第105話 真の目的
今回は少し短いです。すみません。
俺の異変に気付いたヤツは近くにいた集落の魚人族を人質に取ろうとしたが、それを許す筈もない。
まともな制御すら困難な魔力を存分に使って、ストレングスを発動。ヤツが金剛にしたように、遠慮も躊躇も無く蹴り飛ばす。
「ぐっ……!」
魔人は呻き声を漏らしながらネルー湖の湖面を何度も跳ねた後、派手な水飛沫を上げて沈む。
「これは……凄まじいな」
近くに集落の人達がいる。加えて湖の生態系を壊しかねないから魔法はダメだ。となると、コアを破壊するには纏魔が最適か。
湖岸から跳躍してヤツの真上に差し掛かる直前、大きな魔力を感知。急いで風魔法により後退すると、湖面を蒸発させながら凝縮された火球が飛び出した。
「スキルが無かったら、確実に死んでいたんだろうな」
冷静に威力を見極める余裕すらある。再度風魔法を発動して後押ししてもらい、火球を切り裂く。俺と金剛を羽虫と侮り、ピピさんを殺したヤツのすべてを否定する様に。
勢いそのまま、アベリガレストの身体を一刀両断する。そのまま素早く上半身を回収し、集落の人達がいない方の湖岸へと投げる。
こいつクラスの魔人なら、コアを破壊しても油断は禁物だ。最期の悪足掻きだって有り得る。
「……そろそろか」
湖岸の木に背中を預けるようにして座り込む。
──痛みは無い。苦しくもない。ただ、意識はあるのに、体がピクリとも動かない。
「よもや……貴様程度の羽虫に……我が殺されようとはな」
……しぶといな。死に絶えではあるが、まだ息があるのか。とは言え、魔力の漏出速度が尋常ではない。あの状況では、簡単な魔法すら発動できずに数分と経たずに死ぬだろう。
ダメ押しに、今この場所に向かいつつある2人が到着すれば、万に一つの可能性も起こり得ない。
「クックック……最高の結果とはいかなかったが、まぁ、最低限の仕事は果たして死ねるのだ。我が主もお喜び下さるだろう」
……仕事?どういう意味だ?
心臓が早鐘を打つ。何か見落としがあったのか?いや、思い当たる節が無い。
混乱の最中、自分の身体が動くことに気付いた。どうやら30秒のデメリットが終わったらしい。
「アベリガレスト、最低限の仕事とは何だ」
「……誰が羽虫に教えるものか、と言いたいところだが、貴様の絶望する顔が見たい。……特別に、教えてやろう」
「早く答えろ!」
「……今回の侵攻は、貴様らの戦力だけではどう足掻いても対応できないものにした。……何故か分かるか?」
アベリガレストの言いたいことが掴めず、ただただ焦燥感だけが募っていく。
「……簡単だ。そうすれば貴様は、間違いなく誰かに助けを求める。……そしてものの見事に、王国の最高戦力を王都から引き剥がしてくれた……クックック」
「まさか……!」
「羽虫よ……、我が主は今、何処にいらっしゃるのだろうな?」
「クソっ!!」
そんなの……どうしろって言うんだよ……!!
「……我が主は、愉悦を求めている」
「王都にはどれだけの軍勢がいる!」
「……繰り返される茶番に、飽いておられるのだ」
「答えろ!」
「……くれぐれも、我が主を失望させるなよ、羽虫」
その言葉を最期に、魔人は絶命した。
あれだけ辛酸を舐めさせられ、恐怖し、やっとのことで斃した。
それなのに、勝利への感慨など微塵もない。
ピピさんを守れなかったことに対する後悔と、黒幕が王都にいるという絶望だけが残った。
「あぁ……」
──脱力感が凄い。いや、力ではない、魔力が抜け落ちていっているんだ。……スキル使用のペナルティか。
……大丈夫。大丈夫だ。まだ戦える。
それからすぐに、パロッツとレイドリスさんが到着した。
「コバヤシさん!大丈夫っスか!?」
「どういう理由かは分からないが、魔力が漏出している上に、身体的にも衰弱している。雨に晒し続けるのはマズいね。パロッツ一等級騎士、コバヤシ殿を集落まで運んでくれ」
「了解っス!」
そう言えば前にもこんなことあったなと思いながら、俺の意識は、ゆっくりと暗転した。
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