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転生保険とかいう悪徳詐欺を許すな  作者: 入道雲
プロローグ
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第1話 詐欺

いつも読んで下さってありがとうございます。

「……何処だ、ここ。市役所?」


今立っている場所は恐らく、現在住んでいる市の市役所だ。他には誰もいないみたいだ。不気味なまでの静けさと仄暗さを除けば、特におかしな点は見当たらない。


……俺は半狂乱になった男に刺し殺されたんじゃないのか?もしかして、実はまだ生きていて集中治療室で夢の中とか?


『受付番号1番の小林空さーん、1番カウンターまでお越し下さーい!』


「うおっ」


突然の声に驚き、肩が跳ねる。同時に、硬質なプラスチックが落ちた音が辺りに響いた。……いつの間にこんなもの持っていたんだ?


足元には”1”とだけ書かれた免許証サイズのカードが落ちている。もしかして、受付番号ってこのカードなのか……?


『番号1番の小林さーん!早く来て下さーい!』


先程よりほんの少し大きくなった声のする方を向くと、薄暗い市役所の中で唯一蛍光灯に煌々と照らされている場所があった。


“転生課”と書かれたプラカードが天井から垂れ下がっているカウンターの席には、美しい銀髪の女性が座っている。


「す、すぐ行きます!」


正直ワケが分からないが、一旦話を聞いてみよう。夢ならその内覚めるだろうし、万が一“そうじゃない場合”だとしても、あの女性なら事情を知っているはずだ。


俺が腰を下ろしたのを確認してから、女性はアクリルパネル越しに喋り始めた。


「先ず始めに、転生保険へのご加入誠に有難うございます!」


「は?」


「6月14日17時22分にコンビニエンスストアでのお支払いを確認し、同日17時27分に被保険者の死亡を確認いたしましたので、契約通り、当保険を適用させて頂きます!」


「ちょ、え!?待ってください!アレ、本物だったんですか?」


いよいよ病院かどこかで夢を見ている説が濃厚になってきた。あまりにも突飛で、非現実的だ。有り得ない。


「はい。当然本物ですし、付け加えさせて頂くと、夢ではありませんよ!」


「……いやぁ、やけにリアルな夢だなー」


心まで読めるときた。こういうタイプの悪夢は初めて見たかも。


「はぁ、めんどくさ……。いい加減に自覚しろよ。お前、死んだんだって」


「え?」


態度豹変していませんか?メチャクチャ怖くなられていらっしゃいませんか?


「コレ見ろって、ほら」


半ばフリーズした脳が、指示通りにパネルに視線を移させる。そこには、真っ白な床に倒れ伏す男性と、彼を中心に広がる夥しい量の血液が俯瞰で映し出されていた。


「……俺だ」


素人でも一目で分かる。致死量だ。頭に昇っていた血が、潮が引いてくかの如く落ちていくのを感じる。いつもならまだ夢の可能性は捨てない。でも、直観的に理解できてしまった。そっか、やっぱり、そうだよな……。


「やっと飲み込めましたか?では、本題に入らせて頂きますね!」


「はい。スミマセン……」


現状判明している事実は2つ。俺はもう死んでいて、目の前にいるお方は、ハチャメチャに怖い。大人しく話を聞くのが吉とみた。


「全然怖くなんてないですよ~。物分かりさえよければ」


「そ、それで本題というのは?」


「あぁ!自己紹介から始めましょうか。私、女神ファリスと申します」


「女神?」


「はい、あなたが“召喚”される世界に存在する唯一神です!」


既に多くの疑問が脳内に渦巻いているが、最も聞き逃せなかったのは……。


「召喚?召喚って言いました?転生ではなく?」


「はい!あなたはこれから、オーガス王国の宮廷魔術師団によって召喚される予定となっております」


「……話が違いませんか?」


生前ラノベや漫画を読み倒した部類の人間だからこそ、召喚と転生の間には大きな違いがあると十全に理解している。


「……あなたは既に死んでいますし、召喚される際、身体の組成が向こうの世界に準拠したものに変性します。言ってみれば、実質生まれ変わっていると言っても過言ではありません!違いますか?」


