第102話 スキル
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「目には目を歯には歯を、です。小林様には“飛躍”、金剛様には“剛壁”というスキルを授けましょう」
「どんなスキルなんだ?」
「スキルの発動条件から説明いたします。どちらも非常にシンプルで、前者は2分間魔力の出力を極低状態に抑え続けること。後者は、魔力総量の3分の1を消費すること。ここまではご理解いただけましたか?」
「あぁ」
「大丈夫よ」
……随分と危ないスキルだ。戦闘中に魔力の出力を抑えるという行為は、自殺行為に等しい。たとえば、戦闘に必須とも言える身体強化のストレングスは放出した魔力を覆う魔法だ。条件を満たすためには、このストレングスを解かなければならない。
金剛の方もリスキーだ。3回使ってしまえば魔力が枯れるとなると、一日に使えるのは実質2回。加えて、使うタイミングが重要になる。
「リスクまで想像できているようで何よりです。肝心の効果ですが、飛躍の場合、30秒だけ魔力総量が跳ね上がります。そうですね──凡そ元の20倍、といったところでしょうか」
「20倍!?」
「とんでもないわね!」
「剛壁に関しては、金剛様の物理と魔法の防御力を極端に上昇させ、更に金剛様の周囲10メートル以内に存在するすべての攻撃を金剛様に誘導します。あらゆる攻撃を1日に2回は防げるようになる、と考えて下さって構いません」
「おぉ!凄いな!」
「沢山の人を守れるってわけね!アタシ向きじゃない!」
「ですが、デメリットも存在します」
……これで何のデメリットも無ければまたバランスが崩れる。それはこの詐欺女神の本意ではない、ってわけね。
「そういうことです。大切な話になります、一言一句聞き逃さないでください。いいですか?」
頷く俺と金剛を見て、詐欺女神は最初に俺の方を向く。
「飛躍を発動すると、確定で魔力総量が2割減少します。この減少は不可逆です。つまり、このスキルを5回使ってしまえば、小林様の魔力は完全に喪失します」
「……なるほど」
「加えて、飛躍の効果が切れた後、30秒は動けません」
「30秒ってそんなの──」
スキル終了後にケリが着いていないと、そのまま死に直結するってことじゃないか。
詐欺女神は静かに首肯して、続いて金剛の方を向く。
「次に、剛壁のデメリットですが、これはどちらかというと注意点に近いですね。このスキルは、“行使した瞬間に金剛様の範囲10メートル以内に存在する攻撃をすべて防ぐ”ものです。従って攻撃を防ぎ終わった後に間髪入れずに高威力の攻撃を喰らってしまえば、これもまた、死に直結します。」
詐欺女神の忠告を聞いて黙り込んでしまった俺とは違い、金剛は怯まなかった。
「十分じゃない!仮に敵がアタシを余裕で殺せるくらい格上だったとしても、そんな格下に攻撃を防がれたらすっごく警戒してくれると思わない!?」
「……この世界に来てから、金剛様は目覚ましい成長を遂げたのですね」
「やぁね、褒めても何も出ないわよ!」
──いや、凄いよ、本当に凄い。普通、その切り替えは難しい。それに、敵が金剛を警戒してくれたとして、最大で3回しか攻撃を防げない事実は変わらない。その事実を知った上で今の切り返しができるなんて、並の精神力じゃ無理だ。
「まぁ、何にせよそんなスキルがあればあの魔人でも倒せる可能性はあるな。使いどころは相当シビアだけど」
「そうですね、私の見立てでは、上手く使えばアベリガレストには確実に勝てます」
上手く使えば、ね。
「何か質問はありませんか?今のうちですよ」
「そうだな……あ、スキルを発動したら確定で魔力総量が2割減るんだよな?」
「えぇ、そうですね」
「それってどのタイミングで発動になるんだ?」
魔力の出力を極低に抑え始めた時点で、とかだったら困る。迂闊に出力調整ができない。
「うわぁ、相変わらずみみっちい質問ですね」
「めちゃくちゃ大事だろ!」
「はいはい。先程も少し触れましたが、出力調整はあくまでも発動条件です。スキルの“行使”には含まれますが“発動”とは見做されない、という言い方がより正確ですね。金剛様の場合は魔力を消費した瞬間に準備が整ってしまうので、行使と発動がほぼ同時になります」
「なるほどな。それを聞いて安心したよ」
緊急事態に備えて日頃から極低状態をキープしていたとしても、それは“行使”であって“発動”にはならないわけだ。
「金剛様は何かありませんか?」
「アタシは大丈夫よ!」
「であれば、これにて話はお終いです。1週間後、頑張ってくださいね」
「当然だ」
「モチのロンよ!」
「それでは、また元気なお2人に会えることを、心から願っております」
詐欺女神の珍しく女神らしいセリフを最後に、久方ぶりの邂逅は終わった。
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