第24話 予言
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お陰様でランクインすることが出来ました!
ロイドさんの審判後の訓練場は、先程の試合後とは打って変わって静まり返っていた。理由は明白だ、目の前で”オーガス王国における頂点の一角が負ける”という有り得えない事態が起こってしまったのだから。
暫く続いた静寂の中、初めに口を開いたのは、他でもないベリューズさんだった。
「素晴らしい。そして、それ故に末恐ろしい」
「え?」
その率直な称賛は、俺にとって意外なものだった。彼が人をここまで明確に褒める場面など、見たことが無い。
「私と比較して圧倒的に少ない魔力量、突破不可能な魔法障壁。3ヶ月という余りに短い期間。これだけ不利な状況が揃っていて尚諦めないその心。これぞ”英傑”と呼ぶに相応しい」
「……」
”反動”による苦痛に耐えつつ取り組んだ訓練の日々を、この国のトップに認めてもらえたという事実が、涙腺をこれ以上なく刺激する。ダメだ、言葉が出せない。感謝の言葉と共に、堪えている涙まで溢れてしまいそうで。
「もしここが戦場であれば、勝っていたのは間違いなく私であっただろう」
それについては全く異論ない。結局俺のしたことは、彼を後退させただけだ。傷つけるどころか、体勢を崩すことすら出来ていない。
「しかし、ルールを最大限に活かした柔軟な発想が勝利を手繰り寄せた。コバヤシ殿のその不屈の心は、我が国にこれから襲い来る災厄に対しても必ずや多大なる貢献を生むだろう。どうか、これからも精進を続けてほしい」
「……はい。有難うございます」
嗚咽を堪えて何とか絞り出した返事。ここまで言われてやる気の出ない人間はいないだろう。
「まぁ、コバヤシ殿がいくら駄々をこねようが、召喚者である私の命令には逆らえないのだがな。ハッハッハ!」
「ちょっと、雰囲気ぶち壊しじゃないですか!」
最後の最後で、訓練場を包んでいた静寂を笑いに変えたベリューズさん。大した策士だ。これは勝てないな。
「ゲルギオス王、今の2試合を見て、どう判断されましたか?」
日陰に座る王に語り掛けるベリューズさん。そう言えばそうだ。元々は彼らとの試合を通じて、あの詐欺女神の予言通り俺が使える人間か否かを見極めるためにこんな試合が組まれたんだったな。
「改めて言う必要も無いだろう。予言は正しかったのだ」
「ということは……!」
「お主は己が実力を遺憾なく発揮し、その力を皆に知らしめた」
低く通る王の声が、訓練場にいる全ての兵士達に伝わり、深く頷かせる。
「故に、お主に大規模討伐戦への参加を命ずる!」
「……はい?」
大規模討伐戦?何だそれ、話が飛躍し過ぎやしないか??
「お主が召喚されてからすぐに『数ヶ月の後、オーガス王国に魔物の軍勢が攻め入るであろう』との予言があったのだ」
あ!パロッツのヤツが俺を介護してくれた時にそんなこと言っていたな。すっかり忘れていた。
「更に、数日前により詳細な予言があった。敵は王国の東西南北全方向から攻めてくるらしい。正門の位置する北側が激戦区となり、裏門の位置する南側が最も攻め入る魔物の数が少ないとのことだ」
あの詐欺女神、そんなことまで分かるのか。それとも、それ程確定的な近い未来なのか。
「いつ何時魔物の軍勢が押し寄せて来るのかまでは分からないが、だからこそ、どんなタイミングでも迅速に対応できるように心構えをしておくのだ」
「分かりました。因みに、僕はどこを担当するのでしょうか?」
流石に北側は勘弁してほしいぞ。俺の実力で激戦区は危険過ぎる。
「安心せい。お主には南側を守ってもらう。北側にはレイドリスを、東と西にはそれぞれトールとベリューズを配置する。この布陣で恐らく、災厄をしのぎ切れる筈だ。」
助かった。それなら何とか対処できそうな気がする。
「その襲来が、女神様の言う”人族の危機”と言うことなんでしょうか」
「この国だけでなく、ギド帝国、イリア教皇国、レインティシアと言った主要国家にも同様の襲来があるらしい。そのことを考えると、恐らくこれが予言にあった人族の危機なのだろう」
なるほど、同時多発的な魔物の襲来か。確かに災厄と呼ぶに相応しい事態だな。
「襲撃は明日かもしれないし、数週間後かもしれない。従って、襲撃があるまで、お主は訓練を極力控えるようにするのだ。肝心な時に動けないようでは召喚した意味が無いからな」
「承知いたしました」
それはそうだな。仕方がない。一刻も早くベリューズさんやトールさんに追い付きたい気持ちもあるが、ここは魔力感知と魔力制御をメインに訓練をしておくとするか。
「訓練が出来ない間、トールやベリューズから魔物に関する知識を学んでおくのも良いだろう。初見の魔物に相対するのと、事前知識がある状態で挑むのとでは天と地ほどの差がある」
一理あるな。俺は現時点でデクティルとワイルドホーンしか魔物を知らない。そんな状態で未知の魔物を相手取るのは、少々リスクが高い。
「なるほど、ではそうさせて頂きます。ベリューズさん、トールさん、宜しくお願いいたします」
「いいだろう。これも国防のためだ」
「勿論だとも!コバヤシ殿が嫌というほど対処法を詰め込んでやろう!楽しみにするがいい!」
あぁ、ベリューズさんはともかく、トールさんの講義はかなりしんどそうだな……
「話は以上だ。今日は良いものを見せてもらった。今後の活躍にも期待しているぞ」
城に戻って行くゲルギオス王。その後ろ姿には一部の隙も見当たらない。彼もまた、強者の類なのだろう。
兎にも角にも、何とか乗り越えられてよかった。改めて、ボーナス倍率の凄まじさを痛感したな。いつの日か、本気を出した状態であの2人と再戦できる日が来るといいな。
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