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会話の見出しとフック

作者: 作家をめざしている不動産屋

行きつけのボードゲームバーは、神楽坂にある。そこは都内のボードゲーム喫茶で働いていたお方が開いた、念願の自分のお店なのだ。


「店長、じゃなかったオーナー」

前のお店では店長を務められていたせいか、今でも彼のことを店長といってしまう。しかし彼はそういう時に、どっちでもいいですよ、という笑顔と共に客である俺に接しているのだった。


最初、オレはこのお店のことをボードゲームバーと書いた。このお店には、バーカウンターも備わっており、誰も客がいないときにはカウンター席に座りながらオーナーに酒を頼む形になる。(まるでバーに行った気分だ!!)


ツキ「ボードゲームの小説なんだけどさ・・・・」

どうやら自分の作品についての感想を聞かれそうだな、と悟ったのだろう。オーナーは、機先を制する形でこう話題を振ってきた。

オーナー「ツキさん、こういう作品知ってますか?なんか・・・。スコットランドヤードってあるやないですか」

ツキ「あぁ、あの4人の刑事がロンドンに潜伏する犯人を追い詰めるゲーム」

オーナー「ええ、ええ。そんでそのボードゲームがテーマなんですけどね。」


そのゲームでは、ロンドンを表すボード上の何処かに犯人が潜んでいる。しかし何処なのかまでは解らない。だから4人いるプレイヤーは、知恵を絞って犯人の潜伏場所をあぶり出さねばならないのだ。ただし24ターン以内にというのがポイントである。

オーナー「この小説には恋愛も絡んでて。24日以内に相手に告白できれば勝ちみたいなのもあるんです。」

恐らく24日以内云々という所と、スコットランドヤードの最大ターン数というのが韻を踏んでいるのだろうな、と感じた。


正直、恋愛がどうのこうのと言われた時点で興味が薄れたが、まぁ本になっているくらいである。今の俺にないものがあるに違いない。早速kindleで購入した。正直、恋愛モノは苦手なのだが・・。


・映画談義

オーナーの話はまだ続く。

オーナー「それからTENETという作品も・・」

ツキ「あぁ・・。見た見た。MEMENTを撮った人が作った奴ね」

オーナー「そのMEMENTって知らないんすけど」

MEMENTというのは、記憶喪失の男を主人公にした作品である。主人公は脳に障害を負っているから5分前までの記憶しかない。

https://filmaga.filmarks.com/articles/51063/


ツキ「普通映画って、こう・・・」

そういってツキはノートに長い矢印を左から右へ引いていく。

ツキ「時系列順に出来事が起きてくでしょ?MEMENT違うの。5分ずつぶつ切りになってて、それが時系列と逆順で後ろから映し出されてくんだ。」

今後はツキは矢印を等間隔に区切る。そしてぶつ切りになった各部分を後ろから指していく。

ツキ「映画は最後の5分間から始まる。その次にはその前の5分間。映画の最後になって、初めて時系列では最初の5分間の部分が見れる。漸く物語の謎が明かされるんですよ。だから2回くらい見ないとよく解んない」

クリストファー・ノーラン監督は、見ている人間の脳をかき混ぜるような作品を作りたがる。するとオーナーもこう応じた。

オーナー「タランティーノ監督だったかな。『パルプ=フィクション』って作品なんですけどね。」

https://www.cinematoday.jp/page/A0006435


オーナー「複数の登場人物が現れて、それぞれが1チャプターずつ描かれていくんですよ。そうして物語が徐々に核心に収束していく」

ツキ「ああ、大きな絵の一部にスポットライトが当たる。次はこの部分、その次はこの部分、最後に絵の全てが明かされるっていう・・」

オーナー「そうですねえ。あとTIME LEAPERってのもありますね。何回も同じところを繰り返すやつ」

ツキ「ああアニメのシュタインズゲートみたいなのね。」

オーナー「ああいうのの走りだと思いますよ」


・異世界転生モノと転職について

オーナーとの話は、技術と社会の関係にも及んだ。

ツキ「最近は技術史の本とかも読んでますけどね」

オーナー「どういう本ですか?」

ツキ「優れた技術だからって、社会に受け入れられるとは限らないって本。社会が求めてないと、どんなに優れた技術でも受け入れられない」

「テクノロジーの世界経済史 ビル=ゲイツのパラドックス」

https://www.amazon.co.jp/dp/B08JCGNK7J/ref=dp-kindle-redirect?_encoding=UTF8&btkr=1


