、相手の眼中に俺はいない。それなのに敵意を向けたらどうなるか、一度学んだ筈だろうが。
ペナルティによる激痛で頗る冷静になれた。よし、コイツを実験台にしよう。この国の礼儀に倣って、勝負を申し込む。
「おい、ドマとか言ったか?四の五の言ってないでかかってこいよ。その角へし折ってやる」
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何卒!!!