第100話 雨禊の儀
いつも読んで下さり有難うございます!
「……分からないなんてことがあると思いますか?いえ、ありません」
一体誰の影響を受けたらこんな七面倒な性格になるのか不思議でならないが、武器の構えを解いた様子から察するに、誤解も解けたようだ。
「随分と早い到着ですね、レイドリスさん」
「コバヤシ殿こそ、よくここが分かりましたね。おかげで助かりました」
「共鳴石の光が強くなる方へ走っただけですよ。途中で消えてしまいましたが、その時にはお2人の魔力が感知の範囲内にあったので、すぐに分かりました」
「ひえ~!流石っスね。感知範囲が最低でも2キロあるってことじゃないっスか」
「凄いな……。私と同等か、それ以上だ」
へぇ、測った試しがなかったから知らなかったけど、俺の感知範囲ってそんなにあるんだ。
「さっきから何を話している!説明しろ!」
「あぁ、すみません。大した話ではないんで──」
額に雨粒が一粒、二粒と当たり、そして数え切れなくなる。
「雨だね」
「うひゃー!どしゃ降りっス!」
「チッ、よりによって今か!」
風魔法で一帯を囲むドームを形成して簡易的な雨避けを作成した直後、ヘレが集落の方へ駆け出した。
「ちょ、何処に行くんですか!」
煩わしそうにこちらを振り返るヘレ。
「──雨禊の儀だ。貴様、何も知らないのか?」
そりゃあ何も言われてないからな、なんて返しても不毛だ。ともかく、今は2人を連れて集落に戻った方が良いだろう。
「レイドリスさん、パロッツ、説明は道中でします。一旦着いてきてください。こちらです!」
「ほぉ……」
「き、器用っスね」
雨避けの風魔法ごと移動したら酷く驚かれた。2人に感心されるのは素直に嬉しい。
ヘレの後を追いながら、儀式について知っている限りを話した。とは言っても、知っていることなんて殆どないから話はすぐに雑談に変わった。
「そう言えばパロッツ、一体どんな修行をしたんだ?」
「大したことはしてないっスよ!がむしゃらに頑張っただけっス!」
「それで一等級騎士に昇級できるのが、彼の凄まじいところだね」
「一等級騎士!?確かまだ入って二年目ですよね!?」
「そう、歴代でも上位を争う早さだ。パロッツ君は我が王国を代表する騎士になるだろうね」
「止めてくださいっスよ。恥ずかしいっス」
召喚された当時は四等級騎士だったのに……。俺なんかよりよっぽど凄い、自分事以上に誇らしくて、嬉しい。
「あ、見えてきましたよ!魚人族の暮らす集落です!」
「あれが……」
「ん?人が一ヶ所に集まってないっスか?」
「そうだな、そこで儀式が行われているんだと思う。ニャラさんの魔力もその中に感じるからな」
ヘレが俺らに構わず先に行ってしまったから只の勘でしかないけど、十中八九合っている筈だ。
「うへぇ、数百メートル離れた集団から特定個人を識別できるんスか?」
「引くなよ!」
「私にもちょっと厳しいかな。少なくとも、魔法を操りながらできる芸当じゃないね……」
「レイドリスさんは保有魔力が多過ぎるんですよ!」
100リットルの水が入った容器から1ミリリットルずつ出すのが難しいのと同じノリだ。これだけの魔力があって、ここまでの魔力制御が可能なレイドリスさんの方が化物染みている。
「コバヤシ殿だって相当だろう?」
「皆さん、見えてきました。何やら厳かな雰囲気です、静かにしましょう」
「あ、逃げた」
うるさいぞパロッツ。
「コバヤシ殿、部外者である私やパロッツが近付くのはマズいんじゃないかい?」
「あ、それもそうですね。少し離れたここで終わるのを待ちましょう」
「承知したっス」
雨禊の儀は集落の中心──つまり、長であるニャラさんの家にほど近い位置で執り行われていた。
住民たちは気持ちよさそうに雨に打たれながら、輪になって2人の魚人を囲んでいる。1人はニャラさん。もう1人は、魚人族の青年だ。地面に膝を突き、ニャラさんから首飾りの様な物を受け取っている。
青年が首に飾りをかけて立ち上がると、住民たちの歓喜の声が大きなうねりとなってここまで届いた。
暫くの間は青年がもみくちゃにされ続けていたが、今しがた儀式は終わったようだ。三々五々に住民たちが散って行き、輪の中からリリさんがこちらに向かってくる。
「あの方は?」
「リリさんといいます。長のニャラさんの配偶者ですね。かなりお喋りなので、ビックリしないでください」
「確かに、見るからに元気そうっスね」
「コバヤシちゃーん!その人たちが助っ人さん?1人じゃなかったの?にしても随分と強そうね!こりゃ頼もしいわ~!さ、取り敢えず家の中に入って!ウチのニャラにも紹介してあげて!」
「色々ありまして、2人とも助っ人です。彼らがいれば百人力ですよ!分かりました」
「コバヤシ殿、彼女は、歓迎してくれている……のかな?」
おぉ、あのレイドリスさんが困惑している、レアな表情だ。
「はい、安心してください」
「とんでもないお喋りさんっスね」
「ずっとあの調子だよ。頑張って慣れてくれ」
「了解っス」
──あ、マズい。
「殿下!危ないっス!」
不敬にも王国の第一王子に襲い掛かった“全筋”の拳をパロッツが受け止め、その衝撃ではじけた水飛沫が顔にかかる。
「レイドリスさん、あの」
「やるじゃ──」
……間に合わなかったか。素早く回り込んだレイドリスさんが手刀で意識を落とした。実に鮮やかな動きだった、思わず止めに入るのを忘れてしまう程に。まぁ、そうでなくても止めなかったけど。
「……もしかして、お仲間なのかい?」
「いいえ、まさか!と言いたいのですが、残念ながら」
本当に、残念ながら……。
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