第40話 時間制限
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「それは、その……」
俺があまりにも情けない顔をしていたのだろう。彼女はすぐに説明してくれた。
「早とちりをするな。何も意地悪で言っているのではない。私が暗殺者なのに対し、アレは根っからの戦士だ。開けた場所での一騎打ちという状況を考えると、暗殺者としての実力を上げるのは最善手とは言えない」
確かに、言っていることは理解できる。かと言って……
「じゃあ、一体どうすれば」
「近道ばかり探そうとするな。幸いにして期限は無い。泥臭く修行するだけでも貴様の成長速度なら半年ちょっとあればアレに勝てる可能性は十分にあるだろう。それに、半年も経てば王国の方も少しずつほとぼりが冷める筈だ」
なるほど、時間をかけることは俺にとって一石二鳥なわけだ。
「……そうですね。少し焦り過ぎていたようです。ですが、最高効率を探ることも並行しようと思います。彼女をあの境遇に半年も置く気はありませんから」
同郷ということも影響しているのだろう、なるべく早く彼女を助け出したいという思いが満ち満ちている。シンプルに、あの男が気に食わないだけかもしれない。
「それでいい。ちょっとした助言くらいならしてやる。貴様が強くなることは、王国側としてもメリットが無いわけではないからな。さて、話は終わりだ。今日はもう飯を食って寝ろ」
「分かりました。そうさせて頂きます」
体力的な余裕はまだあるが、あの緊張感で精神的に疲れてしまった。少し冷めたご飯をかき込み、今日の反省点を反芻しながら、俺は床に着いた。
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「小林様に、残念なお知らせがあります」
開口一番、神妙な顔で不穏なことを言い出す詐欺女神。本気で勘弁して頂きたいところだが、俺もコイツに訊きたいことがある。ここは話を進めてもらおう。
「まだ確定事項とまでは言えませんが、最短で3ヵ月、最長でも半年以内に”災厄”がオーガス王国を襲います。なので、それまでに大目標を達成して下さい」
セリンさん、期限、できちゃいました。それもかなりシビアな。
「念のために確認しておくけど、俺抜きで何とかならないのか?」
自分で言うのも虚しいが、俺の戦力は低くはないけど、ぶっちゃけ高が知れている。あの3人がいれば何とかなりそうなものだし、逆に言えば、それで無理なら俺がいても結果は変わらないようにも思える。
「絶対になりません。最低でも3ヶ月、”反動”を考慮して1日おきに鍛錬したとしても125年修行したことになるのですよ?戦力になるに決まっているじゃないですか。それに、今回の未来視には不穏な点があるのです」
俺にとって既に十分不穏なのだが、まだ追加要素がるのか。
「侵攻規模やタイミング、その他にも色々とぼやけて視えない部分がいつもより多い気がするのです。故に、小林様には色々とご不便をおかけすると思いますので、先に謝っておきます。申し訳ございません」
「……かなり、ヤバいみたいですね」
あまりに真剣なファリスの表情に、とてもじゃないがおちょくる気になれない。あの詐欺女神がここまで本気の顔をしているのだ。こちらも襟を正すとしよう。
「暫定的な予定ですが、金銭的な問題もあるので”登竜門”に登録して魔物の討伐をしつつ、剣術や魔術の鍛錬を並行したいと考えています。如何でしょうか?」
”登竜門”には登録できない可能性もある。今日の一件で警戒されてしまっているし、第一に俺は異国の人間だ。もし断られたら他の手段を考えるしかない。
「悪くないと思います。懸念されている”登竜門”への登録も問題無いでしょう。これは良くも悪くも実力至上主義な部分のお陰ですね。あれだけ派手に力を示したのです、登録自体は可能でしょう。ただ、古参の方に目を付けられている、という点だけは忘れないで下さい。第一印象はあまり良くありません」
「承知しました」
覚悟はしていたが、あの場で動かなかった強者からの印象が悪いのは痛いな。面倒事に繋がらないといいんだが。
「また、剣術に加えて基礎的な体術も鍛錬に加えて下さい。その分魔法の鍛錬を削っても構いません」
「体術、ですか」
これまでに最低限しか触れてこなかった分野だ。しかし、ストレングス主体のビズと戦うことを考えるならば、鍛えるべきなのだろう。だが、魔法の鍛錬を減らしてもいいものなのか……
「小林様の魔法に関する技術は既に人外の領域に近付きつつあります。後は魔力を増やすだけと言っても過言ではありません。従って、魔法の鍛錬に関してはとにかく魔力を消費することを主体とした内容にすべきでしょう。そうなると魔物の討伐中に消費するだけでも問題ありません」
詐欺女神の太鼓判、と聞くとちょっと胡散臭いが、今回ばかりは素直に聞き入れるのが賢明だな。一応魔力感知くらいはやっておくか?まぁ、そこは余裕次第だな。
「体術に力を入れるとして、誰に習うのがいいんですかね?」
「そうですね、基礎の基礎なら恐らくセリン様がご助力して下さる筈です。というか、土下座してでも協力を取り次いで下さい。どうせプライドなんて無いでしょう?彼女はスパルタですが、その分習得も早まります」
そしてその分キツい”反動”が来る、と。本当、日に日に痛みと煽り耐性が付きつつある自分が恐ろしいよ。
「基礎さえ身に付けば、多分後は何とかなります!」
「多分ですか……」
随分と雑なアドバイスもあったもんだ。無いよりはマシだけどさ。
「もう少しで日付を跨いでしまいますが、他に何か質問はありますか?」
「質問、というか2つ確認したいことがある」
「どうぞ」
「オーガス王国に災厄が訪れた際、俺は契約に従って事態解決の為に動く。だけど、それはあくまでもパロッツとテラさん、そしてレイドリスさんを助ける為だ。王国自体を救う気は殆ど無い。それでもいいのか?」
「構いませんよ。その行為が結果として多くの命を救うことに繋がりますし、最悪”人外”さえ失わなければ、国は時間をかけて復興していきます」
「それを聞いて安心したよ」
みみっちいと思われることは承知の上だが、俺の恨みは根深い。オーガス王国に裏切られた過去は生涯忘れないし、現時点では許す気も無い。ノイントやウォード、ベリューズなんかは特に。
「もう一点は何でしょうか」
「ビズが言っていた”闘神ミト”っていうのは……」
「小林様の予想通り、私のことです!よくあることでしょう?1柱の神が異なる宗教で別の神として崇められていることなんて。俗に言う”解釈不一致”ってヤツですよ!」
神の発言とは思えない程に俗過ぎるが、やはりそうか、一応根回しをしてくれていたのか。
「とは言っても、こうなる可能性が99.99%以上でしたけどね」
ビズの性格を考慮すると、さもありなんと言った結果だな。流石にそこをグチグチ責めようとは思わない。
「あら、いつの間にかおちょこサイズだった器が大きくなったんじゃないですか?」
「一言余計なんだよ」
とにかく、明日以降の俺がすべきことは、“登竜門”への登録と、剣術と体術の訓練、それから魔力量の底上げ。やるべきことが決まったら、後はやるだけだ。
「人間としての成長速度も、中々のものですね」
「ん?何か言ったか?」
これまでの話を纏めるのに集中し過ぎて何か聞き逃してしまった気がする、悪い癖だ。
「何でもありませんよ。直に日が変わります、精々もがいて下さい」
「はいはい。地面を這いつくばってでも成し遂げて見せますよ」
その掛け合いを最後に、俺の意識は現実に引き戻された。
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