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転生保険とかいう悪徳詐欺を許すな  作者: 入道雲
第1章 オーガス王国
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第28話 告白

いつも読んで下さって有難うございます!

災厄の翌日、多少の無理が響いたせいか、キツ目の筋肉痛と魔力消費による頭痛と倦怠感に苛まれていた。4ヵ月近くも経つと多少は慣れつつあるものの、しんどいものはしんどい。


そんな状態の俺を無視して、城内はお祭り騒ぎだった。そしてその騒ぎに、俺も巻き込まれてしまった。


「いやぁ聞いたっスよコバヤシさん!1人で30匹以上も魔物を仕留めたって!!凄いじゃないっスか!!」


「その後現れたガル・ニールさんに全部持ってかれたけどな」


「地獄絵図だったらしいっスね……余りの凄惨さにトラウマになった兵士もいるみたいで、やっぱり”王者”の名は伊達じゃないっス……」


色々な意味で絡みにくい俺は、この宴でもパロッツと2人で話している。そんな折、1人の青年が俺の横に歩み寄ってきた。


「あの、失礼します!自分は第五部隊4等級騎士のキュロスと申します!コバヤシ殿と同じ南側に配置されていた騎士です!!」


初めて見る顔だな。一体何の用なんだろう?


「コバヤシ殿の剣裁き、魔法の熟練度、素晴らしかったです!自分、本気でコバヤシ殿を尊敬しております!い、以上です!突然失礼いたしました!」


「あ、有難うございます」


お礼を言い終わる前に走り去ってしまったキュロスさん。顔が真っ赤だったな。相当酔っていたのだろうか。


「やりますねぇ~、今見た通り、実はコバヤシさんのファンが最近急増しているんスよ」


「えっ、マジ……?」


ほんの少しだけ嬉しい反面、それ以上に胸が苦しい。本当は毎日朝から夕方まで厳しい訓練に耐えている皆の方がよっぽど凄いんだ。たまに大声で叫んで全部バラしたくなる。だけど、なるだけだ。そんなことをする勇気は俺にはない。


「……コバヤシさん、少し外の空気を吸いませんか?自分、少し飲み過ぎて暑くなっちゃったっス」


「え、ああ、いいけど」


コイツ、そんなに飲んでいたか?別にいいけどさ。俺とパロッツはまだまだ続きそうな宴をこっそりと抜け出し、誰もいない訓練場に2人、腰を下ろした。


「それで、何をそんなに悩んでいるんスか?」


「え?」


ビクリと、心臓が跳ねる。パロッツの目には明らかに確信の色が宿っている。誤魔化しは効かない。どうする?話すか?いや、でも……


「自分じゃ、まだ信用が足りないっスか?」


「その言い方は、卑怯だろ」


話さざるを得ないじゃないか。


「じゃあ、話してくれるんスね」


腹を括る。ここでもしパロッツに軽蔑され、それが他の兵士達に広まったとしても、俺の契約は続く。だけど、不思議とそうなる気はしなかった。


「俺さ、実は、卑怯者なんだよ」


「……どういう意味っスか?」


「俺が召喚される前に女神ファリス様に会ったって話、知っているか?」


「そう言えば、そんな話を聞いた覚えがあるっスね」


もう、ここまできたら、止められない。堰を切ったように、言葉が流れ出る。


「その時にさ、俺、女神様から人族を救う代わりにとある体質を授かったんだ」


「体質、っスか?」


思いもよらない言葉に戸惑うパロッツ。それでも、話を止めない。


「成長倍率1,000倍って言ってさ、人よりも1,000倍早く成長するんだ。例えば、1日剣の稽古をしたとするだろ?そしたら、俺は3年近く剣の稽古をしたことになるんだよ。……こんなの、インチキ以外の何物でもないだろ?だから、本当の俺は全然凄くなんてないんだ。パロッツを、他の皆を騙していたんだ」


心の内に溜め込んでいたことを、一息で言い終える。彼の反応が怖くて、心臓が激しく暴れている。


「もしかして、その体質の影響でよく訓練を休んでいたんスか?」


「……この体質の唯一のデメリットでな。急激な成長に体が耐え切れずに悲鳴を上げるんだとさ。とは言え、これだけのボーナス倍率と比べたら大したデメリットでもない」


「確かに、羨ましくなる体質っスね。正直、ちょっと嫉妬しているっス」


パロッツの目を、見られない。怖い、怖い、怖い。


「自分は頭が良くないので、今の話を聞いてもまだ完全には飲み込めていないっス。でも、ただ一つだけ、言えることがあるっス」


覚悟を決める。何を言われても、受け止める覚悟を。


「100倍だろうが1,000倍だろうが、何もしなければ結局は0っス。でも、コバヤシさんは違う。急に召喚された世界で、右も左も分からない中、”人一倍”頑張っていたじゃないっスか。自分はその様子を誰よりも近くで見ていました。自分にとっては、それが全てです」


その言葉は、罪悪感に苛まれ続けていた俺が最も欲しかった言葉で、そして誰よりもパロッツから聞きたかった言葉だった。


視界が霞む。拭っても拭っても、零れる雫は地面に小さな染みを増やしていく。


「ちょ!何泣いてるんスか!?」


「うるせぇ!泣いてねぇよ!!」


「いやいや、流石にそれは無理があるっスよ!号泣じゃないっスか!!」


安心感のせいで、涙が止まらない。恥ずかしい、大の大人が人前でこんなにみっともない姿を晒すなんて。でも、体が、心が、暖かい気持ちで満ち足りていく。



「あー、スッキリした。ずっと誰かに言いたかったんだよ」


「コバヤシさんってよくわかんないことで悩むんスね。まぁ、安心してください。このことは誰にも言わないっスから」


「本当、ありがとな」


「何言ってるんスか、自分とコバヤシさんの仲じゃないっスか」


全く、どこまでも良い男だ。


「お前だけは、例えどんな災厄が来ても絶対に死なせないからな」


これからも災厄は訪れる。その時には、どんな手を使ってでもコイツを守ってみせる。


「コバヤシさんも、まだ災厄が来ると思っているんスか?」


「コバヤシさん”も”って、お前もそう思っていたのか?」


「いや、自分じゃなくて、レイドリス殿下っス。殿下も『これだけでは絶対に終わらない。そんな気がするんだ』って言っていたんスよね」


「そうなんだ……」


確かに、そもそも今回の災厄は本物の”災厄”なのかすら怪しい。あの詐欺女神の言い分では人族の滅亡に関わるレベルだと言っていた。それにも関わらず、今回の被害はあまりにも軽微だ。俺の考え過ぎなのだといいが……


「ま!それは今考えても仕方ないっスよ!そん時はそん時っス!」


「パロッツは強いなぁ」


「いやいや、そこはコバヤシさんが何とかするんスよ?」


「お前も頑張れよ!」


さっきまでの雰囲気はどこへやらだ。パロッツ、お前と出会えて、本当に良かった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 全く、どこまでも良い男だ。 >全ワイちゃんが同意
[一言] パロッツがいなかったら精神病んでいたかもですね
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