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転生保険とかいう悪徳詐欺を許すな  作者: 入道雲
第1章 オーガス王国
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第33話 出立

いつも読んで下さって有難うございます!

あと数話で第一章も完結です!

「いっづぁあ“!!」


「ひゃあ!」


午前零時丁度、”反動”による激痛で飛び起きた俺の耳に届いたのは、年端も行かぬ少女の可愛らしい悲鳴だった。


「……ひゃあ?今、ひゃあって言いませんでした?」


「一体何の話だ?それから、突然動くな。反射的に殺しかけてしまったではないか」


「へ?」


全力で痛みを主張し続ける体を僅かに捻り、後方を確認すると、俺の頭があった位置にはナイフが深々と突き刺さっていた。


「危なっ!!」


悲鳴をあげたことによる一瞬の遅れがなければ、綺麗に眉間を貫いていたであろう。流石は第零部隊隊長、と言ったところか。末恐ろしい。高鳴る心臓を抑え、敢えて再度確認する。


「でも、絶対ひゃあって言いましたよね?」


「……何だ?”反動”とやらがキツ過ぎて頭からナイフを生やして楽になりたくなったのか?それなら最初からそう言えばよいものを」


「僕の聞き間違いでした。すみません」


今どこからナイフを取り出したんだよ。手に持つその瞬間まで見えなかったぞ?


あの詐欺女神にはいじられっぱなしだったから、偶には攻める側になりたかったのだが、やはりこの世界において、弱者にその様な権利は与えられないらしい。


「それで、動けるのか?」


端的に、現状を問うセリンさん。切り替えの早いお方だ。真面目な質問には、真面目に答えなければ。


「正直な話、丸1日は動けないと思います」


一見すると普通に会話をしているが、現在進行形で発狂しそうな激痛に苛まれている。それでも俺が暴れ回らずに済んでいるのは、この4ヵ月で少しずつこの痛みに耐性が付きつつあるからだ。本当に、全く嬉しくない。


「魔力制御がかなりお粗末になっているところからも、嘘ではなさそうだな。仕方あるまい。明日から行動に移るとしよう」


「すみません、出鼻をくじく形になってしまって……」


「出来ない癖に虚勢を張られるよりはマシだ。そう言う阿呆が1人でもいると、そこから作戦は瓦解する」


何とも年の功を感じさせる言葉だ。前の世界にいたらバリバリのキャリアウーマンになっていたんだろうな。


そうだ、さっき話したギド帝国での大目標をセリンさんと共有しないといけないな。報連相は社会人の基本だ。


「話は変わるのですが、先程夢の中で女神ファリスと話をした際に」


「は?」


おぉ、これまた新鮮なリアクションだ。思い返してみると、あの詐欺女神とちょくちょくコンタクトを取っていることを誰かに話したことは無かったな。そりゃこうなるか。


「あぁ、話が飛び過ぎですよね、すみません。実は僕、不定期的に女神ファリスと夢の中で会話しているんです。これまでに、合計3度お話しました。そこで色々なアドバイスを受けることで、これまで上手く立ち回れていたんです」


「……信じられん。事実を述べている者の目をしている。つまり、貴様の言うことは紛れもない真実か、或いは、お前がそのことを真実だと思い込める程にイカれているかのどちらかということだ」


「決して後者ではありません。証拠は、示しようがありませんが……」


自分が正気であることを証明する術など、俺は知らない。


「取り敢えず、ファリス様と話した内容を話せ。そこから判断する」


なるほど、良い判断だ。こちらとしてもかなりやりやすい。


「ファリス様によると、ギド帝国を目的地とすることには賛成だそうです。セリンさんの仰っていた通り、ベリューズは既にベルティア、ナヴァート、ルイン、ジョログに手を回す準備を始めているそうです。加えて、帝国にいる金剛力也さんという召喚者を現在の境遇から救い出し、仲間に引き入れること。それが、ギド帝国における僕の大目標になる。そういうお話でした」


俺の話を聞き、暫し黙考するセリンさん。その顔は、難しい数学の問題を前にする少女の顔と何ら変わりない。ぶっちゃけると、可愛い。


「視線の動き、話口調、耳慣れていないであろう4大都市の名前、そして召喚者の回収という目的、これら全てを加味すると、貴様がイカれている可能性はそれなりに低そうだ」


それなりなんだ……そこはビシッと否定してほしかったな……


「いずれにせよ、ギド帝国に向かうことには変わりない。一先ずはその方針に従って行動するとしよう」


一応は話を受け入れてくれたみたいだ。目下の課題は、俺が正気であることを示すことだな。余りにも不名誉過ぎる。


「ところで、ここからギド帝国までってどの位かかるんですか?」


「私やレイドリス王子が本気で走れば1日で着くが、お前にはまず着いてこられない。更に、金剛力也とかいう召喚者を引き入れるとなると、テリム車などの移動手段を確保しておくのが賢明だろう。人数分の食糧の持ち運び問題を解決するにはそれが最も手っ取り早い。テリム車であれば……そうだな、3日もあれば着くだろう」


実に理路整然としている。文句の付け所など1つも無い。


「そうなると、どこでテリム車を手に入れるか、ですね」


「ここから程近い距離に、カラムという村がある、小さな村だ。さしものベリューズも、そこまで手を回している可能性はゼロであろう。そこでテリム車を拝借する。行動は明日からで問題無いな?」


欲を言えば、今回のデカい”反動”を完治させる為に2日待ってほしいところだが、あまり悠長にもしていられない。最初に宣言した通り、今日1日で最低限回復させるとしよう。


「問題ありません。その案で動きましょう」


「最後に言っておくが、私が貴様に同行するのはあくまでも監視目的だ。道中で貴様がピンチに陥っても一々守ってもらえるなどと期待するなよ」


極めて冷徹な目で、釘を刺すセリンさん。上等だ、こっちは世界を守るレベルで強くならないといけないんだ。こんなところでお守りをしてもらっているようでは話にならない。


「勿論です」


「よろしい、では、今日の食糧も自分で用意するのだな?」


「……今日だけは特別、というわけにはいきませんでしょうか?」


お守り、して下さい。すみません。


「……今日だけだからな」



それから丸一日を回復に充てることで、何とか動けるようになった。食糧に関しては、セリンさんが僅か数分で狩ってきたワイルドホーンの肉を焼いて食べた。


筋張って硬く、味は質の悪い猪肉そのものだった。調味料の1つでも無いと現代人にはとてもじゃないが食べられた物ではなかったが、セリンさんは平然とした表情で黙々と飲み込んでいた。


「やっぱ年季が違うよなぁ」という目で見ていたら殺気が飛んできたことを除けば、実に平和な一日だった。明日からは、気合を入れ直して頑張らねば。

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