第26話 襲来
いつも読んで下さって有難うございます!
パロッツから城内における俺の評価を聞いてから、丁度1週間が経った日だった。
いつも通り朝食を食べ終え、魔力感知と制御の訓練を始めようとした瞬間に鳴り響いた鐘の音。王国に非常事態が発生したことを知らせる、不吉な音。
即座に立てかけてあった剣を取り、城の裏門に向かう。事前の連絡で災厄発生時の流れは教わっていた。
半ば跳ぶ様に階段を駆け降り、外に出る。既に大勢の騎士が揃っており、幾つもの班に分かれていた。
「来たか、コバヤシ殿」
「あ、ロイドさんも南側に配置されていらっしゃったんですね」
「北、東、そして西にはこの国の頂点達が構えているが、ここは魔物が少ない分手薄だ。故に1等級騎士である私と、第二部隊の1等級魔術師であるファーナが配置されている」
勇者とオーガス王国の2トップを除けば最上級の人が2人もいるのか、心強いな。
「それから、最悪の場合城下町での乱戦が予想される。これを着ておくようにとベリューズ魔術師団長からの言伝だ。重要な頭部を守るため、必ずフードを被るようにとのことだ」
「有難うございます」
これは……初めての遠征討伐でも着た地竜のマントだ。ベリューズさんってなんだかんだ面倒見が良いよな。俺が思っていたよりは優しい人なのかもしれない。
「また、他の兵士達とは異なり、コバヤシ殿は班単位での戦闘に慣れていない。そうだな?」
「そうですね。そういうのはまだ……」
「そうなると、下手に班に組み込んで戦わせては討伐効率が落ちかねない。故に、この私と2人で行動してもらう」
「分かりました。宜しくお願いします」
実に合理的だ。いくら成長倍率が1,000倍と言えど、やったことがなければ当然習熟度は0だ。ロイドさんの作戦に、一切の反論の余地はない。
「時間が無い。”ストレングス”は出来るな?走るぞ」
「はい!」
流石は第三部隊隊長の1等級騎士。着いていくのがやっとの速度だ。裏門を飛び出し、走り続けること10分弱、”ストレングス”によって強化された聴覚が幾つかの悲鳴を捉えた。
「ロイドさん!」
「分かっている、気を引き締めろ。そして、ローブは絶対に外すな」
更に速度を上げたロイドさんに何とか食らいつきながら、悲鳴の元へと駆けた。
「チッ、ドゥーラが2体城壁を突破していたか」
舌打ちを漏らしたロイドさんの視線の先には、人型で翼の生えた魔物、ドゥーラが国民に迫っている様子が見えた。紫色の肌はいかにも硬質で人間のそれとはかけ離れており、並の剣士では皮膚に傷を付けることも難しいと言う。
城門や城壁に被害が無さそうな所を見ると、恐らく王国内に飛ぶことで侵入したのだろう。運良く城壁からの迎撃を潜り抜けて。
「私は遠い方の1体を仕留める。もう1体はコバヤシ殿に頼んだぞ」
それだけを伝えるや否や、矢の如くドゥーラの元へと走り行くロイドさん。やはり先程までの“ストレングス”はセーブされていたのか。
俺もすっかり染みついてしまった”中火”の出せる最大速度で今まさに襲われている女性の元へ向かい、標的との間に割り込む。
「王国騎士団の者です!今の内にお逃げ下さい!!」
「あ、有難うございます!」
頼りない足取りながらも、走って逃げてくれて助かった。人を守りながら戦うのには慣れていないからな。
「おぉ、お怒りのようだな。そんなに俺が憎いか?」
獲物を逃されたことが相当頭にきているのか、ドゥーラはその口から瘴気と呼ばれる黒い霧を吐き出している。アレを吸うとマズいらしい。ベリューズさんが長々と語っていたが、専門用語が多すぎてヤバいということしか理解できなかった。
「時間が無いらしいんでな、すぐ終わらせてもらうぞ」
剣を構え、魔力を纏わせる。”纏魔”と呼ばれるこの技術によって、武器の耐久性と切れ味を格段に上げるのだ。
絶叫にも似た雄叫びあげながら突っ込んでくるドゥーラの爪を受け止め、薙ぎ払う。……大丈夫だ、いける。こんな攻撃、トールさんの剣速と比べるのもおこがましい遅さだ。威力も大したことはない。”中火”で十分だな。
「じゃあな」
力強く薙ぎ払われたことによって、体勢の崩れた標的の首を一閃。続けざまに胸部にあるコアを貫いて終わりだ。魔物は頭を失っても必ずしも死ぬとは限らない。中には滅茶苦茶に暴れ出す魔物もいるという。だから、今回のような緊急事態においては、コアを破壊するのが基本なのだそうだ。
地に倒れ伏すドゥーラが動かなくなったことを確認し、ロイドさんの方を見る。向こうはとっくに標的を片付けて市民の避難誘導に移っていた。まだあの人には勝てそうにないかもな。
「ロイドさん、他に魔物は?」
俺の感知範囲にはいないが、念の為に確認を取る。
「いや、今のところはいないようだ。恐らく城門の方で何とか食い止めているのだろう。加勢に向かうぞ」
「分かりました」
「この非常時に城門を開けることは許されない、飛び越えるぞ」
マジか、アレを飛び越えるのはかなり骨が折れそうだ。
「了解です」
二歩目で跳躍し城壁に降り立ち、迎撃を行っている兵士達に何事かを確認しているロイドさん。
「四の五の言っていないで、俺も行くか」
助走をしっかりとつけて、思いっ切り跳躍する。何とか城壁に届くことが出来た。この高さまで跳べるようになった自分が少し恐ろしい。人間離れしていることを嫌でも実感させられる。
「コバヤシ殿、敵の数は少なく、その殆どが2,3等級以下ではあるものの、迎撃によって何とか王都内への侵入を防げている状態なようだ。下に降りて数を減らし、迎撃部隊の負担を減らす方針で問題無いな?」
「問題ありません。いけます」
魔物にも、等級が割り振られている。3等級なら3等級の騎士や魔術師1人で対処できる危険度、というランク付けらしい。2,3等級なら今の俺なら”中火”でも囲まれなければ対処できるし、”中火”であれば長時間の戦闘にも耐えられる。
城壁から王都の外に降り立ち、周囲を見渡す。これで数が少ないってか……うじゃうじゃいるじゃないか。
「直に他の部隊も到着する。今はとにかく魔物の数を減らすことに集中してくれ。身の危険を感じたらすぐに引いてもいい。その代わり、その危険性を必ず兵士の誰かに伝えるんだ」
「分かりました」
先程斬り捨てたドゥーラだけでなく、ワーナーやワイルドホーンまでいるな。あの地獄の講義が役に立ちそうで何よりだ。
とにかく、国民に被害が出るのは俺としても心が痛い。可能な限り討伐して王都への侵入を死守しよう。
それにしても、これで少ない方なのだとしたら、北側の激戦区はどうなっているんだろうな。レイドリスさんなら大丈夫だと思うけど。考えるだけでゾッとする。
無駄な思考を振り払い、気合を入れ直してから、俺は剣を構えた。
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