第八話 「RDDの使者」
教会の地下室、薄暗い照明に二人の人間が照らされている。タイル張りの壁のいたるところに赤い染みがあった。
「――ローリー・“ボーンヘッド”・フリーストーン、警戒リストの片割れがこんなにも早く捕まるとはな……」
喘息持ちの彼は異常なほどに咳き込んだ。口から数滴の血が流れる。
口に血の跡があるのは手錠で繋がれたローリーも同じだった。だが、ローリーに関しては擦傷などの外傷も多かった。
「お前の狙いは、何なんだ……?」
「んー? 立場が分からないと死ぬぞ? それともママにモノの言い方を習わなかったか? 何人もママがいてそれかよ!?」
「――黙れッ!!」
ローリーは金属棒で頭を殴られ、電気の流れた棒を腹部に突き立てられる。
それでもローリーは苦痛に屈しなかった。奥歯を噛み締め、耐えた。汗が止まらない。
「やれやれ、まだ本題に入れていないのに……」
彼は木製の椅子を持ってきて座りこむ。それは時間ならいくらでもある、ということに他ならなかった。
「どうして軍がブラインドホークを連れていた?」
「知るかよ……知らねえことで拷問を受けてんのか俺はよォ……」
彼は椅子ごとローリーの目前に迫る。
「お前はフォート・ゼンチでも一番の階級じゃないか。なんだ? 上がいるとでも?」
彼はローリーを覗き込んだ。まるで眼を通して頭の中を覗かんとするばかりに。
――ローリーは内心、焦った。
彼女の存在に勘づかれれば、フォート・ゼンチが目標になることは間違いない。そしたらみんなが死ぬ。
不意に目を逸らしてしまった。
「……んっふっふ。“ボーンヘッド”だなんてよく言ったものだ。だが、それが本当なら、それはまさか――」
「――サムだ。サムが裏で雇ったんじゃないか? 馬鹿な俺に知らせないで。あいつならやりかねない。マジだぜ」
「いや、ない。急に饒舌になるなよ。お前が決して逆らうことのできない存在がゼンチにいるんだな、確信したぞ。時間がなくなった」
「待て!!」
ローリーの制止には聞く耳を持たず、彼は部屋を出ていった。
残された彼は唇を噛み締め、叫んだ。
「クッソオオオオ! またやっちまったア!!」
次に向かったのは、地下牢だった。この教会は戒律に厳しいらしく、一度でも掟を破れば檻の中なんだという。
最大の教会なのだから原理的な教えになるのも頷けるものだ。
そこで鎖に繋がれているのは、RDDの掟を破った鷹である。
湿っぽく、埃っぽくもある地下牢に入った瞬間、彼は咳き込む。
「アルバートさん……どうして…………どうしてこんなことを」
テッドが頭を上げた。檻の隙間から望む顔は疲れきっている。
「『どうして』はこっちのセリフさ。あの忌まわしい輩と馴れ合うのを許可した覚えはないぞ。人質でもいるのか?」
「いえ、そういう訳では――」
「――そういう訳だ! ゴホッ、ゴホッ、んん! アイツらは罪のないRDDを狙ってきたんだぞ。分かっているだろう」
あの爆破事件のことだ。
「……はい」
「じゃあ何故なんだ。脅されたのならそう答えればいい。見たところ、お前は手負いだったのだろう」
「部下の手当てのために……」
今思えば、完全に脅しだ。対等な話し合いはしていない。
だが、こちらにも利益がある話だったことには間違いない。
「……そうか。なら、俺とお前らでブラインドホークを取り戻してやろうじゃないか。なに、お前の弱点は保護済みさ」
それまでじっとしていたテッドが反応した。立ち上がり、繋がれた鎖が許す限りアルバートに近づく。
「――まさか……妹を、ですか!?」
「ああそうだ。何も心配はいらない」
頬をにやけさせたアルバートが言った。