「こじつけが過ぎる……」


「ダメ押しにほら!契約書のココを読んでください。『この保険に加入して頂いた方には、ご本人の死因が如何なるものであろうと、責任を持って素晴らしい死後の世界を保証いたします。』と書いてあるじゃないですか。転生して赤子から新しい人生を送る、だなんて記載はありませんよ?」


……典型的な詐欺師の語り口だ。まぁ、記憶を持ったまま赤子になって~ってのもしんどいし別に召喚でもいいのかもしれない。


「そういうことです!本保険はお客様の召喚後の都合まで配慮しているのです!」


調子がいいよなぁ、“手馴れている感”がプンプンする。


「もういいです。じゃあ、素晴らしい死後の世界ってのはどこら辺が素晴らしいんですか?」


「召喚されるにあたり、私の方から素晴らしいボーナスを1つ付与いたします!」


ここまでの流れを考慮すると、あまり良い予感はしない。


「その内容は一体どういったものなのでしょうか」


「内容は非常にシンプルです!あらゆる物事に関する成長速度が生前における被保険者の1,000倍になります!当然、老化は除くので安心して下さい!」


「成長速度、と言うと?」


「例えば、1日だけ剣の修行をした場合、生前の小林様が約3年修行した場合と同じだけの技量の向上が起こります。本来なら与えられるボーナス倍率は100倍なのですが、貴方様は記念すべき1人目ですので、特別サービスです!」


予想はしていたが、こんな詐欺に引っかかったのって俺だけだったんだ……。無性に恥ずかしくなってきた。にしても1,000倍って……。


「とんでもないチートですよね」


肩透かしを食らった気分だ。


「現時点では1人、というだけですよ。ですが、それだけのチートがあっても召喚後の世界でのお役目を考えると足りないくらいなんですよね……」


「お役目って何ですか?聞き覚えが無いんですけど」


「おや?契約用紙を最後までお読みにならなかったのですか?」


「いや、ちゃんと最後まで読みましたけど」


「いやいや、ちゃんと紙面に記載がありますよ?ほら!」


女神が指差したのは、契約要項が書いてある紙の一番上と一番下に引いてあった、長さの異なる2本の黒い直線。


「これがどうしたっていうんですか?」


「あぁー、人間の視力じゃ読めなかったんですかねー。少々お待ち下さ―い。拡大しますのでー」


白々しい棒読みをしながら女神がパネルに紙を押し当てると、2本の真っ黒な線が数百倍に拡大される。


結論から言うと、直線は直線ではなく、極小サイズの文字列だった。


『保険加入に際し、被保険者である小林様(以下、甲)は以下に記載された文章を熟読し、保険内容を十分に理解した上で、契約主である女神ファリス(以下、乙)からの要求事項(最終行記載)を保険加入時点で承諾したものとする。』


『1.甲は召喚前の契約説明で乙から与えられた依頼を果たす責任があることを認め、依頼の完遂に向け尽力する。2.明確な敵意が向けられている場合を除き、乙は甲に召喚後の世界の住人に対する一切の加害を禁ずる。3.甲は、原則として召喚主の命令に背くことは出来ないものとする。但し、この項目は召喚主が甲との契約を破棄した場合か、召喚主が甲に対し明確な殺意を向けた時点で無効となる。4.1,2,3の項目に甲が違反しようとした場合、甲は自身に耐え難い苦痛が生じる“ペナルティ”を容認する。以上の項目は、甲が乙からの依頼を完遂した際に解消され、甲は一切の制約から解放されるものとする。』


「ね?ちゃんと書いてあるでしょ?」


「こんなの読めませんよ!マジもんの詐欺じゃないですか!」


「大変申し訳ございませんが、お支払いが完了した時点で契約は結ばれているので、いくらぶつくさ文句を垂れようと内容は変更されません」


清々しいまでに開き直っていやがる。最悪だ。


「もういいです……。で、”乙からの依頼”っていうのはなんなんですか?まさか世界を救ってほしい、なんて依頼じゃないですよね?」


「大当たり!正にその通りです!」


……マジかよ。

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