例えば蒸気機関で動くコンピュータなんぞがいい例だ。スチームパンクというジャンルが、昔SFの世界ではやったことがある。(サイバーパンクをやり尽くした後の徒花という趣がないではない)

確かにビクトリア朝時代のイギリスでも、蒸気機関とゼンマイ歯車で動く器械式計算機を作れないことはなかったのだろう。だが当時の社会にそんな需要はなかった。


或いは蒸気仕掛けで動く船。そんなものが実用化されたら、既存の帆船を作っている連中や、高い賃金で陸上輸送している連中が失業してしまう。するとまずは政治権力に働きかけて、新しい技術を潰しに掛かる。


だから結局、時代の要請に合った、そして既存の枠組みに押しつぶされない力強さをもった技術だけが技術革新を成し遂げる。そんな感じの本だ。ちなみにもうひとつ、これは2ちゃんねるの元管理人、西村博之さんが推薦していた本。

「コンテナ物語―世界を変えたのは「箱」の発明だった」

https://www.nikkeibp.co.jp/atclpubmkt/book/19/P89930/


こちらはとあるトラック運転手がコンテナを着想、発明、普及させていくまでを描いた本。それまでの沖仲仕と呼ばれるとてつもなく気の荒い連中が、コンテナ普及を全力で潰しに掛かってくる過程も描かれている。どちらもとても読み応え十分だ。


ツキ「これって今流行りの異世界転生モノにも通じるんですけどね」

オーナー「どういう事ですか?」

ツキ「異世界転生モノってさ、チートみたいな技術でもって大活躍って話じゃん?単純化すれば。それって

『俺は今、この職場では評価されてないけど、本来はこんなんじゃないんだ~~!!転職したら本当は俺はもっとやれる筈なんだ~~~!!!』

ていう皆の想いが込められてるんだと思うんだよね」

ツキ「でもよくよく考えてみると、異世界に転生して自分がその世界では特殊な能力もってるからって、その世界で活躍できるとは限らないよ?みたいな」

ツキ「でもそういう所をギチギチにして、異世界に転生したけどやはり失敗しました、みたいなリアルな小説書いてもやはり売れないんだろうな~~~~」


ツキ「古代中国を舞台にした小説を今も書いていてね。その小説も技術が社会を変えていく過程を描いているんだけど。そういうのの肥やしとしても、技術と社会の関係とか読みたくなるんですよ」

オーナー「へえ。どういう作品書いてるんですか?」


こういう風に聞かれると、自分が今書いている小説の話をせずにはいられなくなってしまう。古代中国を舞台とした超能力者たちの話。


ツキ「大体半径10kmくらいなんだけどね。いや、俺の作品の話。半径10kmまで、テレパシーが届く世界なんだよ

「そういう連中が千人に一人くらいの確率で普通にいるんだよな。まぁ理系の技術職みたいな感じ

「そんで、そのテレパシーってのがまた、ショボクレたもんでさ。トンとツーの2種類しか届けられないんだ。モールス信号。つまり、古代中国の世界にモールス信号だけを呼び込むみたいなもんで・・・」


その時の俺は気が付かなかったが、典型的なオタクの喋り方だと思う。自分に興味があることを延々と話し続け、相手の反応は無視。まぁよくもこのひとは耐えているものだと思う。あるとき息継ぎをする。その絶好の間をついて、オーナーからこの様な指摘が入った。


オーナーとの「ツキさん!(少し大きめの声で注目を引きつける。いいやり方だ・・・)ツキさんの話は、見出しがないんです。見出しがないまま微に渡り細を穿つ話を繰り広げていくから、聞いてる方はポカンとなる。」

オーナー「ツキさん理解力あるから(こうしてフォローを入れておくのは、上手いやり方だと思う。次から真似しよう)、ドンドン一人で話が先に突っ走っていって、他の人置いてけぼりってことよくありませんか?」


