第16話 圧倒的成長 前編
いつも読んで下さってありがとうございます!
今回は少しばかり話が長くなりそうなので2分割させて頂きました!
──あの女神に初めて騙されてから1ヵ月と半月。即ち、もうトールさんとベリューズさんとの試合までの折り返し地点に来てしまったということだ。
だが、試合に関してそこまで焦りは無い。理由としては2つある。1つ目は、半ば投げやりになっているから。2つ目は、あの詐欺女神がこの1ヵ月以上夢に出てきていないから。
もし現状に文句があるのなら、あの詐欺女神が夢に出て小言という名のアドバイスをしてくるに決まっている、というのが俺の考えだ。
2度目の剣術訓練以降、どちらの訓練においても1日の訓練の後に必ず1日の”反動”が挟まる形となっていたが、それに関しても特にお咎めは無かった。
その”反動”を考慮に入れると、俺は召喚されてからの45日間の内、22日間を訓練に費やしていることになる。ボーナス倍率1,000倍が乗算されることでそれぞれ11,000日間、ざっくり30年間ずつ剣術と魔術を訓練したことになる。
このペースを継続すれば、試合までに剣術も魔術も半世紀以上訓練したことになる。俺がサボらない、というよりもサボれないことが大前提であるとは言え、これは決して短い年月ではない。
俺の予想では、この国の2トップには絶対に勝てない。けれども、まともな勝負にはなると踏んでいる。そして恐らく、詐欺女神的にはそれで十分なのだろう。
負けることが分かっていて頑張るなんて何だかテンションが上がらないが、かと言って無茶をしても特大の”反動”で進捗に支障をきたして終わりだ。
だから俺がやるべきは、粛々となすべきことをなすこと、ただそれだけ。
これじゃ前の世界と大して変わらないような……いや、深くは考えないようにしよう。
「どうしたんスか?コバヤシ殿、何だか顔色が険しいっスけど、大丈夫っスか?」
「あぁ、気にしないで、何でもないから」
つい感慨にふけってしまっていた。この30kgの重りⅢにも完全に慣れちゃったもんな……自分がどんどん人間離れしていくのを物理的に実感している。
「それにしてもコバヤシ殿、本当に凄いっスよね!たった1カ月ちょっとでここまで成長しちゃうんスから!もう並の3等級騎士でも相手にならないんじゃないっスか?」
「あ~どうだろ、それはやってみないと分からないかな」
“反動”の苦痛にも少しずつではあるが慣れ始め、順風満帆と言えなくもないのだが、そんな俺にもちょっとした悩みが2つある。
「またまた謙遜しちゃって!この第三部隊所属の”3等級騎士”が言うんスから!間違いないっスよ!」
その内の1つがコレ。パロッツが何かにつけて俺を褒めちぎってくれるのだ。俺は”成長速度1,000倍”のお陰でここまで強くなれただけ。それに対し、この前4等級騎士から1つ昇格した彼の場合は、純然たる努力の賜物だ。
勝手な話ではあるが、そんな凄いヤツにチートで強くなった俺なんかが褒められてしまうと、嬉しさよりも罪悪感の方が勝ってしまう。
「コバヤシ殿?もう5km走り終えましたよ!まだ走るんスか?」
「っと、ボーっとしてた!ごめんごめん」
「余裕っスね、じゃあ向こうの打ち合い稽古に合流しましょうか!」
「……そうだな」
4度目の訓練を終えた時、トールさんが「コバヤシ殿ももう立派な騎士だ!パロッツとだけではなく、他の騎士とも打ち合い稽古をするといい!!」と言い出したせいで、俺は全体訓練に混ざるようになった。
それこそが、2つ目の悩みの原因である。
「来たぞ、コバヤシ殿だ」
「さっきの見たか?もう重りⅢを付けて軽々と走っていたぞ」
「凄いのは認めるが、訓練の手を抜く上にすぐに体調を崩しがちなのがな……」
「確かに、それさえなければ少しは尊敬できるのだが」
「おい、やめとけ、聞こえるぞ」
こんな感じで、今の俺は”才能にかまけて訓練の手を抜く病弱で嫌なヤツ”という評価になっている。
弁明したい。手を抜いているのではなく、”反動”の為に調整しているのだと。貧弱なのではなく、それ程までに”反動”がキツいのだと。
しかし、そのためにはボーナス倍率に関する説明が必須となる上に、物的な証拠が一切無い。寧ろ「体裁の為に言い訳をしている」とか「そんな反則級のギフトがあるのか、気に食わん」といった事態になる可能性すらある。
故に、角を立てないよう大人しくするのがベターなのだ。それが理解できているから余計にしんどい。
「コバヤシ殿、あんなの気にしなくていいっスよ。僻んでるだけなんスから」
「ありがとう。気にしてないよ!」
勿論嘘だ。でも、パロッツにはなるべく心配をかけたくない。
「おや?そこにおられるは”英傑”コバヤシ殿ではありませんか!今日は体調がよろしいのですかな?」
あぁ、面倒なのが来てしまった……
「えぇ、なのでこうして訓練に参加させて頂いております」
「それは良かった!なぁウォード!」
「そうだなノイント、今日こそは最後まで訓練に参加できるといいですな!」
幼稚な煽りだと頭では分かっているが、2度3度と繰り返されるとその鬱憤は着実に溜まっていく。
「ノイントさん、ウォードさん、こんな所をトール騎士団長に見られたらどうなるか分かってるんスか?」
すかさず割って入ってくれるパロッツ。しかもなるべくことを荒立てないように騎士団長の名前を出す辺り、彼の対人センスは素晴らしいと思う。
「その騎士団長殿は今ロイド1等級騎士と打ち合い中だ。こちらのことなど意識の外だろうよ」
「最近我々と同じ3等級に昇格したからと言って調子に乗っているのではないか?パロッツよ」
こちらもこちらで流石だな。嫌がらせに関しては1等級なんじゃないか?まったく……
これ以上はパロッツにも迷惑がかかり過ぎる。仕方ない、少しだけ手荒なマネをしてでも……と動き出す寸前。聞き覚えのある声が突如真横から発せられた。
「そう言う物言いは騎士として褒められたものではないな。ノイント、ウォード」
「れ、レイドリス殿下!?」
「何故このような所に!?」
まさかの助っ人に有難いと思う反面、心の底から恐ろしかった。何故ならば、俺はこの1ヵ月以上、魔力制御と魔力感知の鍛錬だけは休まずに行っていたからだ。
殆ど”反動”に影響しないこの2つの魔法技術に関しては、手抜かりなく鍛えてきたつもりだ。
なのに、この第一王子はボーナス倍率換算にして80年以上培われた俺の魔力感知に微塵も引っ掛からなかったのだ。
……これが、”勇者”の実力か。
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