秘密兵器
「うへへ、まずは武器を出してもらおうか」
軽薄な口調とは裏腹に、圧倒的優位を握ってもなお、男は慎重さを捨てなかった。首筋に当てられたナイフの冷たさは、付かず離れず、あたしの命を一瞬で刈り取れる距離に固定されている。完全にミステイクだった。油断した相手など考慮に入れる必要もない――本当に油断していたのはどちらだったか。
男の指があたしの身体をまさぐっていく。フードの中、胸、腹。元より武器など隠されてはおらず、だから戦況が変わるような行為でもないのだけれど、どうにも逆転の芽が潰されていくような感じがする。
「嬢ちゃん、喧嘩のコツは売る相手を選ぶことだぜ」
いかにも三下の無法者といった台詞と共に、男の指があたしの下半身に伸びた。
と、その瞬間、男がぴくんと震えた。動揺。あたしはすかさず身を屈めて、拘束から離脱する。そのままひじ打ちで隙を作り、一歩二歩とたたらを踏みながらも距離を取る。
振り返る。
男の対応には九十点をくれてやってもよかった。なぜなら、彼はすでに攻撃態勢を取っていたから。素人離れした立ち直りの速さと言っていい。
「クソガキが!」
けれども、プロの域ではない。
突き出された刃の脇をすり抜る――そしてあたしは、ぐっと拳を握り込むと、無慈悲な一撃をくれてやった。男の急所に向かって。
「お返しだ」
嫌な感触だった。
痙攣の後、男は仰臥するように倒れた。急所――そう、あそこは急所という他ない。
あたしはそのことをよく知っていた。
「そのまま返すよ。素人喧嘩は素人にだけ売るんだね」
命まで取る必要はないだろう。あたしより女の子になってしまった男を残して、あたしは路地裏をあとにするのだった。




