第23話 ベリューズ・バーナム
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「この試合を見ていた騎士諸君は、コバヤシ殿の騎士らしからぬ戦い方に疑問を持った者もいるだろう!ひとえに、私が普段から口酸っぱく『戦場で剣を手放すことは死を意味する』と言っているからだ」
確かにそんなことを言っていたな。そしてそれは実際、正しい。砂埃を上げて視界を遮り、剣をぶん投げるなんて卑怯で非常識だと思われても仕方がない。加えて、素手で剣を持った相手や魔法を放つ相手に勝つのは余程の実力差がないと不可能だ。
俺の取ったあの行動は、あくまでも1対1という状況が確約されているからこそ効果があったものだ。
「しかし!我々騎士の本分は国を、民を守ることだ!騎士としての振舞い、礼節を忘れてはならぬが、最も優先すべき点は国防にある!!」
少し、胸が熱くなる思いがした。俺の意図を理解し、周囲の騎士達にそれを伝えてくれることで、俺に対する評価が下がらないように配慮してくれていることが素直に嬉しい。
「片腕を負傷したことで勝ち目が殆ど消えた状況を瞬時に把握したコバヤシ殿は、予想だにしない行動を取ることでこの私に一撃を加えたのだ!!」
まぁ、破れかぶれの一手だったけどな。そこまで深い考えがあったわけではない。
「更に!ダメージを与えるには至らなかったものの、彼は私に木剣による一撃を加えることにも成功している!それだけで、3ヶ月前まで素人同然だったコバヤシ殿がいかに努力を重ねていたのかが計り知れるだろう!!」
……そこに関しては、少し罪悪感がある。所詮、俺の強さは成長倍率1,000倍の恩恵によるものだから。
「以上を踏まえて、私は彼がこの国の戦力として相応しい実力を備えていると判断した!!」
「「「ウオオォォォォ!!!!」」」
トールさんの評価が終わると同時に、湧き上がる歓声。どうやら、剣術に関しては無事に認めてもらえたようだ。
「ではコバヤシ殿、治癒魔法で肩の負傷を治してから2戦目に挑むといい!」
トールさんの一言で魔術師の1人が俺に近付き、治癒を施してくれた。凄いな、ヒビが入っていてもおかしくないケガだった筈だが、ものの10秒で完治してしまった。
いずれは俺も治癒魔法を習得しよう。これは間違いなく便利だ。
トールさんと入れ替わりで入ってきたベリューズさんは、円の縁に手を触れたかと思うと、薄青く透明な壁を作り出した。
「ベリューズさん、それは一体何なんですか?」
「魔法障壁だ。ある程度の魔法ならこの結界で遮断することが出来る」
はぁ~、そんなことまで可能なのか。考えてみれば、魔法を使った試合となると周囲に危険が及ぶかもしれないからな。当たり前と言えば当たり前だが、それを瞬時に作り出せてしまうベリューズさんの実力はやはり底知れない。
「さて、これからは魔法戦だ。その抑え込んでいる魔力を解放するがいい」
一瞬、心臓が跳ねたが、俺が”消火”状態であることを指しているのだろう。決して俺の”中火”が全力ではないことがバレているとは思いたくない。
なるべく自然に、魔力を解放していく。今の俺ならどんなに丁寧にやっても2秒もあれば出力を調整することが可能だ。
「ふむ、決して飛び抜けているわけではないが、悪くない魔力量だ。剣術だけでなく魔術の方も3等級程度の実力は軽くあるだろう」
へぇ、全力の半分でも3等級魔術師の魔力量はあるのか、やっぱり俺は剣よりも魔法の方が向いているのかもな。
「コバヤシ殿、準備はできたかな?」
「はい、いつでも」
「ロイド、開始の合図を」
ベリューズさんの一言で、先程まで試合内容で盛り上がっていた兵士達が一斉に口をつぐむ。場の空気が一瞬にして張り詰めてたのがひしひしと伝わってくる。
この魔力量でいかにして戦うか、相当な工夫が要される試合になりそうだな。
「始め!!」
開始の合図と同時に”ストレングス”で身体能力を向上させ、魔力感知を全開にする。1秒でも早く魔法を察知し、避けるための生存戦略だ。
「滑らかで美しくすらある魔法行使だ。尤も、それを悟られているようではまだまだだがな」
「!?」
足元から突如現れた岩塊を、後方に飛び退くことで何とか避ける。魔力感知が一瞬でも遅れていれば重傷は免れなかっただろう。
結局、この試合でも攻めに攻めるしかなさそうだ。ベリューズさんに魔法を使わせる時間を与えたらお終いだ。
“中火”で出せる最大火力で火球を放つ。さぁ、どう動く?
「ふぅむ、避けるまでもないな」
火球は、その場から1歩も動かない彼に確かに直撃した。にもかかわらず、彼のローブには焦げ1つついていない。
「どう、して……」
「先刻私が何をしたのか忘れたのか?」
「……!魔法障壁か!」
魔法のみを防ぐ結界、それを自分自身にも纏わせていたのか!そんなの、反則だろ!!どうやって勝てばいいんだ!
“強火”の全力ではないとはいえ、今の俺が出せる最大火力の魔法だったんだぞ!?
「もう終わりか?では、こちらから攻めさせてもらおう」
岩弾に風刃、熱線。多種多様な魔法で俺を追い詰めるベリューズさん。想定していた中でも最悪の事態だ。防戦一方になってしまっている。
しかし、打開策が思い浮かばない。魔法が効かない相手に魔法で勝つなんてどう考えても不可能だ。
試合が始まってから凡そ5分。焦りと激しい動きによって、俺の動きは精細さを欠きつつあった。限界が近付いているのが分かる。格上を相手にするというのはここまで疲れるものなのか。
「つまらんな。もう少し楽しませてくれると思ったのだが……」
魔法の処理で精一杯の俺に対して、相手は完全に気が抜けている。どうにかこの状況を打破する方法を……
激しい弾幕の中、必死に試合開始からの流れを思い出し起死回生の一手を模索する。
「あ、もしかして……」
盲点だった。というか、何故こんな簡単なことに気が付かなかったのだろうか。
ベリューズさんに魔法が通じないのなら、彼に魔法を撃たなければいい。今しがた浮かんだ一手を打つため、俺は地面に手を突き、魔力を込める。
「それは、降参のつもりか?」
魔力感知まで解いていてくれていたのか。俺をナメてくれて、本当に有難うございます。
「いいえ、違いますよ」
地に込めた魔力はベリューズさんの足元にまで及び、動く歩道かの如く地面の砂が彼を後ろに運ぶ。
「なっ!」
事態に気付き動こうと試みるが、もう遅い。障壁を作ったまま円の縁付近にいたことが運の尽きだ。
魔力は障壁の効果で外にまでは浸透しないものの、慣性の法則によりベリューズさんの足は円からほんの少しだけはみ出してしまう。
呆気に取られる兵士達をよそに、ロイドさんだけは冷静に審判としての務めを果たしてくれた。
「勝者、コバヤシ殿!!」
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