第13話 学習
いつも読んで下さってありがとうございます!
「それで、どうしますか?一応今日の目標は達成できたわけですけど」
「コバヤシ殿が何故こうも早く魔法を習得できたかについては多くの疑問が残るが、何にせよ嬉しい誤算だな。まだまだ時間はある。魔力が尽きない程度に訓練を続けよう」
魔法の習得に関しては、現代の知識と創作物で培われたイメージ力がある分、剣術と比較してよっぽど素養があるんだろうな。
「因みに、魔力が尽きるとどうなるのですか?」
「魔力が著しく減少すると、頭痛・眩暈・吐き気などの症状に見舞われる。特に、魔力が完全に枯渇した場合は魔力欠乏症と言う状態になり、発熱・激しい頭痛・嘔吐に苛まれる。更に、これらの症状は魔力が一定以上回復するまで改善されず、治癒魔法による回復は一切見込めない」
うわぁ、それは本気で勘弁してほしい。聞くだけでしんどい。
「だが、魔力が最も増加するのはこの魔力欠乏症からの回復後とも言われている。とは言え、私も鬼ではない。定期的に魔力感知でコバヤシ殿の魔力量を確認し、今いった事態に陥る前に訓練を止めるように調整しよう」
「よろしくお願いします。本当に」
もう剣術訓練の時みたいな地獄は味わいたくないからな。
「他に何か質問はあるかね?」
質問か…あれ、そう言えば最初に魔力水晶をベリューズさんが取り出した時、水晶は全く光っていなかったよな?
「あの、もう一度魔力水晶を取り出してもらえますか?」
「構わんが…これがどうかしたのか?」
やっぱり、俺が持った途端に反応した水晶が、今は無反応だ。
「ベリューズさんは僕なんかより遥かに多くの魔力を持っていますよね?それなのに、何故魔力水晶が反応を示さないのですか?」
「あぁ、それは簡単なことだ。魔力水晶は、体表から漏れ出ている魔力に反応している。逆に言えば、魔力の漏出さえ抑えてしまえば水晶は一切の反応を示さないというわけだ」
これがあの詐欺女神が言っていた魔力制御ってやつか。早目にその方法を聞いておくべきだろう。何せ最優先事項らしいからな。
「どうやって魔力の漏出を抑えているのか、教えて頂けますか?」
「ハッハッハ!向上心があることは良いことだが、今のコバヤシ殿には時期尚早というものだ。魔力制御には魔力感知が必須となる。それも、最低でも半径5m以内に存在する魔力を感知できるレベルにならなくては習得の入り口にすら立てぬ」
い、一笑に付されてしまった。今の発言はベリューズさん的には車の免許を取りたての若僧が「ドリフト走行ってどうやるんですか」と質問するのと同じようなものだったのだろう。
「それに、魔力の抑え方も人によって言うことが大きく異なる。結局は自力で習得することになるだろうな」
それこそ自動車教習所みたいだな。教官によって教え方が違うもんだから慣れるまではかなりストレスが溜まったものだ。
「質問は以上かな?」
「はい、そうですね」
「では、もう一度先程と同じ火魔法を発現させてもらおう。それでコバヤシ殿の残存魔力量は最大時の3割を下回る筈だ。そこまで減らせば多少は不調が現れるだろうが、魔力の増加も見込める」
なるほどな。結局は魔力も筋トレと同じ要領で増やしていくしかないわけだ。
「分かりました」
数分前と同じ様に、燃焼のイメージを行い、魔力という名の燃料を投下する。魔力が減っているからだろうか、体から魔力が抜けていく感覚が1回目の時よりもハッキリと知覚できた。
直後、眼前に拳よりも一回り程大きい火球が顕現する。うん、難しい魔法理論が分かっていなくてもイメージで何とかなるのは間違いないみたいだな。
「…見事だ。コバヤシ殿には魔法の才があるのやもしれんな。少し早いが、今日のところはこれで終いにしよう。遅れていた予定も十分取り戻せた上、今の2発目の魔法でコバヤシ殿の魔力も十分に消費できた。これ以上の訓練は恐らく先日と同様の事態を引き起こしかねん」
正直魔法が使えてテンションが上がっている今、もっと色々な魔法を使ってみたいという気持ちもあるが、ここはベリューズさんの言う通り切り上げた方が身のためだな。
「そうですね。あ、最後にお願いがあるのですが、魔力水晶ってもらえたりします?」
