第27話 邂逅
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「クソッ、キリがないな」
戦闘を開始してから早くも1時間は経った。討伐した魔物の数は30を超えてからは数えていない。1体1体は大したことはないとは言え、この数を相手にすると消耗が激しい。
剣に付着した魔物の血を払い、再度纏魔をかけ直す。”中火”で戦っているお陰で、魔力にはまだまだ余裕があるが、それよりも少し体力が心配だ。
額の汗を拭い、再度討伐に戻ろうとしたその時だった。おぞましい魔力を感知したのは。
ソイツは今俺がいる場所からはかなり離れている。にも関わらず、俺の魔力感知に既に引っ掛かっている。即ち、これまで戦ってきた魔物とは比較にならないレベルの化け物が出てきてしまったということだ。
その化け物は、一見すると獅子に似た獣人族に見えた。だが、駄々漏れの魔力は敵意としか思えない程に刺々しい。
「何だよ、アレ……」
「失礼な野郎だな。この俺様をアレ呼ばわりとは」
「!?」
待て待て、あの距離をどうやって詰めた。脳が全身に対して警鐘を鳴らしている。反射的に体が動き先手を試みる。
「あ“あ”ぁぁあ“!!!!」
突如体を駆け巡った激痛。耐え難く、意識を保つことさえ難しい、視界が明滅する程の激痛。なんだ?俺は一体何をされたんだ?
「お前、何やってんだ?どうでもいいけどよ、この国の召喚者を知らねぇか?俺様はソイツに用があってわざわざギド帝国からやってきてやったんだ」
まさか……そんな、バカな。この駄々漏れの禍々しい魔力から勘違いしていたというのか?コイツには最初から敵意なんてなくて、勝手に勘違いした俺が敵意を示したから、契約違反と見做され激痛が走った。そういうことなのか?
……規格外過ぎる。全身の肌が粟立つのが分かる。
「おい、俺様の話を聞いているのか?俺様は同じことを2度言うのが大嫌いなんだ。イラつかせんじゃねぇぞ?」
これ以上コイツを不機嫌にさせてはいけない。絞り出すように、応える。
「その召喚者というのは、僕です」
「はぁ?……おい、適当抜かしていやがったらブッ殺すぞ」
「嘘ではありません。神に誓って」
というか、助けてくれ、今はあの詐欺女神にすら縋りたい。
「チッ、とんだ無駄骨じゃねぇか。今回の召喚者はどいつもこいつもハズレなのか?こんなカスの為に俺は遥々やって来たってのかよ。イラつくなぁ」
「ぎ、ギド帝国にも召喚者がいらっしゃるのでしょうか?教えて頂けると幸いです」
細心の注意を払い、言葉を選んで話す。一挙手一投足、一言一句が俺の命に届きかねない、そんな気がしてならない。
「アァ?居るなぁ、お前以上のカスだ。図体だけデカくて何にも使えやしねぇ。今じゃ奴隷と殆ど同じ扱いだな。俺様の国では強さこそが全てだ。雑魚に一切の権利は与えられない」
そんな……あの詐欺女神に騙されて、その上奴隷扱いだなんて、あんまりだ。
しかし、今の俺には何も出来ない。無力感に苛まれ、心の底から、同情が溢れ出す。
「クソが、無駄足を踏んだせいでイライラが止まらねぇ。コイツらなら惨殺しても問題にゃならねぇだろ」
そう言うや否や、暴風の如き風を残して獣人の姿が消えた。そして5分が経った頃には、無数の魔物の死骸が散らばっていた。文字通り、散らばっていた。圧倒的な膂力によって、引き裂かれた哀れな魔物の死骸が。
こうして、オーガス王国南側の魔物が片付いたことで、余力を他の地点に回すことにより災厄における被害を限りなく最小に留めた。
後にロイドさんから聞いた話によると、あの獣人はガル・ニール。オーガス王国のレイドリスが”勇者”と呼ばれているのに対し、彼は”王者”と呼ばれているらしい。他の国にも同様に”叡者”、”聖者”と呼ばれる人外がいるとのことだ。
正直、あの2人が戦ったらどうなるのか想像もつかない。どころか、最悪の事態すら浮かんでしまう。
あの詐欺女神の最初の言葉を実行に移すとするならば、アイツみたいなヤバい奴らに協力要請をしなきゃならないのか?
無理だろ、あんなの。少なくともガルはチームプレイなんて出来るタマじゃない。
今日のこの経験によって、俺はとんでもない契約を結んでしまったことを再確認させられた。
──────
草木も眠る丑三つ時。玉座の間には、ベリューズ・バーナムとゲルギオス・オーガスただ2人。その顔は、いつになく真剣な表情をしている。
「王よ、あの男はやはり異常です。ガル・ニールが現れるまでの短時間で、30体以上もの魔物を単独で倒しておりました。しかも、ロイドの見立てが正しければ、まだかなり余力を残していたとのことです」
「素晴らしい戦果だな。とても戦闘経験を積んで4ヵ月弱とは思えん」
「そうです。あの成長速度は異常という言葉には収まりません。そして、災厄はもう乗り越えました。この意味が、王ならば理解できるでしょう」
「当然だ。だが、彼の素行は真面目そのものだ。加えて従順で、素直な性格をしている。何より、召喚主のお主が生きている限り、万に一つも謀反が起きる可能性は無いだろう」
「それは、仰る通りですが……」
「お前は賢い。先々まで考え、それぞれの可能性に対し最善の先手を打つ知を備え持っている。余はそなたをこれ以上なく信頼している。だがどうだろう。もう少しだけ様子を見てみようではないか」
「……他ならぬ王がそう仰るのであれば、私はそれに従うまでです。このような夜分に失礼いたしました」
「よい、お主がこの国を心の底から案じているが故の行動だと分かっている。これからも、そなたの手腕に期待しておるぞ」
「はっ、有難きお言葉……では、私はこれにて」
「うむ、今日は大儀であった。これで暫くはこの国の安寧も保たれることだろう。ゆっくりと休むがよい」
王が去り、ベリューズが去り。玉座の間には、静寂だけが取り残された。
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