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転生保険とかいう悪徳詐欺を許すな  作者: 入道雲
第二章 ギド帝国
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第36話 コミュニケーション

いつも読んで下さって有難うございます!

ここから第二章"ギド帝国"編です!!

「あっ!もしかして!」


「そうだ。アレが、帝都ギドだ」


予定通り、夜の帳が降りる前に目的地が視界に入ってきた。王都の様な外壁も無ければ、外敵を察知する為の櫓も無い。帝都と外を区別するものは、高さ2m程の柵のみだ。門番らしき存在も無く、守りの意識は微塵も感じられない。


「何というか、凄いですね」


感情の機微を汲んでくれたのだろう。セリンさんの応えは明快なものだった。


「簡単な話だ。縄張りに入ってきて暴れる奴は叩きのめす、そうでなければ放置する。それが帝国側の考えだ。更に言えば、4部隊はオーガス王国の様に討伐遠征に出たりはしない。国の中における最低限の治安を守る以外では、己を高める修行しかしておらん」


「よくそれで国の治安が保たれていますね……」


慎重に慎重を重ねるオーガス王国とは大違いだ。いつ崩壊しても不思議ではない。


「時間と共に小さな縄張りが消えていき、その度に新しい縄張りがどこかで生じている。正に奇跡のバランスだ。私には理解できない」


安心してください、セリンさん。僕にも理解できません。


「しかも、治安維持は国の中だけって、外は……あぁそうか、そこで”登竜門”なんですね?」


「そうだ。実質的に帝都、及びその他の縄張り外の治安は、4部隊入隊を目指す国民や己を強くしたい脳筋共によって保たれている」


凄まじいな……でも、待てよ。そんなに魔物を乱獲したら……


「何も考えずに魔物を討伐すると、却って大量発生するとレイドリス王子から伺っていたのですが、大丈夫なんですかね?」


「貴様はまだこの国への理解が足りないようだな」


「……というと?」


「レイドリス王子の言う通り、乱獲された場合、魔物は大量発生する。その大量発生を、この国の奴らは”宴”と呼んでいる」


「……」


絶句する他無かった。最早脳筋とかそういう次元じゃない。全身が筋肉だ”全筋”だ。


そんな話をしている間に、何の検査も無くあっさりと帝都ギドに入れてしまった。本当にザルだな。誰も気にしないし、こちらを見向きもしない。今は2人とも”弱火”状態だから、”全筋”達にとっては心底どうでもいい存在なのだろう。


「何はともあれ、情報が欲しい。そうなると人の出入りが激しい”登竜門”に行くのが正解だろうが、そもそも私は”登竜門”の場所すら知らない」


「あ、そうなんですか?」


結構色々と知っていたから、ギド帝国にかなり詳しいと思っていたのに。


「第零部隊は暗殺部隊、教養として他国の情報をある程度抑えはするが、国を出る前に標的を消せないようでは半人前だ」


「要するに、国の外に出たことが殆ど無いってことですね、分かりました」


「知りたければ、訊きだせばいい」


それだけ言うと、彼女は近くにいた筋骨隆々の虎型獣人に話しかけ始めた。……おっと、何を言っているのかさっぱり分からない。そうか、ギド帝国とオーガス王国では言語が違うのか。文字も何が何やらだ。これは、セリンさんに頼ることになりそうだな。


「#H%F$Q\!!」


のんびりと彼女とその話し相手を見ていると、相手方が突然吠え出した。何を言っているのか理解できずとも、ブチ切れていらっしゃるのは分かる。


一方のセリンさんは、小首を傾げている。何故そうなったのか全く腑に落ちていないようだ。


「$9&%#!!」


何事かを絶叫しながらセリンさんに襲い掛かる虎型の獣人、傍から見れば、目を覆いたくなる惨状を想起させる場面だ。だが、俺は見逃さなかった。瞬時に”消火”状態に変化させ、体術だけで獣人を投げ飛ばす彼女の動きを。


獣人の方は何が起きたのか少しも理解できていない様子だった。なるほど、これなら今の俺でも多少は通用するのかもしれないな。多少は。


油断しかけた脳を、ガル・ニールを思い出すことで諫める。体から漏れる魔力だけであれだけの殺意を振り撒けていた人外を。


無傷で戻ってきたセリンさんは、心底不思議だといった顔で呟いた。


「何も訊きだせなかった……」


「あの、一体どんな話をされたんですか?」


「”登竜門”を探している、貴様の実力では縁が無いかもしれないが、場所は知っているだろう?と問うただけなのに、突然『なんだとテメェ!!』と激昂してな。一度では聞き取れぬ程に脳が筋肉になっているのか?と返したら『ぶっ殺してやる!!』と言って襲い掛かってきたのだ」


「……」


「分かるぞ、絶句する他あるまい」


忘れていた。この人は、少し不器用なのだ。今回の一件で”少し”なのかどうかは再検討する必要性が生じてしまったが。


「セリンさん。1週間、最長で1週間下さい。それでこの国の言葉をマスターします。交渉の類は僕に任せて下さい」


ボーナス倍率を考えると20年弱だ。そんなにかからないとは思うが、”反動”なんかを考慮するとこれくらいは必要になるかもしれない。


「1週間で言語を……?まぁ、どのみち貴様にもこの国の言語を解せないといけないことに変わりない。いいだろう。最低限は教えてやる。繰り返すようだが、その間お前が誰に襲われようと手助けしてやる気は無いからな。この国の人間は、私の想像を超えて気が短い可能性がある」


それは貴方のコミュニケーション能力に難があるんですよ、とは言えなかった。誰にでも苦手なことの1つや2つはあるし、特に暗殺なんてコミュニケーションから縁遠そうなポジションに長くいれば、人との接し方を”少し”忘れてしまうこともあるのかもしれない。


「……そうですね。留意します」


だから、触れないことにした。確実に骨が折れそうだし。比喩的な意味でも、なんなら物理的な意味でも。


──────────── 


「……たったの5日でこの国の言語をマスターしてしまうとはな」


「セリンさんの教え方が上手かったからですよ。それに、存外シンプルな言語でしたし」


20文字の表音文字から形成される言語。文法は英語に近かったため、脳にすんなりと馴染んだ。


読み書きに関しては、言語という圧倒的な情報量による”反動”を含めても3日でものにできた。ヒアリングとスピーキングは、1日中外でこの都の喧騒を頭に流し込み続けることで何とかした。どちらかと言うとコチラの方が”反動”がキツく、合計で5日間かかった、というわけだ。


「では、”登竜門”の場所を訊きだしに行くとしましょうか」


「気を付けろ。まともに会話が通じると思っていてはならん」


「分かっていますって。細心の注意を払います」


それに、貴方より下手を打つことは有り得ませんから。待っていてくれよ、金剛さん。可能な限り早く助け出してみせるからな。

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