返答はこうなる。

1,友達が少なく、そもそも他人とあまり会話する事がないので、そういった事を意識しておりませんでした。

2,ボードゲームの説明が下手くそだという自覚はあります。しかし何処がどう下手くそなのかが理解出来ていないので、説明が下手くそな状態のままです。


・会話に見出しをつけろ

オーナー「まずボクだったらね。見出しからザックリと説明していくんです。それからすこしず~つすこしず~つ、具体例に落としていく・・・」

オーナー「何ていうのかな、地図上から見下ろす感じですかね。大雑把にこういう感じで、そんですこしずつ詳しく説明していく。」


耳が痛くなる指摘は続くのである。

オーナー「別にね、芸術家みたいな、

『俺の作品を誰も読まなくても、俺は書き続けるんだ~~~~』

というんならそれもいいですよ。だけれども、他の人にも興味を持って貰いたいなら見出しつけた方がいいとちゃうかな・・?」

オーナー「まぁツキさんのプロモーターみたいな人がいればいいけど、今いないじゃないですか。まぁ小説の世界は違うのかな?」


ツキ「いや、それは確かにそうですよ。小説の世界では、梗概っていうのが大事らしいんですね?あらすじを全部示した要約。1000~2000文字くらいらしいんだけど」

オーナー「ほうほう」

ツキ「小説に応募しても、その応募された小説に目を通す編集の人たち忙しいから。」

オーナー「まぁそりゃ、年間何千、下手すると1万とかの作品を見る人たちですからな」

ツキ「だからまずは梗概に目を通すらしいんですわ。その梗概がつまらないと、駄目。」


俺もこの事を知るまで、梗概なんて馬鹿にしていた。だが今は考えを変えている。なんたって、編集さんたちにしてみりゃあ、まずは彼の時間を奪うことなく文章のあらましを知ることが大事なのである。

中には梗概はド下手だけど、小説の中身は一級品という作家だっているのかも知れない。だが藁の中からピンを探すようなそんな手間ひまは、到底掛けて居られない。それよりもキチンと梗概を書く技術を身に着けてくる連中からリクルートした方が遥かに効率的だ。


・フックと流行り

このオーナーは、読者の注目を引きつける取っ掛かりという意味で、フックという言葉をよく使う。

オーナー「やっぱりフックが何処にあるかって話なんだと思うんですよね。舞台が古代中国って・・。なんてんだろう。あんまり受けは宜しくないと思うんですよ」


そうなんだろうか?

だが確かに古代中国が大好きっていう人間は、余り多くはなさそうな気がする。ファンタジーといえばなんちゃって中世ヨーロッパと相場が決まっており、そこから外れるにはそれなりに読者の注目を引きつけるものがないとキツイ。


オーナー「フックとして、例えば美少女を出すとかはありますね。美少女じゃなくても、可愛い女の子ってかヒロインだすとか」


おっさんしか出さない物語というのは自然とむさ苦しい陰鬱なものになるんだろう。それがいいという人は相当な偏屈者だ。そこで俺はノートに大きなピラミッドを書いた。ピラミッドの頂点近くを丸で囲む。


ツキ「この、小さな小さな層。ここだけに読んで貰えればいいなら、まぁフックも梗概とかも要らねえんだろうが・・」

オーナー「ええ、こういう人たちはストーリーだけで入りますからね。フックとかそういうの要らない。」

ツキ「要するにマニアっすね」

オーナー「ツキさん、俺聞いただけど。こういう人たちってアーリーアダプターっていうそうですよ」

本当に言葉使い一つで印象とはガラッと変わるものだ。

オーナー「それで、アーリーアダプターを追っかけてる層がまた居て、その追っかけ層が見始めると、初めて普通の人たちも見始める」

今度はピラミッドの下半分を丸で囲んでみる。

ツキ「普通の人、ここに届けたいんだよね。そのためには、梗概とフックか。」

さしあたって、古代中国を舞台とした俺の小説で考えてみる。


古代中国という舞台は適切なのか?ファンタジーでよくある、エセヨーロッパじゃ駄目なのか?

エセヨーロッパっぽい舞台であれば、読者にも馴染み深い。どうしても中国っぽい舞台が欲しいなら、国名が漢字一文字の中国らしい架空の国でもいい。(そういうジャンルも、あるにはある)


そもそも歴史考証にこだわる必要なんてあるのか?

拘るのは、マニアだけだろう。大多数の人間は、18世紀にならないと登場しないモノが古代や中世にあっても気づきもしないというものだ。(勿論、そこに拘るというのも一つの方向性である)


それに異世界転生という今の流行りに即して、現代日本の大企業に生きているサラリーマンがその架空世界に飛んでいくというのはどうだろうか?

或いはヤマザキマリ先生の「テルマエ・ロマエ」みたいに、物語の舞台を行き来する形でもいい。


更には、ヒロインを登場させられないものか・・?

おっさんばかりではむさ苦しい。


1600字くらいの梗概、可愛らしいヒロインを登場させ、普通の人でも

『お?』

と思わせる設定と舞台。そんな感じで再構成してみるとするか・・。

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