第99話 到着
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「だぁあああ止めだ!」
ぬかるんだ地面に何の躊躇いもなく倒れ込むヘラ──元より体は泥だらけになっているので、躊躇う意味は無い。
「娘っ子はもう限界らしいぞ?お主はどうじゃ?」
「……止めときます。僕も疲れました」
いくら動いても“反動”は無いだろうが、だからといって精魂尽き果てるまで動く必要も無い。何より陽が沈み始めている。地面に寝転がるヘラの顔は勿論、数メートル先に立つピピさんの顔もよく見えないようじゃ、筋肉の動きなんてとてもじゃないが分からない。
「なっはっは!そうじゃな。我が輩もちと疲れたわい」
「ちょっと、ですか」
虚勢の類などではなく、本心だろう。あれだけ俺らを転がしておいて、ピピさんの服には殆ど泥がかかっていない──正真正銘の人外だ。
「そう落ち込むでない!お主の才があればあと1週間、いんや、4日も鍛えれば我が輩を超えるじゃろ」
「買い被り過ぎですって」
「勘違いしてはならんぞ。こと体術に限ればそう易々と越えられる我が輩ではない。しかしじゃ、お主には我が輩を上回る魔力量と制御技術がある。目で追えるようになれば、我が輩を相手取るには十分なレベルのな」
「そうだと良いんですけどね」
「まったく、自信は過不足なく持たんか。このピピが認めておるのじゃぞ?」
「そうですね……。そうします」
「うむ、では帰るとするかの」
「はい。ヘラさん、帰りますよ!」
「明日はぜってーブッ殺す」
「殺しちゃダメですよ。そもそも無理でしょうけど──危なっ!」
「避けんな!」
「無茶苦茶だ!」
「なっはっは!早速稽古の成果が出ているようじゃな」
確かに!と一瞬納得しかけたものの、今日身に付けた技術はこんなところで発揮するものじゃないし、いずれにせよこの全筋は手が早すぎる。
「ババア!笑ってんじゃねぇ!」
「おぉ危ない。泥んこが付くところじゃったわい」
「なんで当たらねェんだクソ!」
「はいはい、また明日頑張りましょう」
明日もあるかどうかなんて知らないけど。……明日か、遅くとも明日の夜には、最強の助っ人が到着する。それまでに災厄が訪れないと良いんだけど。
十中八九大丈夫だ、あの詐欺女神から一向に報せが無い以上、アイツが単騎で乗り込んでくるパターンを除けば、災厄が来ることは無い。
第一に、今回の災厄は“複数の強敵”だ。であれば、その可能性は100%潰れる。うん、間違いない。
「大丈夫、心配ない」
「何の話じゃ?」
「いえ、晩御飯は何だろうなって」
「なっはっは!リリの飯は美味いからのぉ」
「えぇ、ちょっと食べ辛いですけどね」
「なんじゃ、魚は苦手か?」
そういう問題じゃないんだよな──とかどうでもいいことを話しつつ、ちょっかいを出しては泥を上塗りするヘラを眺めながら集落に戻った。
家に戻ってすぐ、リリさんに泥だらけの姿を笑われた。ブチ切れたヘラが突っ込んだのを捕え損ねた時は芯から肝が冷えた。
流石のアイツでも手加減というものを知っているらしく、ちゃんと空ぶっていた。
セリンさんの「湿地に埋めて囮にでもした方が良いんじゃないか?」という言葉に冗談抜きで悩んだ瞬間だった。
その後は体に付いた泥を流し、ご飯を食べ、早々に床に就いた。稽古の疲れもあってか、気絶するような速度で眠りに落ちた。
「小林ちゃん、起きて。小林ちゃん」
「ん?どうした金剛──うわっ、眩しっ」
「アナタのポケットが光ってるのよ……。しかも、徐々に光量が増してるわ」
「なんなんだ一体……!ちょっと出てくる」
おいおいマジか!まだ1日と半分ってとこだぞ!
「あらコバヤシちゃん、もう朝ごはんできるわよ?」
「すみませんリリさん!すぐに戻ります!」
家を飛び出して南西──恐らく王国がある方向に走ると、光は更に強くなった。期待が確信に変わる。
魔力感知範囲を平面的に最大限拡げて駆けること10分後、あれだけ光を放っていた共鳴石から光が消えた。一瞬驚いたものの、既に“彼ら”は知覚範囲内だ、もう道標は必要ない。
更に進むこと数分──見つけた。
「お前ら一体何者だ。迷いなく集落に向かうなど如何にも怪しくはないだろうか、いや、怪しい」
相変わらず面倒臭い喋り方をしているヘレから視線を外し、こちらを見る最強の助っ人。
「あぁ、助かった。言葉が通じなくて困っていたんだよ、コバヤシ殿」
続いて、こちらに向かって大きく手を振る最高の助っ人。
「お久しぶりっス!また強くなったんスね!」
完全に予想外、超を何個重ねても足りないくらいに心強い助っ人のお出ましだ。
「パロッツ!!」
「やはり貴様の仲間か」
「お前こそどんだけ強くなったんだよ!」
共鳴石に魔力を込めてから、約1日半。パロッツはレイドリスさんと一緒に来た──そう、一緒にだ。つまり、途轍もない速度で馳せ参じてくれたレイドリスさんの移動速度に追い付ける程には、パロッツは強い。
「おい!ここで無視など有り得るだろうか!いや、有り得ない!!」
こんなに嬉しいことがあるだろうか、いや、ない──おっと、変な喋り方がうつってしまった。いい加減放置するのは可哀想だ。紹介してあげようじゃないか、王国の“勇者”と、自慢の友を。
「すみません、ヘレさん。彼らは味方です。どれくらい頼もしいかは、あなたならもう分かっていますよね?」
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