第41話 登録
いつも読んで下さって有難うございます!
その内セリンさん視点も入れようか思案中です。
心情描写を含め、まだまだ未熟な部分が多くて恥ずかしい限りです。
「……おはようございます」
あの後一度激しい頭痛で起きたものの、気合いで眠り直した。軽めの”反動”であれば、最近はこのくらいのことが出来るようになっている。敢えて言おう、全然嬉しくない。
「動けるのか?」
「何とか……キツめの二日酔いみたいな気分ですね」
「それでピンと来るわけがなかろう。暗殺者が酔うまで酒を飲むと思うのか?」
尤もな返しをされてしまった。暗殺者は大変だな、酒に逃げることも出来ないなんて。
「とにかく、頭痛と軽い吐き気がするだけなので、問題ありません」
「ふむ、普通の人間はそれを問題アリと判断するものだが、貴様はマゾヒストとかいうやつなのか?」
「ち、違いますよ!断じて!!」
自分の声が頭にガンガンと響く。セリンさんの口から”らしくない単語”が飛び出すから思わず叫んでしまった。
「貴様の性癖などどうでもよい。して、今日以降どう動く?」
そうそう、その話がしたかったんだ。俺は昨晩の夢の内容を要約し、彼女に伝えた。
「やはり噓を吐いているようには見えんな。王国にも女神様の声を聞ける、或いは聞いたことのある人間は複数いるが、ここまで”それっぽさ”を感じられない人間は初めてだ。信じ難い……」
「その本気で憐れむ感じの目、やめてください」
永遠に本題に入れないじゃないか、あと普通に凹むし。
「戯れはこのぐらいにして、要するに、貴様はこれから”登竜門”に行き、己を鍛えると同時に膨れ上がった借金を返済し、更にこの私から体術を学びたいと言うのだな?」
「そうですそうで……え?」
今、間に何か不穏な文言が混ざっていなかったか?
「ハハハ、セリンさんも冗談とか言うんですね。僕驚いちゃいましたよ」
「何の話だ?」
この人、分からないことがあった時に小首を傾げる癖があるよな。いやいや、そんなことはどうでもよくて。
「あの、利子の計算がどうとかっていう話、本気の本気だったんですか?」
「当たり前だ。契約を何より重んじる暗殺者から金を借りたのだぞ?借金がいくらになろうと、四肢が飛び散ろうと、貴様から返済の義務が消えることは永劫ない」
どうやらとんでもない闇金に手を出してしまったようだ。何となく一方的に仲間判定してしまっていたが、そうだよな、この人はあくまで俺の監視者でしかないんだよな。
まだ生前の緩いノリが抜け切っていないみたいだ。気を付けよう、切り替えよう。未だ治まらない頭痛を無視して、話を進める。時間は有限だからな。
「借金の件については、承知しました。早急に何とかします。それで、体術についてなんですが」
これまでの流れからすると、簡単には首を縦に振ってもらえなさそうだけど……
「いいだろう。基礎的な体術に関しては私が手ずから仕込んでやる」
「いいんですか!?」
つい声が大きくなってしまった。何ならあの詐欺女神の言う通り土下座も辞さない覚悟だったのに。
「災厄まで時間が無いのだろう?であれば貴様を強くし、女神曰く重要人物であるところの金剛とやらを早急に回収できるように助力するのは当然だ。オーガス王国の利に直結するのだからな」
「あぁ、なるほど」
どこまでも合理的な方で助かった。無いも同然とは言え、抵抗なく土下座できる程にプライドを捨ててはいない。
「だが、基礎を教えるのにそう時間はかからない。それよりも先に”登竜門”に登録する方が良いだろう。取り扱っていないとは言え、やはり人が多い場所には情報が集まる。警戒されてしまった分、少しでも早く集団に馴染む努力をするべきだ」
「仰る通りですね。では、僕一人で行ってきます。セリンさんは部屋でゆっくりするか、適当に都を散策でもしていて下さい」
「何を言っている!……監視対象である貴様の身に何かあったらどうするのだ。同行するに決まっているだろう」
「そ、そうですか、そうですよね。すみません、よろしくお願いします」
あまりの剣幕にたじろいでしまった。どうしよう、彼女の思考回路がさっぱり分からない。お守りはごめんだと言ったり、借金を取り立てるような発言をしたと思えば変に協力的だったり。
