第21話 試合前夜
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「お久しぶりです!小林様」
「……お久しぶりです。ファリスさん」
何とか悲鳴が出るのを抑えることが出来た。かれこれ2ヶ月以上会っていなかった状態での不意打ちは、心臓に悪い。
「それで、今日はどんなご用があるんですか?」
この詐欺女神が無意味に夢に出てくることなんてない。何か大事な話があるのだろう。何せ、明日が約束されたこの国の2トップとの試合の日だからな。
「察しが良いですね!私、話が早い人は好きですよ!というより、バカが嫌いなだけなんですけど」
相変わらず一言多いし怖いんだよ。もう俺が生前に抱いていた女神像は原型もない程に崩壊しちゃっている。
「無駄話は好きではありませんので、早速本題に入りますね?小林様は明日の試合、勝てるとお思いですか?」
この3ヶ月間、初っ端の訓練以外ではセーブしつつ頑張ったからな。訓練日数としては44日間だ。剣術と魔術を交互に鍛えたから、それぞれ約60年分修行したことになる。フィジカルだってアスリートの比じゃないくらいになったし、魔力だってそこらの魔術師が腰を抜かすくらいに増えた。つまり、何が言いたいかと言うと……
「無理ですね。万に一つも勝ち目はありません」
「なんでそんなに情けないことを自信満々で言えるんですか……」
「当たり前じゃないですか、相手は人外の領域に踏み込んだ方々ですよ?第一、毎日訓練して合計250年分修行してもギリ勝てないって言っていたのはあなたじゃないですか」
「よく覚えてらっしゃいましたね、その通りです。安心しました。これで小林様が『ベストを尽くして、策を練れば何とかなるかもしれません!』なんてほざいたらグーで殴っていました」
ホント、良い性格しているよな。この女神。
「お褒めにあずかり光栄です」
そういうところだよ。恋人とかできたことあるのか?いや、そもそも神に恋人なんて概念があるのか知らないけどさ。
「かれこれ7,000年独り身ですが、何か?」
「すみません、許して下さい。流石に失礼でした……」
今までで、一番圧が凄かった。多分特大の地雷を踏みぬいてしまったんだ。マジで気を付けよう。
「冗談はさておき、勝てないと理解していることには安心しました!しかし、他の忠告もしっかり覚えていますか?」
「大丈夫ですって、例えどんな場面であっても、”中火”以上の魔力を出さないようにすればいいんですよね?そこは任せてください」
何せあの天啓とも言えるアドバイスを受けて以来、魔力の感知と制御だけは毎日欠かさず行っていたからな。ボーナス倍率を加味すると、雑に計算しても200年以上取り組んでいたことになる。
魔力の感知範囲は100m近くにまで伸びたし、精度も見違えるレベルで高まった。出力制御調整の技術も飛躍的に向上した。
出力制御に関しては、4段階どころかグラデーションみたいに連続変化させることも可能だ。そんじょそこらの奴らには見破られない自信がある。
「そこまで言うのであれば、試しに見せて頂けますか?」
「勿論ですとも。先ず、これが”消火”です」
“弱火”状態だった魔力を瞬時に体内に抑え込む。こうすると、”ストレングス”を使わなくても若干のフィジカル向上が起こるんだよな。詳しい理由はよく分からないけど。
「ここから、ゆっくり出力を上げていきますね」
喋りながら、調整による魔力の”揺らぎ”が極力起こらないように出力を上げていく。15秒程で”強火”状態にまで持っていけた。これが丁寧にやった場合の限界速度だな。もうちょいイケる気もするが、流石に明日の試合には間に合わない。
「どうでした?悪くはなかったと思うんですけど……」
200年超の集大成を見せている間、神妙な顔をし続けていた詐欺女神。もしかして、このレベルじゃダメだったのか……?
「逆ですよ。正直、引いています。小林様が魔力の感知と制御に力を入れていたことは分かっていましたが、ここまで出来るとは思っていませんでした。ドン引きです」
褒められているのに、全然嬉しくない。なんなら一息の間に2回引かれたし。
「ですが、安心しました。それだけの芸当が出来れば、小林様の実力を把握しきれていない今のオーガス王国の人々を欺くのは容易でしょう」
「それなら、良かったです」
俺の地道な努力は、無駄ではなかったらしい。
「というか、女神様なら僕の実力なんて全てお見通しかと思っていましたよ」
「はぁ……こちとら世界のバランス調整の片手間にお前の様子をチラチラ気にしてやってんだよ。そこまで暇じゃないっつーの」
クソデカ溜息を吐かれてしまった。当たり前だよな。この女神の仕事量を考えると俺一人にべったり構っていられるわけがない。
「ご理解頂けたようで何よりです!私が確認したいことは以上ですが、小林様の方で何か気になっていることはございませんか?」
1つだけ、ある。とは言っても、些細な事なんだけどね。
「どのような些事でも構いませんよ!後顧の憂いを絶つのは大事ですからね。それに、小林様の肝っ玉の小ささは十分理解しておりますから!」
なんでこう、棘を出すのかなぁ……もう慣れたけどさ。
「気のせいかもしれないんですけど、城内の人が過保護過ぎるんですよね。万が一の事があってはいけないから~とか言って滅多に城の外に出してくれないし、外出許可が出ても必ずフード付きのマントを被るように指示されるし……主にベリューズさんからの指示で」
初めての討伐遠征時に見た街並みがあまりに新鮮だったから、もう一度見たくて何度か外出を試みたものの、そのことごとくを邪魔されている。結局外に出られたのは1度だけ。それもあの”地竜のマント”を着用した上での2時間のみ、という制限付だ。
召喚者に大事があってはいけないことは重々理解しているが、こっちもそれなりに強くなっている。いつまで経っても扱いが変わらないのは、ほんの少し気分が悪い。
「……それに関しては、仕方ないですよ。期待が大き過ぎて実感が湧かないのかもしれませんが、小林様はオーガス王国にとって救世主足り得る存在なんです!驚異的な成長速度を目の当たりにしているからこそ、下らない事故でそんな人材を失うことなどあってはならないのです!」
そこまで言われてしまうと悪い気もしないし、納得も出来るのだけど、ちょっと違う気もするんだよなぁ……
「納得してくださいとは言いませんが、今言ったことだけはちゃんと理解しておいてくださいね。私にとっても、小林様が死ぬことは絶対に許容できませんから」
「……そこまで仰るなら、分かりました。我慢します」
「ご協力有難うございます。他には、何かありませんか?」
「いえ、特には」
今の所、この小さな悩み意外は本当に順風満帆だからな。明日の試合も、勝てないと分かっているが故に微塵も緊張していない。それどころか、俺の”中火”がどこまで通用するのか楽しみですらある。
「では、そろそろお目覚めの時間です。トールとベリューズとの試合、頑張って下さいね!勝てずとも、ゲルギオス王に実力を認めさせるだけで十分なのですから、安心してボコボコにされて下さい」
もう少し言い方ってもんがあるだろうよ……この方が詐欺女神らしいっちゃらしいけどさ。
「さぁ、朝陽が昇ります。また会う日まで、小林様のご活躍をこの目でしかと見張っていますからね」
「はいはい、程々に頑張りますよ」
なんだかんだ、少しだけ力んでいた肩の力が抜けた気がする。せめてあの2人の底が見えるくらいには粘りたい。いや、出させてみせる。半世紀を超える重み、見せつけてやろうじゃないの。
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