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転生保険とかいう悪徳詐欺を許すな  作者: 入道雲
第1章 オーガス王国
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第22話 トール・スリーヴ

いつも読んで下さって有難うございます!

「それでは!本日の試合におけるルールを説明する!!」


訓練場中に響くトールさんの声。これからこの国の双肩を担う猛者と戦うと思うと、自然と心拍数が上がってしまう。だがこれは緊張感によるものではない、高揚感だ。


「コバヤシ殿には、私と、魔術師団長であるベリューズと試合をしてもらう!当然、試合は1対1形式だ!」


そりゃそうだ。どちらか1人でも勝てる見込みは限りなく0に近いのに、2人いっぺんにかかってこられたらそれこそ10秒と保たないだろう。


「1戦目は私と、次いで2戦目にベリューズと戦ってもらう!それぞれの試合に際しての注意点をこれから述べる!!」


試合だもんな。ルールがあって然るべきだ。しっかりと聞いておこう。


「先ず、剣術試合においてはあらゆる魔法の使用を禁ずる!これには勿論”ストレングス”も含まれる!あくまでも、コバヤシ殿の騎士としての技量を審査することが目的だからだ!!」


「キッツいな……」


両方とも使えないから一見対等にも思えるが、パロッツ曰く向こうは100kgの重りを背負って走り回れる化け物だ。”ストレングス”ありきで戦略を考えていたのだが、最悪の想定で考えていた”アレ”をやるしかなさそうだな。


「逆に、魔術試合においては一切の武術の行使を禁ずる!”ストレングス”の使用は許されるが、それによる打撃は反則行為とみなす!!」


まぁ、そうなるよな。元々ベリューズさん相手に接近戦は考えていない。距離を詰めさせてもらえるなんて思ってないからな。


「試合の勝敗は、どちらかが降参を宣言するか、審判によって戦闘の続行が不可能だと判断された場合に決する!最後に!試合は直径30mの円の中でのみ行われる。この円から出た場合も場外負けとなるため、注意するように!!」


有り得ないとは思うけど、マジで死にそうになったら自分から円の外に逃げるのも1つの手というわけか。頭の隅には置いておこう。


「以上で注意点の説明は終わるが、何か質問や問題はあるかね!?」


「いえ、大丈夫です」


あなたの声量以外は。


「よろしい!であれば早速私との試合を始めよう!!コバヤシ殿、私を楽しませてくれよ!」


楽しませてくれよ、か。嬉しいね。完璧にこちらを下に見てくれている証拠だ。事実ではあるが、これはトールさんに隙が生じる可能性を示唆している。俺が善戦するためにはその僅かな隙を見逃すわけにはいかない。


円に入り、円内に刻まれた印の上に立つ。お互いの距離は大体20mといったところか。トールさんなら1秒とかからずに詰められそうな距離だな。


審判であるロイドさんが円の側に立つ。彼レベルの騎士でなければそもそも試合の途中経過を目で追えないからだろう。高まっていた心拍数が、徐々に落ち着いてきている。いいね、集中力が高まってきている証左だ。


高々と掲げた右手を、ロイドさんが掛け声と共に振り下ろす。


「始め!」


一瞬だけ魔力感知をしてトールさんの魔力状態を調べる。……よし!”弱火”状態だ。彼はルール通り何もしていない。ということは、俺の小細工が活きる目はある。


その小細工とは、”消火”だ。魔力を完全に体内に抑え込むこの状態では、若干ではあるが身体能力が向上する。この性質を利用して少しでもフィジカルの差を埋めないと、とてもじゃないが善戦なんて出来ない。


既に目の前まで迫ってきているトールさんの顔は、これ以上なく冷徹な表情をしている。以前の俺ならそれだけで身が竦んでしまっていただろうが、今は違う。瞬時に”消火”に切り替え、即座に距離を取って木剣を構える。


「やるな。3等級騎士程度なら今の一振りで終わっていたところだ」


無表情のまま称賛を述べる騎士団長。その能面からは何の感情も読み取れない。防戦一方に回ったら恐らく終わりだ。こちらから攻めるしかない。


多少実力のついた今なら分かる。どこからどう攻めようと確実に防がれる未来しか見えないことが。しかし、行くしかない。


「フッ!」


短く息を吐いて距離を縮める。予想外のスピードにトールさんの眉がピクリと動く。とは言え、調子に乗ってはいけない。少しずつ、相手の嫌がる攻めを続けるんだ。


敢えて地面を削るようにして木剣を斬り上げる。巻き上がる砂埃で少しでも視界を奪えるなら御の字だ。


「いい攻めだ。だが、この程度で”勇者の剣”は揺るがない」


体を半身ずらし、剣を振り下ろす。それだけで俺の木剣を叩きながら砂塵を払う。更に、返す刀で顔面に向かって振るわれる木剣。微塵も容赦が感じられない。だが、これでもまだ本気ではないことが体感で分かる。


腰を屈め、最小限の動きで躱し、身を捻り攻撃に転じる。狙うは最も避けにくい正中線のど真ん中、鳩尾だ。貫通させるつもりで突き出した木剣。まずは一撃だ。


「素晴らしい。だが、まだ突きに殺意が乗っていない」


「マジですか……」


確かに当たった。それなのに、トールさんは顔色一つ変えていない。比喩抜きの鋼の肉体ってか?ふざけやがって。


攻撃が当たって気の抜けた俺に喝を入れるかの如く、上段に構え直した木剣が振り下ろされる。


「がっ……!」


何とか頭への直撃は免れたが、左肩にもろに当たってしまった。砕けるかと思ったぞクソが!


どうすればいい、どうすれば隙を作れる?頭を回せ……


猛攻を避けることに専念しながら、全力で脳を働かせる。まともに動かない左肩を頼らずに済む戦法……


あった。いや、コレはアリなのか?だが、これしかない。一か八かだ。このまま逃げ回るのにも限界がある。ならば、四の五の考えずに実行するのみだ。


横薙ぎされる木剣をバックステップで躱し、トールさんの間合いから少しだけ外れる。それはつまり、同じ木剣を持つ俺の刃も彼に届かないことを意味する。ただ、それは木剣を振るえば、の話だ。


右手だけで木剣を握り、上段に構えた木剣を全力で振るうように見せかけて、俺は木剣を本気で投げた。


「なっ!?」


さしものトールさんも予想外だったのだろう。表情を崩し、動きが瞬間的に硬直する。一方で、俺は木剣を投げたと同時に走り出している。


虚を突かれたにも関わらず、縦に回転しながら迫りくる木剣を打ち落とすトールさん。恐らく本気を出したせいだろう。木剣は半ばからへし折れてしまった。構わずに俺は剣を振り下ろして無防備になったトールさんの左頬に、全霊を込めて拳を叩き込む。


これで倒れてくれなかったら俺の負けだ。頼む、倒れてくれ。そんな俺の願いは、果たして届くことはなかった。


「私は今、コバヤシ殿の今後が楽しみで仕方ないよ」


振り上げられ、喉元に突き付けられる木剣。どうしようもない。詰みだ。


「……参りました」


「勝負あり!勝者、トール・スリーヴ!」


勝てないと分かっていたはずなのに、死ぬほど悔しい。だけど、一瞬だけとはいえ、トールさんの本気を引き出せたんだ。次こそは、あんな破れかぶれな一手を使わずに勝ちたい。


「それでは!今の試合の評価に入る!!」

よろしれば、ブックマーク、評価、感想の程よろしくお願いいたします。

それがやる気の源泉となります!!

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[一言] 評価は最後じゃないんかw へたしたらテンションだだ下がりで次戦になっちゃうううう
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