多分彼女の中では何かしらのロジックが一本通っているのだろうが、こちら側からはバラバラな点と点にしか見えない。
「……行くぞ」
「はい」
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真っ赤に塗られた木製の扉を開ける。一度目とは異なり、突き刺さる幾つもの視線。けれど、誰一人として突っかかって来る者はいない。それもそうだろう。隣にはあの”王者の拳”が
『中々デキる』とまで言った人物がいるのだ。いくら”全筋”でも勝負にすらならないと分かっていれば近付いて来ない。
「あの、ここに登録したくて来たんですけれども」
「承知いたしました。では先ず、”登竜門”のシステムはご存知ですか?」
あれだけ暴れ散らかした張本人が来たというのに、受付の女性は眉一つ動かさないどころか、魔力の揺らぎすらない。この人も間違いなくプロだな、強さもそれなりだろう。
「いえ、説明して頂けますか?」
「畏まりました。”登竜門”へ登録された方は、初めに”伍の札”を渡されます。これが登録者の証であり、当人の実績を示す物的証拠にもなります」
来た来た!これぞ異世界!きっと”壱の札”が最高位かと思わせておいて、”零の札”があったりするんだろ?そうなんだろ?
「大丈夫ですか?その、お顔が大変なことになっておられますが」
……一旦落ち着こう、遊びじゃないんだから。いや、でも『顔が大変なことになっている』はちょっとどうかと思う。
「えぇ、続けて下さい」
「位階を上げるには、”縄張り”の外で討伐した魔物の特定部位を持ち帰り実績点を一定数以上稼ぐか、或いは上位の方の登録札を奪って下さい。奪った札は、こちらでの上書き登録が完了して初めて当人の位階として認定されます」
「え、奪う?奪うとかアリなんですか??」
「勿論でございます。どの様な手段であれ、上位札を持つ者を出し抜いてここまで札を持って来られた時点で、その方にはそれだけの実力があると示しているのと同義ですので」
徹頭徹尾実力至上主義だな……ギドに来てからはカルチャーショックの連続だ。
「と言うことは、紛失したと言っても再発行は」
「有り得ません。また、半年以内に3度札を紛失した方は”落伍者”と認定され、登録札の発行権利を永久に失います。但し、その場合も他者から札を略奪することによって再登録可能です」
「な、なるほど……」
片時も気を抜けない、とまではいかないまでも、油断も隙も見せられない国だ。弱肉強食が過ぎる。
「最後に、最重要事項の説明に入ります。”弐の札”の保持が1ヵ月以上確認できた方には、入隊試験の受験資格が与えられます。この試験に突破した方が、晴れて4部隊のいずれかに入隊できるのです。また、稀にではございますが、4部隊の方からスカウトが発生する場合もございます。その際には位階は不問となりますので、ご安心下さい」
「分かりました。ご丁寧に有難うございます」
スカウトされるかどうかは別として、入る気は微塵もない。
「基本事項の説明は以上になりますが、討伐証明部位等の説明も聞かれますか?」
「はい、是非お願いします」
それから帝都近辺に存在する魔物の種類と討伐証明部位の説明に加えて、報酬に関する注意を一通り受けた後に、伍の札を受け取った。木製で簡素な作りをしたソレは、ホテルのルームキーに付いている部屋番号の刻まれたプラスチックを思わせる造形をしていた。
無くさないように気を付けないとな。これが無いと報酬も受け取れないみたいだし。
因みに、セリンさんは登録をしなかった。『暗殺者が自らの物的痕跡を堂々と残すわけがないだろう』だそうだ。
あまりの正論に恥ずかしくなり『でも堂々と顔を晒しちゃっているじゃないですか』と反論したが、『顔などいくらでも変えられる。魔法で表情筋を操るだけでも人相はそれなりに弄れるものだ』と怖すぎる返答をされ、今度こそ何も言い返せなかった。
この世界には、メイク以外にも物理的に顔を変える方法があるらしい。あまり知りたくなかった事実だ……
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