持つだけで体外に漏出している魔力量を見ることが出来る。これは魔力制御の訓練をする上でもかなり有用だ。何せ視覚的に魔力の制御が出来ているか否かを判断できるのだからな。
「これを何に使うのかは知らんが、いいだろう。大して高価な品でもない」
「有難うございます」
よしよし、今日余った時間は魔力感知の範囲を拡げる訓練に充てよう。それなら魔力は消費されないだろうし、翌日に響くこともないはずだ。
「では、今日は有難うございました」
「うむ。午後は自由に過ごすとよい」
「はい、失礼します」
演習場を出た俺が部屋に戻ると、そこには丁度掃除を終えたテラさんがいた。
「あら、コバヤシ様ではありませんか。本日は魔法の訓練だったのでは?」
「えぇ、簡単な火魔法を習得して魔力を十分に消費できたので、ベリューズさんの計らいで早めに切り上げさせてもらったんです」
「凄いですね!僅か半日足らずで魔法を習得されてしまうなんて!」
あぁ、癒される。何と言うか、テラさんの誉め言葉には心が込められている感じがするんだよな。大人になるとこんな風に褒められることなんて殆ど無くなるから、余計に深く沁みる…
「いえいえ、ベリューズさんの教え方が上手だったんですよ」
「それだけで習得できる程、魔法は簡単ではないんですよ。そうだ、お昼ご飯はいかがいたしますか?今すぐにご用意できますが」
そう言われると、お腹が空いている気がするな。毒探知魔法の練習もしたいし、持って来てもらおう。
「すみません、お願いしてもよろしいですか?」
「承知いたしました。すぐにお持ちいたしますね」
「お願いします」
それから10分程して、お昼ご飯を持ってきたテラさんはそのまま別の仕事に行ってしまった。どうやらメイドの人手が足りていないというのは本当らしい。
「さて、毒探知魔法とやらをやってみるか」
毒、毒か…パッと思い浮かぶのは、シアン化カリウムとかテトロドトキシンだよな。所謂青酸カリとフグ毒だ。
こういった人体に有害な物質、というよりそれらの物質により俺を害そうとする人間の悪意を想像した方がいいのか?そしてその悪意を探知するソナーを魔力が担うイメージをして…
「毒探知」
そう呟いた瞬間、俺は魔法が成功したことを確信した。魔力が抜けていく感覚が確かにあったからだ。
「…怪しいモノは何も入ってないようだな。それじゃ、いただきます」
パンに肉にサラダ。相変わらず豪勢な食事だ。前の世界でのお昼ご飯なんてカップ麺ばかりだったからな。
この世界に栄養バランスなんて概念が広まっているかは知らないが、少なくとも今の方がよっぽどまともな食生活を送れていることに間違いはない。
「ふぅ、ごちそうさまでした。さて、魔力感知の訓練でもしますか」
ポケットにしまっていた魔力水晶を取り出すと、水晶はロウソクの灯ほどの光を放ち始めた。
「…それは、おかしくないか?」
俺は今日3回も魔法を使った。ベリューズさんの見立てでは、俺の魔力は全快時の3割以下になるまで消費されているはず。それなのに、魔法を使う前と同じ明るさを放つ水晶。
…この短時間で、俺の魔力が増えている?
「これもボーナス倍率1,000倍の恩恵なのか?」
以前の俺ならここで調子に乗って更に魔法を使っていただろうが、あの地獄を経験した今、そんな愚行を犯す気にはなれない。
「大人しく、魔力感知の練習をしよう」
それから夕飯の時間になるまで、様々な方法で魔力感知範囲の拡張を試みた。
最終的に「自分の魔力を知覚し、その魔力を水準として引っ掛かる魔力を探る」というイメージを持つことで手の届かない距離に存在する魔力を感知することに成功した。
その結果、どうやら大気中にも微量ながら魔力に似た何か─魔素とでもいうのだろうか─が存在していることも分かった。
1日の成果としては十分だろう。魔力制御に関しては、少し癪だがあの詐欺女神に聞いた方が早そうだな。
長い間集中していた影響か、何やかんやくたくたになってしまった。今日もよく眠れそうだ。
あぁ、どうか”反動”が最小限でありますように…
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