第19話 討伐遠征
いつも読んで下さって有難うございます!!
「今回の遠征ではこの剣を使って下さい。コバヤシ殿の筋力なら問題無く振るえる筈です」
「有難うございます」
手渡された剣は、確かに軽く感じた。これも2ヶ月の訓練とボーナス倍率のお陰なのだろう。
「それでは、テリム車に乗り込んで下さい。中にいる方々が、今日の遠征を共にする班になります」
「分かりました」
場所は王城裏門前、少なくとも10台以上の”テリム車”が並んでいる。この馬に似た胴長の四足獣が、テリムという動物らしい。俺の知っている馬よりも一回りは大きい。たてがみは無いが、長い尻尾が特徴的だ。
レイドリスさんに促されて荷台に乗り込むと、右奥に見覚えのある青年が座っていた。
「コバヤシ殿じゃないっスか!同じ班だったんスね!」
「あぁ!そうみたいだな」
最後に入ってきたレイドリスさんを含め、このテリム車には合計8人の騎士と魔術師が乗っている。それなりの人数が乗っているのにも関わらず、パロッツ以外が一様に口を閉じているのは、恐らくこのメンツが原因だろう。
王子のレイドリスさんに、魔術師団長であるベリューズさん、そして召喚者の俺。約半数が色々な意味で声をかけにくい存在だ。車内には異様な緊張感が漂っている。そんな雰囲気を誤魔化すように、俺はパロッツに話しかけた。
「あれ、パロッツって今回の遠征に参加しても大丈夫なの?」
前に聞いた話だと、新米は大規模戦闘には参加できない制度があったはずだが……討伐遠征は違うのか?
「それが、自分もよく分かってないんスよね」
「あぁ、それについては私が説明しよう。彼は新米騎士だが、同時に3等級騎士でもある。3等級以上の騎士、及び魔術師は即戦力として認められ、例外的に参加してもらうことになっているんだ」
いくら新米とは言え、実力のある人材を遊ばせておくつもりはないというわけか。
「凄いなパロッツ!即戦力だってさ」
「いやいや、僕なんてまだまだっスよ!」
しっかりと謙遜こそしているが、頬のゆるみが隠せていないぞ。
「そんなことはない!この半年の間に入った20名の中で、3等級に上がっているのはパロッツ君を含めて2人しかいないからね!」
「然り。3等級は1人前の証。王国騎士として胸を張るがいい」
「あ、有難うございます!」
レイドリスさんとベリューズさんに褒められてすっかり茹で上がっているパロッツ。可愛いヤツだ。
「だが、これで満足してはならん。2等級は百人力の証、1等級は一騎当千の証だ。目指すべき上があることを努々忘れてはならぬぞ」
「は、はいっス!」
俺も負けてられないな。まずは残りの1ヵ月、最善を尽くさねば。
「さぁ、もう城を出たよ。気を引き締めていこう」
「え?もう出発していたんですか?全く揺れを感じなかったんですけど……」
「そうか、コバヤシ殿は城の外に出るのは初めてでしたね。目的地までの迅速かつ快適な移動を可能にするため、テリムには”ストレングス”を、荷台には”コンフォート”という魔法をかけているんですよ。だから振動や風を感じずに済んでいるんです」
「へぇー!そんな便利な魔法があるんですか!」
物理法則と俺の中の常識をあまりにも無視し過ぎていて、少しイメージが難しいな。
「と言うことは、城下町を見るのも初めてになるんですね」
「そうですね!楽しみです!」
「コバヤシ殿、今の内にこれを」
会話を遮ってベリューズさんが渡してきたのは、フード付きのマントだった。
「どうしてですか?」
「召喚者の存在は王国中に知れ渡っている。テリム車に被せられた布で中は見えにくいとは言え、召喚者を厭う者の目に留まるようなことがあってはならない。今後起こり得る万が一の事態を避ける為にも、コバヤシ殿には徹底して姿を隠してもらいたいのだ」
随分と慎重だな。しかし、膨大な時間と魔力をかけた召喚者が訳の分からないタイミングで死んでしまった場合の損失を考えると、この慎重さも頷けるというものか。
「それに、このマントは耐刃・耐魔性にも優れている。討伐任務中にもきっと役に立つだろう」
「なるほど、分かりました。有難く頂戴いたします」
素直に受け取ったマントに袖を通す。見た目以上にずっしりとした重さがあるな。耐刃性があるというのも納得だ。
「テリム車からの街並を満足に見せてあげられないのは非常に心苦しいですね……」
何故か俺以上に気落ちしているレイドリスさん。この人、本当に良い人なのかもしれない。
「いえ、お気になさらないでください。全く見えないわけではないので」
乗降口からの景色も捨てたものではない。石畳や石造りを基調とした美しい街並みがしっかりと見える。
「簡単に王都の構造を説明させて頂くと、王城を中心として東西南北にメインストリートが走っており、南北の道がそれぞれ裏門・正門に通じています。今私たちが向かっているのが裏門ですね」
「あ~、城から放射状に街が広がっている感じですか」
フランスのパリとかと同じ感じか。分かりやすくていいな。
レイドリスさんの話を聞いている内に、テリム車が動きを止めた。門番による検問らしい。当然やましいことなど何一つ無いので、あっさりと街の外に出ることが出来た。
「おぉ……」
街を出て初めて目にする外壁。10mはあるんじゃないだろうか。歴史と威厳を感じさせる門扉も、高さ3mはくだらない。思わず感嘆の声が漏れる。
「裏門から出た後は、それぞれの班毎に割り振られたエリアに向かい、危険な魔物をある程度間引きます。”ストレングス”をかけたテリムの足なら大体1,2時間で着きますよ」
そこまで遠くないってことなのかな?いや、こうして話を聞いている間にも門がみるみる小さくなっているところを見るに、結構な速度が出ているに違いない。
……待てよ、今、間引くって言わなかったか?
「間引くだけなんですか?殲滅ではなく」
「いいところに気が付きましたね。そうしたいのは山々なのですが、不思議なことに殲滅を繰り返すと逆に魔物が激増してしまうのです。まるで、魔物の数を保つ摂理でもあるかのように」
深刻な表情で語る王子をよそに、俺は自分の心拍数が一瞬跳ね上がったのを感じた。覚えがあるからだ。激増の理由に。
あの詐欺女神は言っていた。彼女はあくまで”この世界の神”であると。人族と魔族のバランスを保つために、今回は人族に肩入れしているに過ぎないと。
女神の予言を頼りに動く彼らがこのことを知った時、一体どうなってしまうのか。考えるだけで恐ろしい。
「コバヤシ殿、少し顔色が悪いようだが?」
目敏いな……だが、言えるわけもない。適当に誤魔化そう。
「いえ、何でもありませんよ。それより、どんな魔物がいるのですか?今の内に色々とご教授願いたいのですが……」
話題転換が功を奏したのだろう。ベリューズさんの講義が想像以上に細かく、延々と湧き出る蘊蓄に辟易してしまったのを除けば、平穏無事に目的地に辿り着くことが出来た。
テリム車から降り、伸びをして凝り固まった身体をほぐし始めた直後、パロッツの緊迫した声が耳朶を打った。
「コバヤシ殿!上です!!」
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