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北白川・からくり御殿の殺人金庫 ~素人探偵・鴨川浮音、鋼の怪物に挑む~  作者: ウチダ勝晃


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4/5

真犯人はお前だ!

 三日後、あらためて明石家を訪ねた浮音は、ようやく暗号が分かったから、といって、豊丸の前で金庫のダイヤルをそっとまわし、開けてみせた。

「ありがとうございます。おかげで、死んだ弟の無念も晴らせます……」

 開いた扉を前に、豊丸は浮音の手を固く握り、目に薄く涙を浮かべている。

「いやいや、お役に立てて何よりですわ。なあ、佐原くん?」

「ほんとうだねえ。あ、それより明石さん、中身をご覧にならないんですか。僕、いったい何が入っているのか気がかりでして……」

 開襟シャツの下にうっすらと汗をにじませる佐原に、それもそうですな、と、豊丸は中扉を開け、前もって用意しておいた鍵で引き出しの錠をおろし、次々と中身をだしていった。中から出てきたのは古い手紙や、戦前に撮影されたらしい写真やそのネガ、明石家に関する取材記事などが載った雑誌や新聞の切り抜きといったものばかりだった。

「さすがに、この中には金銀財宝の類いは入っていませんでしたな。貴重なものではあるが、こんなシロモノのために命を落としたのだから、弟はつくづく、可哀そうなやつです……」

 金庫の扉に手をかけたまま、豊丸は死んだ弟のことを悔やんでうつむく。ところが浮音はそんな豊丸へ、

「おやおや、それはどないでっしゃろ? もしかすると、すでに取り出されたものがあるかもしれまへんえ。例えば、志摩の黒真珠とか、十四カラットのダイヤモンドとか……」

 と、妙なことを言いだしたではないか。

「なんです、あなたおかしなことをおっしゃいますな。この通り、中には金目のものは何もないんですよ?」

「ところがどっこい、それにしちゃあちょっとおかしなことがあるんですなあ、この金庫。明石さん、ここんところ、見てもらえます?」

 ペン型の懐中電灯で、金庫の扉の内側のある箇所を照らすと、浮音はほら、ここんところと指し示す。見れば、そこには素手でさわったときについたらしい、親指の指紋がべったりとついている。

「明石さん、実は僕ら、この前来た時にもうこの金庫を開けていたんです。そのときにはもう、ここに指紋があったんですけどね」

 有作がシャツの胸ポケットから、ビニール袋でくるんだL判の写真を二枚出して豊丸へ見せる。一枚は、開け放たれた金庫の扉の内側、調整用の時計とカレンダーを浮音が指さし、片方の手に「七月二十九日 解錠す」と書かれたメモを持っている写真。そして、もう一枚はせんに浮音が指摘した箇所に、同じメモをそえて撮影された写真だった。

「この指紋、油のつき方や錆の浮き具合がいやに新しいものだから、写真に撮って、警察で調べてもらったんです。そうしたら、最近警察の取り調べを受けたある人の指紋と、見事に一致したんです。カモさん、見せてあげて」

 有作からバトンを受け取った浮音は、懐から一通の封筒を出し、中身を明石の鼻先へ突き付けた。それは、科捜研から届けられた鑑定書で、内容は金庫の内側で見つかった指紋と、先の和丸の死亡事故の際に念のためにと採取された豊丸の指紋が九割がた一致した、という内容のものであった。 

「な、なんだ君たち、い、いったい、何が言いたいんだね」

 立ち上がった豊丸はわけもわからず、二人を前に声を荒げる。だが、浮音も負けじと声を張り、

「とぼけるんやないっ! あんたが事件の前に、大阪の宝飾商に真珠とダイヤを売ったのは、とうの昔に府警が調べてわかっとんのや。添えられた鑑定書は昭和三十年ごろの古いもんで、店員がよう覚えとったんやと」

 と、下駄で三和土を踏みながら明石へ詰め寄る。

「明石さん、あなた、金庫の解錠キーをご存じだったんじゃないですか。時期を見て、真珠を独り占めしようとしたあなたには、相続権の半分をもつ弟さんが邪魔で仕方がなかった。そうじゃありませんか?」

 有作にも囲まれて、豊丸はすっかり勢いを失い、真っ青になっている。

「おおかた、あらかじめやり方を教えておいたあんたは、弟さんが自分の留守の間に開けるのを見計らって、中の時計をいじるかなにかしたんやろう。そうでもなきゃあ、文字盤の近くにあんな指紋は付かへんし、和丸さんは串刺しにもならん。旅行中という立派なアリバイもあるから自分は犯人候補からは消える……。よう考えたもんやな、明石さん。だが、ちいと相手が悪かったなあ……?」

 どこからともなくパトカーのサイレンの音が近づいてくるのに気づき、我が身の運命を悟った豊丸は、すっかり、お見通しだったんですな、と力なくつぶやいた。

「あんまり計画が上手く運んだもので、だんだんと怖くなってきましてね。――あなたのような快刀乱麻の名探偵に、自分のしでかしたことを裁いてほしかったんですよ」

「なるほどねえ」

 豊丸の口から自分たちが呼び出されたわけを知ると、浮音はしばらく考え込んでからひざを打ち、

「――ま、あとのことは一服つけてから考えましょ」

 と、懐から出したピースの箱を豊丸へ差し出てから、浮音は下駄をひきずり、そっと豊丸を土蔵の外へ連れていった。 

 遠くの景色が歪んで見える真夏日、北白川を見下ろす瓜生山の林から、夕暮れ時を告げるようにやかましく、蝉の鳴き声があがりだしていた。

 

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